遠遊①
電車から降りた私を最初に出迎えたのは、広大な構内。
流石は東部の中央駅、と改めて思う。
スマホで勝手に入れられたグループに送られてきたメールを確認し、集合場所へと歩みを進める。
たくさんの人々とすれ違っていく。
だが、私に向かって嫌な顔をする者はいない。
全てが全て、一枚の光板を眺めながら、無表情を貫いていた。
その時々垣間見える無機質さに異形とは違う不気味さを感じる。
……もしこいつらの前に、魔法少女の姿で立ったらどうなることか。
私はフンと鼻を鳴らしながら、その中を堂々と歩き続けた。
やがて、駅前の広場に着く。
そこには既に人影があった。
「あ、中西さん、随分早いんですね」
そう声をかけてきた人影は、この外出の発起人こと赤坂だった。
制服と変わらないような、真面目さの印象が強い服を着ていた。
「お前に言われたかないな。まだ30分前だぞ?」
「何事も素早くが私のモットーなので」
赤坂が自信気に言う。
「あっそ」
私は近くのベンチにドカリと座り、ポケットに入れておいたガムを一つ口に放り込んだ。
同時に、少しづつ寒くなってきた空気を吸う。
そこから20分程度を経て、次に来たのは田中だった。
やけに大きなパーカーを着て、小さなバッグを背負っているために、この上なくセンスがないように感じる。
「や、やっほー……二人とも早いんだね」
「えぇまぁ」
田中が相変わらずビクビクとしたまま、私とは別のベンチの端にちょこりと座った。
その次にやってきたのは住吉。集合時間通りだった。
「うぃーっす。ちゃんと来たで~」
やけに乗り気な彼は、青のシャツを綺麗に着こなし、カジュアルさを与えてくる。
ファッションセンスという面では中々優れていると言えるだろう。
「何や、生田はまだ来てないんか? もう遅刻やで」
「まだ来てないですね」
赤坂が辺りを見回すも、そこに生田の姿はない。
来るのかが疑わしくなってきた時、不意に田中が声を上げた。
「あっ赤君はいつも10分遅れるよ……」
「何やそれ……」
住吉が素っ頓狂な声を上げる。
私としても、これ以上待つのは御免なのだが。
苛立ちを抱えて待つこと十分、漸く生田は姿を現した。
ジャージに大きな鞄を背負い、漫画を読みながら歩いて来る。
「何だあれ、金次郎か何かか?」
住吉が眉を顰めながら言う。
中性的な見た目で無駄に美しく見えるのがまた妙に腹が立つ。
生田は漫画を鞄に直しながら、私達を見る。
「……着いた」
そう白々しく言う生田に、住吉達は悲しくも呆れるしかなかった。
「遅刻やで遅刻。分かってんのかいな?」
少しの咎めを含めて住吉が言うと、生田は嫌々し気な表情を浮かべた。
「少しくらいいいだろ、別に。一々細かいな」
「はぁ……もうええわ。さっさと出発しよや」
呆れた住吉は生田との話を諦め、出発しようという。
だが私はここで聞かなければならないことがあった。
「出発するっても、どこ行く?教えてもらってないんだが」
そう言いながら、携帯画面を見せる。
そこに映っているのはチャット画面だ。
その画面から、住吉から集合場所と時間だけが送られており、行先について言及されていないのが明白だった。
住吉は苦笑いしたが、すぐに誤魔化すように声を張り上げた。
「そりゃあ遊ぶんやったらアミューズメントパークやろ!」
対して、生田と私が首を傾げた。
「遊園地?この都市にそんなのあったか?」
生田が視線を上げ、記憶を探る様子を見せる。
だが何も言わないことから、一向に心当たりは見つからないようだった。
かく言う私にも同じことが言える。
その様子を見た住吉が自慢げな表情を浮かべる。
「あるんやで~中央部にな!」
そう元気に叫ぶと、隣で赤坂がボソリと呟いた。
「……小規模ですが」
「余計な一言や。ま、取り敢えず行こうや。話は電車でやろうや」
住吉が先陣をきって歩き出すのに従い、赤坂達が続いていく。
私もガムを強く一回噛んでから、歩き出した。
◆
中央部行の電車は彼らが乗った時間帯は随分空いていた為、全員無事に座ることができた。
平日だから、という理由もあるだろうし、そも中央部は遊園地以外行政機関しかないからというのが最もであろう。
ガタンゴトンと心地いいリズムを一定間隔で聞き、その振動を感じる。
窓にはひたすらに移り変わる景色。
だが以前とは違って広大な森ではなく、林立の人口物ばかりだった。
その中、田中がポツリと話す。
「そ、そういえば、最近南部の治安更に悪化してるよね……」
「……ああそうだな」
最初に答えたのは住吉でもなければ赤坂でもなく、中西だった。
生田と同じように窓外の景色を眺めながら疲れたように言った。
それにつられて、赤坂や住吉が口を開く。
「確かにそれもそうかもな。一昨日集団自殺もあったらしいしな」
「みたいですね。南部は北部と違い、異形の数が少ないために本来は安全なはずなのですが……」
赤坂が肩を竦めながら言う。
「でも、その事件原因魔法やろ?異形じゃないやんけ」
続いて言ったその住吉の言葉に、中西が一瞬ピクと体を動かす。
それに一瞬、生田がチラリと中西を一瞥した。
だが他は誰も気づいていないようで、そのまま赤坂が続けてボソリと呟く。
「実を言うと、あれは守護四天が犯人らしいですよ」
その声に、中西が僅かに目を見開き、赤坂の方へ振り返った。
「は?何でんなこと知ってんだ」
その何故かの真面目な表情に赤坂が少し驚くも、直ぐに苦笑した。
「何度も言いますが、私の父親が政府高官なもので。”結界”の能力とも一致するものでしたし」
「え? それ言っていいやつなん? 首晒されない? 」
住吉が慌てた様子で言うと、赤坂は今度は普通の笑みを浮かべた。
「この程度で首は晒されませんよ流石に。別に禁止されてないので言っているだけです」
「なるほどな」
「?何か気になることでもありましたか?」
「いや、気にすんな。ちょっとした私事」
どうやら納得したらしい中西が、首を傾げる赤坂に苦笑した後、ガムを口に放り込みながら再び窓外へと視線を戻した。
「まぁ兎に角、平々凡々な一般人に聞かれたところで特に問題ないということです」
「それ俺のこと言ってんのかいな?」
「いえ別に」
「今俺のこと見ながら言ってたよな?急に景色見んなや」
視線を外した赤坂を住吉がジトリと睨む。
その様子を見ていた田中が破顔した。
「ふ、二人とも、結構仲いいんだね」
言われた二人が、苦笑しながら田中を見る。
「そやなぁ、元々交流が多少あったからかもしれんな」
「そうですね……親も多少交流があるので」
「一方的やけどな。っと、そろそろ着くで」
住吉が声を潜め、電車のアナウンスを聞く。
赤坂達も会話を止めると、中央部に着く旨のアナウンスが流れていた。
『間もなく~中央部駅~終点です~』
それと同時に、緩やかにかかるブレーキ。
それもまた、乗る者にとっては心地よいものだ。
やがてキキッ、とブレーキの甲高い音と共にひと際強い力がかかる。
そして電車は止まり、ドアがリズミカルな音楽と共に開放される。
一早く住吉が立ち上がった。
「ほな行こか。今の俺は冒険してる勇者の気分や」
そう言って、立ち上がる後続を置いて住吉がドアを潜った。




