第9話 面接官はまさかの幼女!? パーフェクトボディ(?)の学園長
玲次との決着がつき、担架で運ばれていく彼を最後まで見届けた。
その後、僕は待機場所である観客席へと戻ったのだが、一緒に待機していたはずの飛騨君たちの姿はなかった。どうやら先に面接に呼ばれたらしい。
誰もいない席で僕を待っていたのは、案内役である一人の試験官だった。
僕は入学試験の最後の面接に臨むべく、その試験官の背中を追いながら、緊張しつつ会場へと向かっていた。
(いよいよ最後だ。気を引き締めて頑張ろう!)
心の中で気合を入れ、自分を奮い立たせる。しかし――。
(あれ? 今、通り過ぎた場所が面接会場だよね?)
通路に椅子が並べられ、「面接会場」という立て看板まである教室。中からは質疑応答らしき声まで聞こえてくるというのに、試験官は歩みを止めず、その場所を通り過ぎてしまったのだ。
状況が飲み込めないまま促されるように進んでいくと、たどり着いたのは予想外の場所――重厚な扉に「学園長室」のプレートが掲げられた部屋だった。
「あの、ここで面接をするんですか? 思いっきり学園長室って書いてあるのですが……」
戸惑う僕に、女性の試験官は静かに答える。
「何でも、学園長が直々に面接をしてくださるそうです。それと、先程の模擬戦の話も聞きたいと仰っていました。私は面接が終わるまでここで待機しておりますので」
そう言い残し、彼女は躊躇いなく学園長室の扉をノックした。
「学園長、先程言われた灰城様をお連れいたしました」
すると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
『うむ、入って来てくれ』
聞こえてきた学園長の声は女性のものだった。僕は緊張で少し強張る体をなだめながら、ゆっくりと扉を開ける。
「失礼いたします。……え?」
入室して正面に立った学園長の姿に、僕は思わず目を丸くして固まってしまった。
今、僕の目の前にいる学園長の姿は、どう見ても翼ちゃんと同じくらいの歳の小学生にしか見えなかったのだ。
背丈は僕の腰くらいまでしかなく、小顔で狐を思わせる鋭い瞳をしている。黒髪は綺麗なおかっぱに整えられており、小さな体には朱色の花柄が鮮やかに描かれた着物を纏っていた。まるで座敷童みたいだ。
「おお、来てもらってすまんの。どうじゃ、驚いたじゃろう。ん? なんじゃ、このパーフェクトボディに見とれたのかの? わしに惚れちゃダメじゃよ」
ケラケラと笑いながら僕をからかってくる学園長に対し、僕は考えるより先にツッコミを入れていた。
「惚れませんよ! ……あ、灰城碧です。よろしくお願いいたします」
初対面の、しかも学園長相手に思わずツッコミを入れてしまい完全に調子を狂わされたが、僕は慌てて咳払いをして冷静さを取り戻し、深く頭を下げて挨拶をした。
「じゃあ、さっそく面接を始めようかの。……ほい、終了じゃ」
「……え!?」
面接開始の宣言と同時に終了を告げられるという予想外の事態に、僕は完全に戸惑ってしまった。
「あー、すまん、すまん。説明をしなければならないかの。わしは職業『仙女』という珍しいものを獲得しておっての。見た相手の魂の色を見ることが出来るんじゃよ。魂の色は基本的に白く、黒に染まっていくほど悪人というわけじゃが……お前さんは驚くことに真っ白じゃ。そんな善人を試験に落とすわけないじゃろう」
ぽかんとする僕をよそに、学園長は我が道を行くように言葉を続ける。
「筆記の方も合格ラインのようじゃし、面接するまでもなく合格が決まっておる。それなのに堅苦しい質疑応答などしてどうする。時間の無駄じゃ」
そう言って、学園長は机に置いてある湯呑みを手に取り、ズズッとお茶を一口すする。
「僕が今まで面接の練習をしてきた努力はいったい……」
全身から力が抜け、僕はその場に崩れ落ちるようにして茫然と呟いた。
「まあ、まあ、そう落ち込むな。ほれ、まずはそこに座れ」
促された先には、学園ドラマでしか見ないような重厚な長方形の机と、それを挟むように高級そうなソファーが置かれていた。
言われるがまま、片側のふかふかのソファーに腰掛けると、学園長も向かい側のソファーにちょこんと腰を下ろした。
「そう言えばまだ名乗ってなかったの。わしは森崎佳代子という。孫の詠美ちゃんがいつもお世話になっておるの」
「え!? 森崎さんのおばあちゃん!? でも……」
「この姿のことじゃろ? ステータスを獲得してから、この姿に若返っての。お陰でぎっくり腰に悩まされる日々から解放されたわい。おまけに身体が軽くて力も出るんで助かっておる。車だって持ち上げることが出来るんじゃよ、わし」
そう言って、佳代子おばあちゃんは着物の袖をまくり、小さな腕で自慢げに力こぶを作って見せた。
「たしか『仙女』でしたっけ。すごいですね、若返るなんて」
「お前さんも珍しい職業を獲得しているそうじゃないか。詠美ちゃんからいろいろと聞いておるよ。『女騎士』に『魔物女王』、そして『聖女』。どれも珍しい職業じゃ。そして新たな職業を獲得できる称号『男の娘』。男にも関わらず女性限定の職業を獲得できる、実に素晴らしい能力じゃ。どうか、その力の使い方を誤るでないぞ」
佳代子おばあちゃんからの真摯な忠告に、少しの間、部屋に沈黙が流れる。やがて、その静寂を破るように、僕は口を開いた。
「それで学園長、先程起きた模擬戦の話を聞きたいんですよね?」
「……ん?」
僕の問いかけに、佳代子おばあちゃんは一瞬キョトンと首をかしげたが、すぐに思い出したようにポンッと両手を合わせた。
「あ~、そんな話になっていたの。すまんの、それはここに呼ぶための建前じゃ。本題は別にあるんじゃよ。あと、わしのことは佳代子おばあちゃんと呼んでくれ。それで、ここに来てもらった本当の理由じゃが……」
コトッ、と佳代子おばあちゃんが湯呑みを置く。
先程までの飄々とした態度は一変し、その表情は別人のように真剣なものになっていた。肌を刺すようなただならぬ気迫に、僕は思わずゴクリと息を呑んだ。




