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プロローグ

 遥か昔、神は余興として「世界」をつくりたもうた。


 盤上の世界に神は新たな生命を創造した。


 それらは一つの駒に過ぎず、与えられた役割をこなすだけであった。


 やがて退屈した神は思案した。


 自らを駒と考えぬ駒をつくろう。


 自由に盤上の世界を駆け回り、本能と好奇心で繁栄する知性を持った駒をつくろう。


 そうして全知全能である神は、「意思をもつ駒」をつくり、盤上でひたすらサイコロという運命を振り続ける。

 

 神は気まぐれに盤上でサイコロを振り、駒たちは自由に動き回る。


 代わり映えのない景色の連続で退屈であることには変わりなかった。


 神は気まぐれに力のないものを勇者にしようとした。


 奇跡も使えず、風が吹いてしまえば死んでしまう種族でありながら、自らの運命を覆し、時には、神にさえたてつく種族、人間。


 その人間の中でも若いものがいい。


 多感で行動力があるからだ。


 性格はそうだな……。真面目なものがいい。


 堅実なほうが他の種族からも受容されやすいだろう。


 徐々に自らが招く、混乱にその人間は絶望するのか、それとも。


 さぞ、滑稽で壮大な物語となるだろう。


 これで、しばらく退屈せずに済むと神は一日の眠りについた。


 神の気まぐれに辟易した「駒」たちは願った。


 それは安寧。


 それは安全。


 それは安心。


 その悲願を堅実に達成しうるものを「駒」たちは「勇者」と呼んだ。


 ―――———これは運命に抗ったある一人の駒の物語。


 人はこの物語をこう名付けた。


 堅実無双譚と。

 

  神がサイコロを振れば、それは雨となって世界に降り注ぐ。


  一人の青年が土砂降りの雨に打たれている。


 「どうして、俺ばかりこんな目に」

 

  選ばれた彼、リョウは呻く。

 

  その苦しみは神のみに届く――――————。

 

 ある日の午後だった。


「リョウ、お前。今日でクビな」

 

 突然、部屋に呼び出されたかと思うと、金髪碧眼の冒険者パーティのリーダーは淡々とした口調で話した。

 

 驚きで思考が停止する。


「……ど、どうしてですか?」


「お前、戦闘できないじゃん」


「そ、それは……」


「家事や私たちの武器の手入れや道具の買い出しに薬草の調合とかまぁいろいろ雑用をやってもらったことには感謝しているわ」


  紫色のローブがトレードマークの魔法使いが割って話しかける。

 

「シェレンさん」

 

 「けどね、あなたのような人がいると、私たち一流パーティなのに、新人を使いつぶしているって変な噂がたつの」


「そんな……俺、ちゃんと望んで」


「そう、それだよ。お前、本気でこのままの生活で、俺達の仲間になれるとおもっているのか?」


「そ…………それは……だって、最低でも3年は下働きしたら剣を教えてくれるって、だから……」


「俺たちにそんな余裕があると思っているのか、あぁ?」


「で、でも、本当にこのパーティの仲間に憧れて……それで」


 リーダーは嘆息する。

 

「バカが。なんのスキルもない、体もひょろひょろで、魔力もないお前にそんな大役勤まる分けねぇだろうが。第一、お前をかばいながら戦うのは危険だしな」


「じゃあ……なんで、雇ったんですか?」


 リーダーは鼻で笑う。


「まぁ、雑用くらいならいいと思ったんだ。奴隷を買うと評判が下がるからな。雑用はいても困らないしな。まぁ奴隷の代わりにならこういう頭が空っぽの奴のほうがいいと思ってな。だがそれもただ飯くらいのお荷物野郎だってわかったからいらなくなったわけだが」


  奴隷の代わり……?


  じゃあ、汗まみれの服の洗濯や、血漿がこびりついた汚い装備を手入れさせたのも、炊事選択や買い出しを行っている時も……この人たちは、俺を仲間にする気なんて、さらさらなくて。


 それどころか内心、奴隷の代わりだと思っていたのか。


「わかったらとっとと失せろ、その女みたいな面も気に入らねぇんだよ」


「そういうこと、じゃあねぇ」


「…………今までお世話になりました」


 唇を噛み、両手拳を握る。


 俺は、走った。ひたすら走って走って、涙を拭いて、外が土砂降りの雨で服が濡れるのも構わず俺は胸糞悪いなにか黒い感情に心臓が押しつぶされそうで、。


 俺は勢いよく転ぶ。


 全部、無駄だっていうのか。


 全部、嘘だっていうのか。


 声にならない声で俺は嘆いた。


 生まれた後、天涯孤独だった。


 教会に拾われて必死に勉強して、退屈な人生もいつか報われると信じて3年間、パーティメンバーの顔色をうかがいながら、賃金もろくにない日々を過ごしてきた。


 そんな、そんなことって。


 こんな結末なんてないだろう!


「どうして、俺ばかりこんな目に」


 俺は呻いた。


 俺は、泥まみれになって、宿屋でシャワーを浴びた後、小一時間ほど静かに泣いて、そのあと、一日中気絶したように眠る。


 明日、お金。


 どうしよう。


 そんなことをおぼろげに考えながら、俺は残り少ない貯金で無味乾燥な日々を過ごしたのだった。


 

 

  

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