入学試験4
実技試験が始まり慎重に行動して相手の出方を見たい僕だが、連携を取る気のない3人が我先にと考えもなしに突っ込んでいく。
「俺がサクッと終わらせて終了だ!!」
最初に藤原さんに攻撃を仕掛けたのは試験官をなめていた、男性受験者だ。
木製の槍が風を切る音を出しながら藤原さんに正面から堂々と突きを繰り出す。
「はぁ~。まったくなめられたものだね。」
藤原さんは受験者の行動にため息を出し、呆れた表情で一歩も動かずに受験者の槍の突きを手の甲で素早く横に弾いて叩き落とし、手首を掴み乱暴に壁際に片手で放り投げた。
「……あたしは協力して挑んで来いって言ったよね。君は失格!!それと……」
藤原さんは突っ込んでいた2人が途中で止まって唖然としている、片方の1人の受験者に素早く回り込んで、勢いをそのままのせて流れる様に蹴りを繰り出し、残りの受験生の方へ巻き込むように蹴り飛ばし、壁に激突して気絶する。
「お前たち2人もだよ。上位の魔物を想定してって言ったよあたし。考えもなしに突っ込んで来る馬鹿が何処にいる。そんな奴らに付き合っている時間はないよ……って聞こえないか」
ズボンに付いた砂埃を軽く払った藤原さんは、僕たちの方を向き笑顔を向ける。
「お待たせしたね。ちゃんとあたしの動きは観察できたかな。大丈夫だよ君達には手加減するから。これは実技試験だが訓練の意味合いも兼ねてるから、真面目に試験を受ける子にはあんな速度で攻撃しないよ」
両手に棒を持って構えを取った藤原さんを見て僕たちも行動を開始する。
「みんな作戦通りに展開して」
僕は皆に指示を出し、藤原さんから目を離さずに足を地面に滑らせながらゆっくりとにじり寄る。
「いいね。あの短い時間でちゃんと役割分担を決めているのは、これまでの受験生たちの7割は役割を決められず、さっきみたいに結局連携できずに終わってしまったから」
僕たちは藤原さんを取り囲むように立って少しずつ距離を詰めていく。
「まずは私からファイヤーボール」
僕の後方から女性受験生が藤原に向けて魔法を放ってくのを合図に、僕たちは動き出した。
ファイヤーボールを藤原さんは持っていた長い棒で薙ぎ払ってかき消した瞬間を狙って、飛騨君が背後から攻撃を仕掛けるが体を横に半歩ずらし、軽く飛騨君の腹部を棒で突く。
「死角からの攻撃はよかったけど動きがぎこちないね。……しっ!!」
僕は隙を見て攻撃を仕掛けようとするが、藤原さんがこちらを見ずにとっさに薙ぎ払いを決めてくる、僕はすぐに剣を体の中心にして縦に置き、剣を盾にして身を守るが体が浮き、少し後ろに飛んでしまう。
「とっさに守りに入ったのはいい判断だよ。よっ、ほっ、その判断を大事にしてね」
連携で攻撃を仕掛ける左右に展開してくれている男性受験者たちの攻撃を軽く棒で捌き、涼しい顔で僕にアドバイスをする。
そのあとも僕たちは連携して様々な攻撃を繰り返し藤原さんに攻撃を繰り出すも結局攻撃は当たらなかった。
試験が始まって20分経った頃、試験終了の合図を審判に告げられる。
「そこまで!!お疲れさまでした。これで実技試験は終了です。最後は個人面接をして終了ですのであそこに見える観客席の方で休憩して待機をしてください」
上部の観客席を指しながら説明をする試験官に従って移動を開始する僕を藤原さんは呼び止める。
「碧君さっきの戦闘技術よく鍛えられているね感心しちゃった。あたしは嬉しいよ。試験が終わったら詠美と一緒に家に遊びに行くからそのつもりでいてね。じゃあ、引き続き試験がんばってね」
僕は藤原さんに努力を褒められたことを嬉しく思いながら待機所になっている観客席の方に向かって行った。