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入学試験6

「灰城君、あの中に知り合いでもいるの?変な顔してるよ」


飛騨君が、隣に座っている僕の顔を見て尋ねる。


怯えている様子の玲次を見つめていた僕の悩んでいる顔が、どうやら表情に出てしまっていたらしい。


「うん、幼馴染がいるんだ。ほら、あの後ろの方にいる。いつも威張り散らしているあいつが、あんなに大人しくしているのが、なんか変で」


そう言って僕は玲次を指さした。


「灰城君の幼馴染もそうだけど、受験者の全員、様子がおかしくない?実技試験をこれから受けるのに、あの受験生たちの顔はもう終わった後って感じがするよ」


僕の横の席にいる飛騨君とは反対側に座っていた野能見さんが話に加わった。


「そうですよ。これから罰を受ける囚人の顔をしてます。何でしょうね」


受験生たちを眺めていると、彼らが観客席で見ている僕たちに気付き、チラチラとこちらに視線を向けてくるのがわかった。一部の受験者が僕を指さしてながら他の受験者と話をしている様子が見えた。


「灰城君、指差されてるよ。そんなに有名人なの?」


野能見さんが興奮した様子で、まるで崇拝者を讃えるように僕の話を飛騨君に説明する。


「そうですよ、飛騨さん!灰城様は街に出た、進化寸前で強力になっていた、ボブゴブリンを単独で討伐した映像がニュースになるほどの実力者ですよ!!」


狂気を孕んだような野能見さんの表情に、飛騨君はかなり引いているようだ。しかし、飛騨君の表情を見て我に返った野能見さんは、真顔に戻り再び説明を始めた。


「飛騨さん、ごめんなさい、つい興奮してしまいました。……まぁ、その影響で灰城様は世間ではコスプレ冒険者と呼ばれたり、女児からは、私が前に言っていたように、『吸血騎士リリー』と見た目がそっくりなため現実世界に飛び出してきたアニメキャラクターだと思われたりしてますが」


「……そうなんだよ。僕が買い物に行くといろんな子に握手して欲しいとか、写真を一緒に撮って欲しいとか。……もう慣れたけどね」


僕が肩を落として憔悴している様子に飛騨君は励ましてくれる。


「灰城君、元気出して、苦労した分いいことが絶対あるって」


「そうですよ、灰城様、気持ちを切り替えていきましょう。」


野能見さんも僕を励ましてくれる。


そんなやりとりをしていると、これから実技試験を受ける受験生たちの方で動きがあったようだ。


藤原さんがいつの間にか前に出てきていた、玲次と話している様子で、ここからでは話し声は聞こえないが、玲次は藤原さんに文句を言っているように見える。


「灰城君、君の幼馴染、藤原さんと揉めてない?」


僕は短くため息をついて顔を下に向ける


「はぁ……揉めてるね、本当に何やってんだか、まだ実技試験も始まっていないのに」


「見てください、灰城様。あれ」


野能見さんに言われて再び視線を向けると、藤原さんは玲次の服の襟首を掴んで持ち上げていた。


「……玲次、藤原さんに何を言ったんだ」


玲次の態度を見て、幼馴染として恥ずかしく、呆れてものを言えない。


「あれじゃあ、試験落ちるんじゃない」


「あんな態度でよく試験を受けに来ましたね」


2人の辛辣な意見に僕はただ苦笑いをして、今度は、藤原さんが玲次を持ち上げたまま僕を指さしている。


「灰城君、藤原さんが君を指しているよ」


「たぶん玲次は僕のこと分らなかったんじゃないかな。前に玲次に会った時と違う容姿になったから」


玲次は藤原さんの掴んでいる服を振りほどいてこちらに向かってくると僕に向かって叫ぶ。


「灰城!!降りてこい!!決着をつけようぜ!!俺様とお前のな!!」


「灰城君。あの人が君を呼んでるけど。どうするの?」


(ここで行かないと、状況が進まない気がするんだよな~、はぁ~しょうがない)


