入学試験8
僕を中心に光り輝く光景に、周囲が時が止まったかのように静観していた。
僕の声を聞いていた藤原さんが、ただ独りでに呟く。
「クイーンスライムになるってこと、……それなら」
灰城さんの呟きを聞いていた玲次が藤原さんに問いかける。
「おい藤原!なんだよ、クイーンスライムって」
失礼な聞き方に頭に来た藤原さんは、玲次の頭に拳骨を食らわせ、答える。
「クイーンスライムはAランクダンジョンに稀に出てくる魔物だよ。魔法使いが出会ったらまず勝てない、スライムの上位種よ、別名『魔法殺し』と呼ばれている危険な存在だ」
僕を中心に輝いていた光が収まった頃、会場の全員が僕の姿を見て驚きの声を上げる。
着ていた学生服はそのままだが、体は粘着性のヌメヌメとした透明な水色になり、髪の色は白銀のままだが、グミのようなゲル状の塊に変わって頭から垂れている。瞳は深紅のビー玉のような見た目になっている。
胸部は男の時にはなかったスイカほどの大きい胸囲ができ、体の中心には深紅の魔石が粒子を放ち続けている。その魔石を中心に複数の小さな魔石が不規則に回っている
身体が液体の体でいろいろな形になることはできるが、まだ慣れていなくあまり早く動かすことはできないが今はそれはおいておく。
「それで変わったから何ができるんだ。この状況は変わらねぇぞ」
玲次が魔物になった僕に向かって言うが、相手にせず、まずは手に持っている爆発石を処理するため、僕はそれを飴のように口に入れる。
クイーンスライムは相手の魔力を吸い取り、自分の力にして魔法を放つことができる魔物だ。今の僕も当然それができる。
爆発石は周囲の魔力を吸収して蓄積された魔力で爆発するため、僕はそれを飴玉をなめるようにして魔力を吸い取り消化いく。
やがて魔力を吸い取られた爆発石は点滅がしなくなり、無害になって僕の体の中で消滅した。
「……ふぅ、ごちそうさま。これで問題は解決しましたよ」
周囲で見ていた人達から僕に惜しみない拍手が聞こえてくる。
「碧君ありがとう。碧君がいなかったら今頃、大変な状況になっていたわ」
藤原さんが労いの言葉を聞いて照れてしまう僕。
「おい、何だよその力は、そんなのインチキじゃねぇか」
指を向けて僕を非難してくる玲次に僕は聞き返す。
「インチキ?爆発石を止めるために仕方なく使ったんだよ、じゃあ続きをやろうか」
僕はクイーンスライムから元の姿に戻り、玲次に剣の先を向ける。
「いいの、碧君?もう模擬戦をする意味がなくなってるけど」
藤原さんが聞いてくるが、僕にはまだ玲次にやることがある。
「これで玲次と会うのも最後になると思うので、こいよ玲次」
「上等だ!爆発石がなくたって俺様はお前を倒せるんだー!!」
相変わらず叫びながら切り込んでくる玲次に僕は手に持った剣を手放して、玲次の顔面に思いっきりストレートパンチを決めて吹き飛ばす。
「ぶぅぁ!?」
短い叫び声を上げながら放物線を描くように飛んでいき、地面に数回バウンドして動きが止まる。
倒れている玲次を見下ろしながら僕は言う。
「今のは僕や空ちゃん、古土さん達、そしてお前に迷惑をかけてきたみんなを代表して殴った痛みだ。玲次はこれから罪を償っていくからこれで勘弁してあげる」
玲次は顔面を殴られて上手くしゃべることができず途切れ途切れに話してくる。
「な…んで……お前は…昔から…いつも……そうだ……数年前の…魔物に襲われた時も…力もないくせに俺様と…空をかばって……」
途中から玲次の声が涙声になりながら僕を見る。
「……あの時、怖くて動けなかった…自分が……悔しかった。……そして動けた碧が羨ましかったけど同時に憎くも…あった。だから…お前の夢を潰そうとしたが……できなかった」
「……そうだったのか、でも僕は昔の玲次は羨ましかったけどね、気の弱かった僕をいつも引っ張ってくれていろんな場所に連れて行ってくれたから、僕にとって玲次はヒーローだったよ」
僕の話を聞いた玲次は一瞬、目を見開いて眠るように気絶した。
近くで見ていた藤原さんが僕に問いかける。
「もういいのかい、じゃあ。勝者、灰城碧!」
玲次との模擬戦が終わり歓声が聞こえる中、タンカーで運ばれていく玲次の様子を僕はじっと最後まで見送った。