第6話 ホブゴブリンの魔石を使ったら、可愛い娘が生まれました
「このホブゴブリンの魔石、どうしようかな……」
木々の葉が擦れる音だけが響く、静寂の夜。
僕は自宅の縁側に腰掛け、手の中にある魔石を見つめていた。
月光を吸い込んだかのように、中心から外側へと光の粒子が溢れ出し、脈打つように輝いている。
(売るべきか、それとも使うべきか)
ステータスの説明によれば、スキル『眷属作成』と職業『魔物女王』では、消費の仕方が異なるらしい。
スキル『眷属作成』は、魔石を一つ消費することで、その魔物を眷属(配下)として作り出せる。
対して職業『魔物女王』で変身するためには、この魔石一つだけでは足りず、まだ数を揃える必要があるようだ。
「買い取り価格は……10万円、か」
ゴクリ、と喉が鳴る。
両親が亡くなり、親戚もいない天涯孤独の身。
両親が残してくれたのは、今住んでいる山麓の築40年の木造家屋と、裏山、そしてわずかな貯金だけだった。
日々の食事は、広い庭で育てた野菜でまかない、現金収入といえば、一個300円のスライムの魔石を売って爪に火を灯すような生活だ。
10万円という大金を手に入れて生活を楽にするか、それとも自分自身の未来(戦力)に投資するか。
心の天秤が激しく揺れ動く。
「眷属作成も気になるんだよなぁ……あ」
魔石を握りしめ、強く念じた瞬間―― 。
「あっ、やばい!!」
無意識にスキル『眷属作成』を発動してしまったのだ。
手の中の魔石がカッと目を開けられないほどの強烈な輝きを放つ。
光が収まった頃、そこには――現在の僕の見た目を幼くしたような、一人の少女が立っていた。
透き通るようなコバルトグリーンの肌。耳の先は少し尖り、身長は僕の腰あたりしかない。
「おかあちゃん、あたちになまえをくだしゃい」
少女は僕の腰に甘えるように抱きつき、つぶらな瞳で見上げてきた。
「ぼ、僕、男なんだけど……」
突然の「母親」呼びに困惑する。けれど、少女は不安そうに眉を下げ、瞳に涙を溜め始めた。
「おか……あちゃんと……よん…じゃ……だめ…なの?」
うるうると揺れる瞳の破壊力に、僕は慌てて首を振る。
「駄目じゃない! 駄目じゃないよ、好きに呼んでいいから!」
僕が許すと、少女はパァッと花が咲いたような笑顔になった。
「おかあちゃん、あたちのなまえおちえて」
「……そうだね」
僕は彼女の美しい肌の色を見つめ、少し考えてから口を開く。
「その綺麗なコバルトグリーンの肌から文字を取って……『ルト』でどうかな」
「わかりまちた! きょうからあたちは、ると! おかあちゃん、なまえをくれてありがとう!」
たどたどしい口調と、無垢な笑顔。
胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。これが……母性?
試しに、僕が子供の頃に着ていた服をルトに着せてみた。
鏡の前に並んで立つと、そこには腰まで伸びた白銀の髪を持つ二人が映っていた。
肌の色こそ違うが、どこからどう見ても仲の良い姉妹……いや、母娘にしか見えない。
もしかして、他の魔石で眷属を作った場合も、僕に似た容姿で生まれてくるのだろうか。
「おかあちゃんと、おそろいのかみ、うれしい」
自分の髪を撫でながら喜ぶルトを見て、僕は魔石を使ってしまった後悔なんて吹き飛んでいた。
「今日はもう遅いし、寝ようか」
「あい!!」
空ちゃんにどう説明しようか……。
そんな嬉しい悩みを抱えながら、僕はルトと一緒の布団に入り、久しぶりに人の温もりを感じながら眠りにつくのだった。




