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49.カナーリエンの愛し子

 子爵邸に戻り臨む、ガーデンパーティー。


 教会ではタイムアタックに集中し過ぎて、じっくりと参列者を眺める余裕はなかった。


(だけど、今ならば――) 


 新郎新婦席で令嬢の笑みを貼り付け、失礼にならない程度に参列者を確認する。

 事前にグートから聞いていた招待客たち。

 

 リンドヴルム公爵が、修道服を着たココンを連れて駆けつけてくださっている。

 ココンは口を引き結んでいて、潤んだ灰色の目は私をずっと追っている。


 アインホルン公爵は祝いの親書を届けてくださり、その名代はエルンスト。

 エルンストは名代席にはつかずに、護衛騎士の立場で控えることになっている。


 驚いたのは、フェアケールス老伯爵。

 跡継ぎの孫と一緒に参列するのは知っていた。


 その後ろで控えるのは青と紫のオッドアイ。


(まさか、子守りにヴートが来るとは思わなかったわ) 


 あの実力なら跡継ぎの護衛でもおかしくはない。

 もしかしたら、あの幼い孫に懐かれているのかもしれない。


(見た目詐欺はお互い様!)

 

 一瞬の驚きを目に乗せて、すぐに小さく笑みを浮かべる。

 私は可憐に、ヴートは不敵に。


 視線をずらした先にいる、ヴァルトバーデン男爵家当主夫妻。

 フォアムントさんのお父様とお母様。

 フォアムントさんとよく似た、でも白髪交じりの焦げ茶の髪と目の男性。その隣に座る、穏やかそうな奥方。

 

(……お祖父様、お祖母様って呼んでいいのかな?)


 さらに視線を動かして後悔に襲われる。


(……アンベーテンさんっ!)


 きらっきらの笑顔が誇らしげに座っているその隣には、疲れ果てた顔のムーティヒ。


(……何があったの?)



「それでは、カナーリエンの若き青い希望と――」

 

 いつの間にかパパの歓迎の口上は終わり、リンドヴルム公爵が述べている乾杯の辞。


「白き()()()に、最高の寿ぎがあらんことを! 乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」

「!?」


 ばっ、とグートを見上げる。

 貴族らしく整った顔に浮かぶ、微かな驚き。

 

「僕が頼んだわけではないよ」


 リンドヴルム公爵に視線を送ると、杯を掲げて、悪戯っぽい視線が返ってくる。


 (たてがみ)のように逆立つ金髪、天の高さを感じさせる青い目。

 北部地方の支配者である圧倒的風格を持つこの方が、後ろ盾にいる。


 その本当の意味を、今知った。


 私を、療養中で社交界に出ない令嬢、そして白髪(はくはつ)の忌み子と知り、蔑んでいた者たちも。

 グートを、所詮、遠縁の養子だと侮っていた者たちも。


 これからは、そんな考えを捨てざるを得ないはず。


 私が続けてきた草の根の活動。

 貴族へは届いていないその根が伸びていく。



 食事が始まり、私とグートが突入するタイムアタック後半戦。


 リンドヴルム公爵はじめ、主だった招待客へだけ、手早く挨拶を済ませていく。

 席順決定時からグートにより設定されている、このための最短ルート。


 その流れのまま、私たちが踊るファーストダンス。

 これが終われば、私のお披露目は完了。


「練習通りに。落ち着いて、僕がいるから」

「――頑張るわ」


 白い手袋をはめた手が、足元の芝生を気にして緊張する私の腰に回される。

 体も心もしっかりと支えられて、灰眼に映るのはグートだけ。


 曲目はワルツ。

 激しくはないけど、求められる完璧な優雅さ。



 地獄の1曲を踊り切ったタイミングで会場に響く声。


「ここからは無礼講!!」


「実に佳き日だ!」

「素晴らしい!」

「めでたいこと!」


 会場が華やかに盛り上がった瞬間に、グートに手を引かれて邸の方へと向かわされる。


「グート?」

「戦線離脱するなら、今しかない」


 そういえば、結婚式タイムアタックの説明は、ファーストダンス完了までしか聞いていない。


「この後は、どうするの?」

「部屋に戻る。簡単な食事と飲み物を用意させている。お披露目は終わったから、ドレスもコルセットも脱いで構わないよ」

「脱いでいいの!? やったぁ!」


 単純に解放感に浮かれる私の声。

 対照的に、私の手を引いてずんずん歩くグートの声が甘くなっていく。


「この後は、2人きりだよ」

「え?」


「君の気持ちが僕に向くまで待った。君が成人するまで待った。もう待つ理由がないからね」


 一気に熱を持つ私の顔。

 私の手を引くグートの手も熱い。

 

