冒険者組合の出来事〜入学試験の裏側で〜3
碧君の戦う姿はまるで本物の騎士になったかのように、見るものを魅了させる素晴らしい戦いだった。
「すごいじゃない、碧君。あの年であそこまで戦えるなんてなかなかできないよ」
まつり先輩が私の隣でテレビに映る碧君を褒めちぎっている。
「それに見ろあの表情、きっと相手の動きが完全にわかってやがるな、わざとギリギリでよけてやがる」
戦況を説明するように近くの冒険者が呟きが聞こえる。
やがて2人の戦いが終わりを迎えた時、信じられない光景が映し出される。
「おい、対戦相手の手に持っている物を見て見ろ!!爆発石を持ってやがるぜ」
「なんであんな野郎が持ってやがる、誰だ、あいつにあんなものを渡した奴は」
周りが騒がしくなり、あれを知らないルトちゃんと翼ちゃんは私に問いかける。
「あのいしころがそんなにあぶないでしゅか?」
「詠美お姉ちゃん。あの小さな石は何ですか?」
2人の疑問に私は嘘偽りなく正直に話す。
「いい、2人ともよく聞いて、あれは爆発石と言ってあれが爆発すれば最悪の場合、碧君を含めてあの場にいる全員亡くなってしまうわ」
「すぐばくはつするのでしゅか」
「すぐに爆発はしないわ。爆発石の点滅が早くなっていって……何で言ったらいいか」
私は2人に簡単に説明しようと考えるが碧君の状況が心配で、冷静に考えることが出来ず悩んでいるとまつり先輩が代わりに2人に説明をする。
「簡単に説明すると、あの石の中にある力が集まってしばらく時間が経つと爆発するんだよ」
まつり先輩の説明を聞いた2人はそれを聞いて安心する。
「それならおかあちゃんはだいじょうぶでしゅよ」
「お兄さんにはあの力があるから大丈夫だよ」
「え、それってどういう……え」
テレビに映る碧君の身体が光り輝き、その光が晴れると碧君の変化した姿に見ていた私達は驚く。
「碧君がスライムになっちゃった」
「いや、ただのスライムじゃない。あれはクイーンスライムだAランクの『魔法殺し』ってよばれてる相手の魔力を吸収するやばい奴だ、でも爆発石の魔力を吸収できるなら何とかなりそうだぞ」
碧君は爆発石を飴玉のように食べている光景に私はハラハラする。
「大丈夫だってわかっていても心臓に悪いよね」
まつり先輩も私と同じ感想を思っていたようだ。
「あいつ、迷いもなく爆発石を口に入れたぜ度胸あるなぁ」
「俺はしばらくあのサイズの石ころが見れないよ。全部が爆発石に見えて、今の映像を思い出しそうだ」
「そうだな、しばらく俺も家に帰ってのんびりしようかな今の映像を忘れるために」
さまざまな感想が飛び交う中で碧君は無事に爆発石を無力化して、私はほっと息を吐き胸を撫でおろした。
「やっぱりおかあちゃんはすごい」
「碧お兄ちゃんはかっこいいです」
ルトちゃんと翼ちゃんはハイタッチを決めて喜んでいる。
「詠美ちゃん良かったね。未亡人にならなくて」
まつり先輩が冗談を言って私をからかう。
「もぅ、まつり先輩。からかわないでください。そういう冗談はお婆様の若返りだけで十分です」
それを聞いたまつり先輩は笑いをこらえられず。
「くふふ、そうだね。佳代子お婆様の若返りほど冗談に思えてくるよね。3度目に結婚の挨拶で会った時にあまりの変わりように私はびっくりして、腰を抜かしちゃったんだから。」
などと冗談を言って笑いあっていると一人の冒険者がテレビを指さして喋る。
「おい、どうやらまだ続けるみたいだぞ!」
テレビではまたお互いに向かいまだ試合を続けているようだ。
この時まで音声が今まで聞こえていなかったが突然、碧君達の会話が聞こえるようになる。
『おい、何だよその力は、そんなのインチキじゃねぇか』
『インチキ?爆発石を止めるために仕方なく使ったんだよ、じゃあ続きをやろうか』
碧君はスライムから元の姿に戻り木製の剣を相手に向けていた。
「おい、あのガキ、あんなことをしでかしてまだあんなこと言ってるぞ、性根が腐ってやがるな」
「それに比べて碧君は冷静ね、まるで大人と子供ね」
「ちょっと!声が聞こえないから静かにして!」
私がみんなに注意している間に決着がついてしまったようだ。
『今のは僕や空ちゃん、古土さん達、そしてお前に迷惑をかけてきたみんなを代表して殴った痛みだ。玲次はこれから罪を償っていくからこれで勘弁してあげる』
「ヒュ~。言うね~カッコイイじゃん。でも、この映像が全国放送されているなんて思もわないでしょうね彼。後で見て後悔しなきゃいいけど」
女性の冒険者の呟きに私は驚く。
「……え、全国放送」
「そうですよ。他県にいる友達にも連絡を取ってみたんですけど、この映像が流れているそうです。ほらその証拠に左下に小さく書いてありますよ」
彼女が指を向ける先に、私は視線を向け、たしかに左下に小さな文字で全国放送していますと書いてある。
「これを見て碧君、驚かないといいけど」
私の呟きにまつり先輩が否定する。
「驚くどころか気絶するんじゃないかな」
「おかあちゃんはにんきもの」
「そうだね、ルトちゃん。お兄さんは人気者です」
「……さて」
喜び合う2人を見て私は考えることを放棄して、碧君がルトちゃん達を迎えに来るまで仕事に集中して、何事も無かったかのように気づかないフリをして過ごしたのだった。