第一章1 『誕生日での一幕』
毎日のように考える。
私はなんのために、この世界に生まれてきたのだろう。
『レールカはダメだ。あいつは一人では何もできない』
『あの子はきっと、いつかきっと人を狂わせるわ』
『――――』
『悪魔よ。生きていてはいけない』
『――――』
『産んでしまった責任をとらないと』
『ならば……やはり殺すしか……』
『ダメよ。子供を殺したら罪に問われるでしょう。散々よ、あの子に人生を狂わされるなんて』
『――では、どうすれば』
『いい考えがあるわ』
夜中、そんな両親の会話が聞こえてくる。
剣や魔法が当たり前に使える世界。ルーメル伯爵家に生まれたルーメル・レールカは億劫に耐えかねていた。
一ヶ月後、レールカは十六の誕生日を迎える。
その日は珍しく母も父も大層喜んでくれて、レールカが主役の舞踏会を準備していると言ってくれた。レールカは喜んだ。嬉しさのあまりに心臓が飛び出てしまいそうなほどに。
母と父に支えられたまま、私は年に数回しか会わない婚約者と顔を合わせることもできた。史上類をみない楽しい誕生日――そうなるはずだった。そうなってほしかった。
しかし、そこで婚約者の第二王子に言われたのだ。
「ルーメル・レールカ、貴女に私は似合わない。『欠陥品』である貴女には――贅沢が過ぎる」
一瞬だけ、頭が凍りついたような感覚に襲われた。彼の隣には見知らぬ少女が肩を寄せている。どうやら他の令嬢から言い寄られて自分に自信がついたのだろう。
それに、彼から告げられる次の言葉はある程度予想できてしまったのだ。今までの婚約者からも「解消」という形でそれを言われてきたのだから。
そして、案の定それ言われようとしていた。
「貴女との婚約は破――」
しかし、世の中には先手必勝という言葉がある。だからこそ私の方から堂々とした姿勢のまま言ってやった。
「でしたら婚約を解消してくれると嬉しいです。受け入れられないのでしたら、破棄という形でも構いません」
レールカは彼が嫌いなわけでもない。
ただただ興味がなかった。政略結婚さえ受け入れられずに他の女の人と遊ぶような小童はこちらからお断りだ。
その返しに対して、元婚約者も親も含めてこの会場にいる六割がたが呆けた顔をしていた。
出直してこい小童が、心の中でそう呟いた次の瞬間。
この会場の空気が更に凍りつく。
外の見張りを行っていた多くの衛兵が、会場内に突如として押し寄せてきたのだ。何事かと目を張っていると、その衛兵は元婚約者に何かを耳打ちする。
すると、衛兵から何かを伝え終えられた婚約者はレールカを見つめて怯えるように後ろにたじろいだ。
「君は……なんてことを……!!」
話が何も見えてこない驚き方をする元婚約者を守るような形で、衛兵たちは母と父に支えられているレールカを囲い、槍の切っ尖を向けてきた。
「他国への横領、貴族の暗殺未遂、それから国の金を使っての賭博――」
――?
急に何を言い出したんだ?
「この場で全ての罪を説明するのも不敬となりましょう。しかし、それらが明るみに出た今! 国王陛下より貴女を連行しろと命じられた!」
「……母様? 父様?」
私は不安のあまり、母と父を小声で呼びながら後ろにいるその二人を交互に見やる。しかし次の瞬間――その両親の手によってレールカは前へと突き飛ばされた。
レールカは息を呑む。足に力が入らないせいで、受け身が上手くとれそうにない。そのため、そのまま頭から地面に衝突することを余儀なくされた。
地面にあたった頬っぺたが痛い。
打ち付けられた胸が痛い。
擦りむいてしまった手のひらが痛い。
だが、それよりも困惑が勝つ。実の父様と母様に突き飛ばされて困惑しない子供など居ようか? 少なくとも、レールカは困惑ばかりに父様と母様の方を見やろうとした――その時。
「早くこの子を連れいって……どうか、どうか罪を償わせてくださいませっ!」
母様は泣いていた。父様はそんな母様に寄り添っている。
――なに……これ……?
――どうして、私が槍を向けられてるの……?
――なんで父様も母様も、私が何もやってないことを証言してくれないの……?
「ルーメル・レールカ! そこになおれ! これより一切の抵抗を禁ずる!!」
抵抗も何も、レールカにはその術がない。もちろん他国に横領するようなアテもなければ、誰かを暗殺するような術もない。そもそも賭博なんてゲームのルールさえ何一つとして知らないのだから出来っこない。
しかしながら生まれつき欠陥ばかりであるレールカには、人としての幸せが見ようにも見えないレールカには――きっと生きているだけで、自ずと不幸になる運命が付き纏われるのだ。
「ちがう……ちがいます! 私はやっていません! なにもしらないっ……!」
「黙れ! 証拠も証言も出ている! お前のような外道は存在自体が汚点であることにいい加減気づけ!! 何よりこれは国王陛下の命令なのだ!! ――直ちに連行しろ!」
そう言って、衛兵のリーダーらしき者に指示をされた衛兵はレールカの腕を掴む。
「この場は一時閉鎖とし、順次安全が確認次第、主催者の意向に従うようお願いします!」
衛兵のその言葉が聞こえたとき、レールカは瞼を閉じた。現実逃避ではない。夢を見たいわけでもない。ただ、今ただ誰の姿も視界に映したくないのだ。




