第7話 平鍬一閃! 愛娘ルトとダンジョン・ピクニック
「よいちょっと……ちょりゃああぁっ!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、ルトが小さな体をエビのように大きく反らし、身の丈ほどもある平鍬を頭上高く構える。
ブォォン!!
大気を裂くような重低音。
彼女の華奢な腕から繰り出された一撃は、遠心力を乗せてスライムの脳天へと叩きつけられた。
ズドォォォンッ!!
地面が揺れるほどの衝撃音と共に、哀れなスライムは核ごと粉砕され、光の粒子となって弾け飛んだ。
「やった! おかあちゃん、みてみて!」
「す、すごい威力だね……。ルト、鍬の扱いが本当に上手だね。……でも、そんなに力いっぱい振り下ろさなくていいんだよ?」
僕たちは今、スライムしか出ない初心者向けのダンジョンに来ていた。
本当は危険だから家に置いてこようとしたのだけれど、「おかあちゃんのおてつだいしゅる!」と腰にしがみついて離れなかったのだ。
結局、僕が以前使っていた護身用の小刀を渡そうとしたのだが……。
『こっちのほうが、しっくりきまちゅ!』
そう言って彼女が選んだのは、今朝の家庭菜園で手伝いに使っていた「平鍬」だった。
見かけによらず怪力なルトは、スライム相手にブンブンと鍬を振り回し、楽しそうに魔石を量産していく。
「ふふ、僕も負けてられないな」
愛娘の頑張りに頬を緩ませながら、僕も手際よく魔石を回収していく。
レベルが10を超え、入学試験の資格を得たことで心には余裕ができた。
けれど、同時に切実な問題も発生していた。――生活費だ。
ルトという新しい家族が増えたことで、食費はもちろん、可愛い服や靴も買ってあげたい。
それに、僕自身のスキル『魔物女王』の覚醒にも、大量の魔石が必要になる。
(父さん、母さん……僕、大黒柱として頑張るよ)
背負ってきた登山用の大型リュックは、すでに半分ほど埋まっている。順調な滑り出しだ。
「おかあちゃん、おなかすいちゃった」
「あはは、いっぱい動いたもんね。そろそろお昼にしようか」
安全な開けた場所を選び、手提げトートからレジャーシートを広げる。
殺伐としたダンジョンの中だが、ここだけは別世界のように和やかな空気が流れた。
僕が早起きして作ったお弁当――甘い卵焼きにタコさんウインナー、小さなおにぎり。
子供が喜びそうな具がいっぱい詰まったお弁当箱を広げると、ルトの瞳がキラキラと輝く。
「わぁ~! いただきましゅ!」
「はい、召し上がれ」
ルトは小さな手でおにぎりを頬張ると、今度はフォークで卵焼きを突き刺し、僕の方へ差し出してきた。
「おかあちゃん、あーん!」
「えっ、僕も? 自分で食べられるよ?」
「だめ! おかあちゃん、おいしいおべんとうつくってくれたから、るとがたべさせてあげるの!」
キラキラした瞳で訴えられ、僕は観念して口を開ける。
「ふふ、ありがとう。じゃあ……あーん」
「はい、あーん!」
パクり。口に入れると、出汁の優しい甘さと、娘からの愛情が口いっぱいに広がった。
「えへへ、おいしい?」
「うん、すごく美味しいよ。ありがとう、ルト」
「じゃあ……こんどは、るとのばん!」
ルトが期待に満ちた目で、小鳥のように口を大きく開けて待っている。
その愛らしい仕草に、僕の頬は緩みっぱなしだ。
「はいはい。じゃあ、タコさんウインナー行くよー。あーん」
「あーーん……んむっ! おいち~!」
満面の笑みでもぐもぐと口を動かすルト。
はたから見れば、美少女と幼女がキャッキャとご飯を食べさせ合っているだけの光景だろう。
けれど、僕にとってはかけがえのない幸せな時間だった。
スライムも空気を読んでか、こちらには寄ってこない。
「午後からは少しだけ魔石を集めて、冒険者組合に行こうか。ルトの登録もしないとね」
「ぼうけんちゃ、くみあい?」
「そう。ルトを僕の『家族』として登録するんだよ。人がいっぱいいるから、迷子にならないようにね」
「あい、わかりまちた!」
元気よく返事をしたルトだが、一生懸命食べたせいか、口元にはケチャップがついてしまっていた。
「もう、わんぱくだなぁ。……じっとしててね。『浄化』」
僕が掌を向けると、柔らかな光がルトを包み込み、服や肌の汚れが一瞬にして消え去った。
これは、称号『男の娘』で得たポイントを使い、新しく獲得した職業『見習い聖女』の力だ。
ウィンドウを開き、改めてスキルの詳細を確認する。
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【職業:見習い聖女】 見習いのため効力は低いが、回復系統や結界系統のスキルを行使できる。
【所持スキル】
●『ヒール』 対象の体力を小回復する。切り傷や打撲程度の怪我なら塞ぐことが可能。
●『浄化』 対象の汚れを落とす。また、毒や麻痺などの状態異常を解除する。
●『結界(小)』 対象の周囲に薄い魔力の壁を展開し、物理・魔法攻撃を魔力が続く限り防ぐことができる。
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他にも強力な職業はたくさんあった。けれど、僕は迷わずこれを選んだ。
この先、何があるか分からない。もしルトが転んで怪我をしたら? 泥だらけになったら? 危険な魔物に襲われたら?すぐに彼女を治してあげたい。守ってあげたい。その想いが、僕にこの力を選ばせたのだ。
「わぁ、きれいきれいになった!」
「ふふ、さっぱりしたでしょ? よし、ご飯を食べたらもうひと踏ん張りだね」
僕たちは美味しいお弁当で英気を養うと、二時間ほど魔石集めに精を出し、冒険者組合へと向かうのだった。