「リーリエ。……愛している」

「う」


(ここで、そんな言い方。ずるい)


 色々な感情が限界突破した私は、結局、グートに横抱きにされて部屋へと運ばれることになった。



 始まった新婚生活。


「黒い森への里帰りは、落ち着いた頃に」 


 グートと約束を交わして、あれからずっと、私はカナーリエン領の子爵邸で過ごしている。


 私の呼び方は「お嬢様」から「若奥様」になった。

 だけど、フロイは「リーリエ様」と呼ぶ。


「今までも、リーリエ様、とお呼びしたかったんです! でもお邸ではレルヒェ様でしたから! 悩んで悩んでお嬢様とお呼びしてました! でもこれからはいつでもどこでもいつまでもリーリエ様とお呼びします!」



 雲雀の季節は過ぎて、今は鈴蘭が咲く季節。


 グートと共に訪れた、厩舎の白い仔馬。

 リリーは、16歳の誕生日プレゼントに当歳馬で贈られたから、今は2歳。


 鞍などの重い道具を背中に乗せる練習が始まっている。

 だけど、人を乗せて走れるようになるのは、早くても秋。


「君のリリーに乗れるようになるまでは、僕と一緒に」


 そう言って先に乗った馬の上から手を差し出し、その手を掴んだ私をぐいっと馬上に引き上げる。

 前に横座りした私をがっちりホールドして、ゆっくりしたペースで馬を進める。


「私は今まで通り、リーリエで冒険者ギルドの依頼を受けて構わないの?」


 フォアムントさんが作ってくれた冒険者登録証は、今もリーリエのまま。


「勿論。家名を伏せるも明かすも、君の自由でいい。君は2つの公爵家の後ろ盾を得ているからね。どちらにせよ、君に不都合なことは何も起きないよ」


(これは、何も起きないのではなく、起きても揉み消せるということなのでは?)

 

 グートは優しいだけじゃなくて、貴族の計算高さもちゃんと持っている。


「ただ――」


 馬を進めながら、私の白髪(はくはつ)に優しく寄せられる声。


「いつ授かっていても、おかしくはないだろう?」

「う」


「だから、約束を1つだけ。決して無茶をしないこと。でないと――」 


「僕は君の後を追うことになる」

「わかってる知ってる覚えてるから物騒なことは言わないでっ!」


 新婚の甘い空気を、鈴蘭の匂いを含んだ風がさらっていく。


 ここには白髪の忌み子なんていない。

 愛されて愛を返す、1人の白髪の女の子がいるだけ。



 街中(まちなか)の、とある孤児院。


 ここで流行っている結婚式ごっこ。


 花嫁役の子が、ブーケに見立てた小さな雑草の花束を近くにいる子に投げつける。


 決め台詞は――


「鼻血は我慢してて!」


 この様子がおかしい結婚式ごっこに、リーリエが気づくのはもうすぐ――……

これをもちまして、全49話、無事に完結です!

皆さまの伴走のおかげで初恋のハッピーエンドを掴むまでを描き切ることができ、作者としても感無量です。本当にありがとうございました! 

次回は【9月14日(月)】に【番外編】を公開予定です。

完結の御礼に、本編で語られなかった「裏設定」や、クスッと笑える「リーリエ目線の人物図」を公開中です。ぜひ、覗きに来てくださいね!

【最後に、皆さまへ大切なお願い】

もし「面白かった!」「リーリエ、幸せになってよかったね!」と少しでも思っていただけましたら、画面最下部にある【☆☆☆☆☆評価】や【ブックマーク登録】を押して、本作の完結に更なるエールをいただけますと幸いです。

改めまして、長らくリーリエたちの物語を応援していただき、本当にありがとうございました! 次の物語でお会いできるのを楽しみにしております。

※いただいた感想へのお返事は個別にできませんが、すべて大切に読ませていただいております。

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