僕は気が進まないが、玲次のいる会場に行くために席を立つ。


「灰城様、行って大丈夫なんですが彼、かなり気が立っているようにですが」


「でも僕が行かないと周りに迷惑が掛かりそうだし、はぁ……。ちょっと行ってくるよ」


会場に再び戻って来た僕は、玲次のいる近くまで向かう。


「……久しぶりだね、玲次。いったい何の決着をつけるんだ。」


「言葉通りの意味だ!!俺様がお前より格上だという証拠を、この場で証明してやる。惨めで弱いお前をな」


「ごめんね碧君。実技試験の後だっていうのに、あたしが碧君のことを言ったばっかりに」


申し訳なさそうに僕に謝罪する藤原さんに、僕も幼馴染の愚行に対して謝罪をする。


「こちらこそごめんなさい。僕の幼馴染が迷惑をかけて、僕も玲次には言うことがあるのでちょうどいい機会です、でも、実技試験の最中にこんな事をするのは流石に……」


どうしたものかと悩んでいると藤原さんの近くにいた試験官の男性が僕に声をかける。


「大丈夫よ、もうこの子たちはこの学校には入学しないから、この子たちは名古屋の方に移動することになっているの」


近づいてくる男性の試験官は服の上からでもわかる筋肉質で、ピチピチのスーツを着た大男が足を内股にして歩いて来る。


「この子たちは全員、犯罪を犯してしまった子たちなの。だから名古屋にあるダンジョンに行って、今までの罪を償ってもらうためにまずここで実力を確かめるつもりだったのよ。妹から聞いてないかしら」


見た目と違うオネェ口調に若干動揺はしたがそれよりも気になることがある。


「……妹から?誰のことですか?」


心当たりのない僕に、藤原さんが衝撃の真実を告げる。


「……いい、碧君、驚かないで聞いてちょうだい。あれは詠美の兄貴なの」


僕は声には出さないが詠美のお兄さんである衝撃に、口を開いたまま男性に指を指して固まる。


「も、森崎さんのお兄さん、は、初めまして灰城碧です」


僕は若干声を引きつらせて自己紹介をする。


「も~硬いわよ、碧ちゃん。それと、私のことはお・ね・え・ちゃ・んだから忘れないでね。私のことはルーチェって呼んでね」


お兄さんが僕に迫ってくる恐怖に硬直していると、藤原さんが割って入って僕を背後に隠す。


「ちょと、碧君に何してるのさ、なにがルーチェだ、あんたは権蔵って名前があるでしょうが」


「いやん、その名前は言っちゃだめ、私にはルーチェって魂の名前があるの、失礼しちゃうわ」


身体をその場でくねらせて否定するお兄さんに、僕は話を再開する。


「それでどうしたらいいですか、僕はあと面接も控えているんですが」


「……もう、灰城ちゃんが決めていいわ、嫌なら断ればいいし、玲次ちゃんの実力を知りたいだけだからね。面接の方は私から言っておくわ」


収集がつかないと悟ったお兄さんは、ため息交じりに僕に言ってくる。


「勿論戦うよな灰城、ボブゴブリンを倒したのに俺様と戦えないか、所詮その動画とやらも作り物に違いない」


「碧君、嫌なら断ればいい、本来はあたしが戦う予定だったから、無理する必要はないよ」


藤原さんが言ってきてくれるが僕はもう答えは決まっていた。僕は藤原さんに真剣な顔で答える。


「いえ、僕は戦いますよ。今までの雪辱を晴らすために」


僕は玲次の正面に立ち堂々と答える。


「玲次、勝負しようか。どちらが上とか興味ないけど、これで会うのが最後になるかもしれないし」


「そうこなくちゃな、お前がずっと俺様より下だと教え込んでやる」


そうして僕は玲次と戦うことになり、勝負が始まろうとしていた。


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