戦いの後に
ボブゴブリンを倒し、汗だくになり、精魂尽き果てた。ボブゴブリンから魔石を取り出す気力もなく、近くの雨でまだ濡れているベンチで、項垂れていた。
「何とか……勝つことが……できた」
「おめでとう、お兄ちゃんかっこよかったよ」
彼女はそう言って、近くの自販機から購入した飲料水を僕に差し出してくれた。
「あれ本当にボブゴブリン?やけに皮膚が硬かったし力も強かったけど」
軽く腕を組んで首を少し傾げ考える仕草をしながら彼女は話す。
「……そうなんだよね、前に他の人のボブゴブリンの討伐映像を見たことあるんだけど、あんなに皮膚は固くなかったはず」
「それについてはあたしが答えてあげよう」
後ろから、紺色のネイビージャケットにイルカがデザインされたTシャツにデニムの紺色のダメージジーンズを穿いた大学生くらいの女性が現れた。
「あれ、梢ちゃん、たしかまだ大阪にあるAランクダンジョンの調査依頼を受けてなかったけ?」
「そうだよ~、その調査が終わったついでに、空ちゃんとその会いたがっていた少年の顔を拝みに来たんだけど、まさかこんな事態になるなんてね、いや~驚いたよ、それで彼が例の……本当に男性?女性にしか見えないんだけど」
ジロジロと僕の至る所に視線を向けてくる。
「男ですよ、今はスキルでこんな格好をしていますが」
「いや~ごめんね、自己紹介がまだだったね、あたしは藤原梢、Aランクの冒険者だよ、よろしく~」
僕に握手を求めてくる彼女は、長い黒髪のポニーテールに、健康的に焼けた小麦色の肌にグラマーな容姿、慈愛を感じるような優しい目つきをしている。
「それで、このボブゴブリンは何なんですか?」
「まず初めに、このボブゴブリンは上位種に進化する直前の個体のようだ、その証拠に!!」
そう言ってボブゴブリンの亡骸から魔石を取り出す。
「見てみな、このボブゴブリンの魔石の色は普通の個体とは違い色が濃く、魔石の輝きが違う魔力が強い証拠だ、気を付けてね、魔石を取り除かないとアンデットになる速度も速いし、周囲を環境の汚染を発生させるから」
「それだけでは僕達は見分けることが出来ないですけど、魔力を感じることはできないですし」
「無理もないね、Cランク以上のダンジョンを潜り続けるとわかる事なんだけど、Cランクダンジョンからは魔力の力場が常に派生し、そこから発生する魔物も強い魔力を帯びていて、戦っている内に肌で魔力を感じることが出来るんだ、魔法のスキル人は感じることができるから別だけど、使えない人はCランクダンジョンから鍛えるんだ」
「そうなんですか、教えてくれてありがとうございます」
僕は梢さんに礼をする。
「いいよ、いいよ、駆け付けるの遅れたわけだし、このボブゴブリンを倒すことが出来る君と仲良くしたいからね、君は上位なれるよ、あたしが保証しよう、それにして空ちゃん、いい彼氏を持ったねうらやましいぞ、この、この」
梢さんは肘で軽く空ちゃんを小突く。
空ちゃんは照れながら答える。
「えへへ、まだ付き合っていないですが、時間の問題ですね、私が攻めて行きますから、覚悟してよね碧お兄ちゃん」
僕に指を指しながら宣言する。
梢さんが笑いながら拍手をしながら言う。
「それじゃあ、碧君が上位の冒険者になれたらあたしを2番目にしてもらおうかな、この時代、冒険者の一夫多妻は珍しことじゃないし、正直な話、高ランクの冒険者が言い寄ってくるけど、むさ苦しい上に天狗になった男達ばかりで嫌になっちゃう、その点、君は可愛いし性格もいい、ぶっちゃけ、あたしのタイプだ」
そう、ダンジョンの発生以降から人口の減少が続き、ある程度の資産があれば、一夫多妻制が認められている。
「良かったね、お兄ちゃん、これでますます冒険者を目指さないとね」
ニヤニヤした表情の空ちゃんにいじられる。
「何が良かったねだ!!、だけど上位の冒険者には必ずなります」
「うん、うん、頑張ってちょうだいよ、あたしの明るい未来の為に、そうだ、冒険者学校に碧君の推薦状を出してあげる、空ちゃんは推薦で飛び級で入学することは決まっているんだし」
「わぁ~!!わぁ~!!何で梢ちゃん言っちゃうの、サプライズにしようと思っていたのに」
「そうだったの、それは悪いことをしたわね、ごめんね」
梢さんは空ちゃんの頭を撫でる。
「それじゃあ、あたしはそろそろ行くよ、東京に調査報告をしないといけないからね、じゃあまたね」
そう言って駅の方へ体を向け、歩きながら手を振って去って行くのだった。
「今日はもう疲れたし、他の検証は別の日にしようか」
甲冑と聖剣のスキルを解除して、元の姿に戻りながら空ちゃんに話す。
「そうだね、今日は疲れちゃったよ、お腹空いた~」
「それなら、僕がご飯を作ってあげるから、スーパーに寄って帰ろう」
「やった~~!!お兄ちゃんの手料理だ、楽しみ~~!!」
上機嫌に前を歩いて行く空ちゃんの後ろ姿を眺めながらゆっくりと歩いて行くのだった。