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3:灰猫の少女

「⋯⋯ふぅ。お腹いっぱい」


 結局、この猫耳少女はアングリーボアの肉を全て食べ尽くしてしまった⋯⋯。


 華奢に見えるその身体のどこに入っているのか、それはおそらく永遠に解き明かされることは無いのかもしれない。


 そんな事を考えていたオレは、食事を終えてリラックスしている少女にそっと声をかけた。


「あの⋯⋯」

「ん? 誰?」

「初めまして。オレの名はクロアという。さっきはありがとう、おかげで助かったよ」

「ん? わたし、何かしたっけ?」

「オレがアングリーボアに襲われたところを、君に助けてもらったんだけど⋯⋯」

「あー⋯⋯」


 その一言でようやく理解したらしい。


 少女はぽむっと手を叩いた。

 そして。


「ごめんなさいっ!」

「え?」

「キミが襲われたのは、わたしのせいなの!」

「⋯⋯どういう事?」

「実はわたし、もう三日も何も食べてなくてフラフラで⋯⋯。そんな時、運良くあのデッカいイノシシを見つけたから思わず飛びかかったんだけど、仕留め損ねて逃げられちゃったんだ。それで追いかけてる内に⋯⋯」

「オレが襲われたと⋯⋯」

「そう!」


 何というマッチポンプ。


 つまり、この子がきちんと仕留めていれば、オレは襲われる事は無かったのか⋯⋯。


「だから、本当にごめんなさい! 全部わたしが悪いんだから、感謝されるのは何か違うと思うし、むしろこっちがごめんなさい!」


 何度もごめんなさいを繰り返し、ひたすらに頭を下げる少女。


 そこまで謝られると、何だかこっちもいたたまれない気持ちになる。


「とりあえず落ち着こうか」

「え⋯⋯?」

「悪気が無いっていうのはもう十分分かったし、この通り、オレは無事だから。だから、もう謝らなくて良いよ」

「⋯⋯ホントに?」

「うん。ホントホント」

「良かった⋯⋯」


 安心したのか、少女は胸に手を当ててほっとため息を吐いた。


 嬉しいのか、頭頂部の耳がピコピコと動いていた。


「⋯⋯」

「うにゃ?」

「⋯⋯はっ!」


 気づくと、オレは少女の頭をそっと撫でていた。


 すぐにパッと手を離し、距離を取る。


「ご、ごめん⋯⋯!」

「? 何が?」

「いや、急に頭を撫でてしまって⋯⋯」

「別に気にしないよ? むしろ嬉しかったし」

「え? 嬉しい⋯⋯?」

「昔、お父さんにこうして撫でてもらってたなーって、ちょっと懐かしく思っちゃった」

「おと⋯⋯っ?!」


 オレの銅の心に、少しだけヒビが入った。


「ともかく、何かお詫びしないと⋯⋯」

「⋯⋯お詫び?」

「うん。巻き込んでしまったお詫び」

「いや、そんな。そこまで気にしなくても⋯⋯」

「ダメだよ? こういう事は、もっときちんとしなくちゃ」

「う⋯⋯」

「んー、⋯⋯ねぇ。キミって《冒険者》ってやつだよね?」

「え? まぁ、そうだけど⋯⋯」

「やっぱり。短剣持ってるし、そうだと思った」


 冒険者の基準が短剣って、ちょっと大ざっぱ過ぎないか?


「それじゃあ、お詫びに⋯⋯」

「お詫びに⋯⋯?」

「わたしが、キミの冒険を手伝ってあげるよ!」

「⋯⋯はい?」


 突然何を言い出すのか、この灰猫は。


「わたし、こう見えても結構力あるんだよ! 黒豹族(ダークレーファルト)だからね!」

「黒豹族⋯⋯」


 黒豹族。

 亜人種の中でも、特に高い戦闘能力を持つと言われる戦闘種族。


 その強さはまさに一騎当千。

 そのため、色んな国に傭兵として雇われる事も多いと聞く。


 しかし、今やそれも昔の話。


 戦争に駆り出される事が多かったためか、個体数は減少の一途をたどっており、今やわずかに数千人程度が大陸のどこかでひっそりと暮らす程度と言われている。


 しかも、どこに隠れ住んでいるのかは今も分かっておらず、黒豹族は『幻の種族』とさえ言われ始めている。


 そんな黒豹族が、住処を抜け出してこんなところにいるなんて⋯⋯。


「えっと⋯⋯。黒豹族の君が、なんでこんなところにいるんだ?」

「まぁ、ちょっと訳ありで⋯⋯」


 今までハキハキと喋っていた彼女だったが、途端に口をもごもごとさせ、視線も明後日の方へと向いている。


 これは、多分アレだな⋯⋯。

 聞かなかった事にしておこう。


「そんな事より、わたしにキミの冒険のお手伝いをさせてくれないかな? きっと役に立つよ!」

「⋯⋯本音は?」

「特に行くアテも無いし、キミについて行った方が面白いかなって」

「いきなりぶちまけたな!」

「あはははっ! それで、どうかな? 返事を聞かせてくれる?」

「うーん、そうだな⋯⋯」


 正直、こちらとしては願ってもない提案だ。


 勇者パーティーを抜けた以上、今はとにかくも冒険者ランクを上げていきたいし、少しでも高ランクの依頼を受けるなら、パーティー仲間は必須。


 アングリーボアを単独で、しかも一撃で仕留められるほどの実力となれば、断る理由は特にない。


「⋯⋯分かった。じゃあ、一緒に行こうか」

「⋯⋯! うん!」


 彼女が浮かべた満面の笑みは、夕焼けに負けないくらいに眩しくて綺麗だった。


「あ、まだ名乗ってなかったね。わたしはスズナ。よろしくね!」

「改めて、クロアだ。こっちこそよろしく、スズナ」




 こうして。

 勇者パーティーを追放されて一人になったオレに、最初の仲間が出来たのだった。


 願わくば、これからも彼女と大切な思い出を積み重ねていきたい。


 そのためにも、オレももっと頑張らないとな。


ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。

とりあえず思いついた三話分だけの投稿ですが、少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。


一応これで完結のつもりですが、設定自体はそれなりに気に入ってますので、気分次第で続編書くかもしれません。

その時は、またお付き合いいただけますと幸いです。



過去完結作品。

よろしければ、こちらもお楽しみくださいませ。

市間さんのお人形

https://ncode.syosetu.com/n5558mf/

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