救えた少女とその保護者達
古土さんたちを救出してから数日が経ち、僕とルトはのんびりと家庭菜園の雑草を抜いていた。
快晴の中、そよ風が心地よく肌に触れる涼しい午前のひととき。
「ルトちゃん、お兄ちゃん、遊びに来たよ~」
最近、古土さんの妹である古土翼ちゃんがよく家に遊びに来るようになった。
もちろん、一人で来ることはなく、いつも保護者同伴だ。
古土翼ちゃんは姉の古土雛の見た目を全体的に幼くして、違うのは、天然パーマの黒髪と健康的な白い肌。
僕が寝たきりになっていた翼ちゃんを治療して以来すごく懐かれてしまった。
「ごめん、灰城君、翼がどうしても行きたいって」
「おはようっす、碧っち」
「おはようなの~」
翼ちゃんのお姉さんである古土雛と、その親友である三島千香と四方木凛も一緒にやってきた。
千香さんは語尾に「~っす」をつけることが特徴的で、クラスではムードメーカーの存在だ。
凛さんはのんびりした口調が特徴的で、小柄な見た目に反して力持ちだ。
この3人はいつも一緒に行動していて、本当に仲がいい。
「いいよ、ルトが友達ができて嬉しいみたいだし、気にしないよ」
雑草を抜きながら、ルトと翼ちゃんが遊んでいる様子を見守る。
僕の作業を見ていた3人も雑草取りを手伝ってくれる。
「翼が灰城君に治してもらって以来、妹はあなたに興味津々みたい。うちの雑誌を突然読むようになったり、灰城君のことを聞いてきたりね」
「何言ってるッスか、ひなっちだって来る前に、身なりは大丈夫か散々ここに来るまで聞いて来たじゃないッスか。私は碧っちのこと気になりますよ。命を助けてもらったにも関わらず、何も要求もしてこない、今のご時世じゃありえないくらいのいい人ッス」
「わたしも~最初は灰城君の悪い噂を聞いて怖かったけど、噂はあてにならないの~」
僕の悪い噂が流れていたなんて今初めて知った。
「ふ~ん、僕の悪い噂が流れていたのか。知らなかったよ」
僕はその話を聞きながら気にせず雑草取りを続ける。
「灰城君は自分の噂を気にしないの?」
「全然気にしないよ、以前の僕はそんな余裕なかったしね。知っていたとしてもどうでもいいかな。
噂を信じている人たちとは付き合いたくないよ」
「うっ、ごめんなさい、うちは最近までその噂を信じてました」
「自分もッス」
「申し訳ないの~」
三人は申し訳なさそうに僕に向かって頭を下げる。
「だからいいよ。それよりお昼はどうする?食べに行く?」
「流石にそこまでお世話になるのは、せめてうちらに作らせて」
「野菜を切ることと盛り付けならできるッス」
「私は~お母さんに台所に立つなって言われてるの~自信あるのに~」
二人が慌てながら必死になって、四方木さんを止める。
「りっ、凛はご飯が出来るまで灰城君と一緒にルトちゃんと翼を見ていて」
「そっ、そうっす、それがいいっす」
「納得いかないの~」
頬を膨らませて四方木さんはご立腹の様子。
僕はそんな不満げな四方木さんを見ながらクスリと笑いながら思う。
(本当に助けられてよかった)
※
僕は四方木さんと縁側に並んで座って、ルトと翼ちゃんの楽しそうに遊ぶ二人を眺める。
四方木さんは僕に微笑みながら。
「本当に灰城君には感謝してるの~、雛が翼ちゃんが寝たきりになってから笑わなくなって、それを見ているのが辛かったの~」
「たしかにクラスで笑ったとこ見たことない」
「それがやっと笑えるようになって嬉しいの~」
そう言って立ち上がり、僕の座ってる正面に立ち、僕の手を取り微笑み。
「もし灰城君に荷物持ちが必要なら、わたしは喜んで同行するの~。雛や千香も同じ気持ちだよ~。
戦闘は得意じゃないけど、サポートなら任せてほしいの~」
ルトと翼ちゃんが僕と四方木さんのそばに駆け寄る。
「おかあちゃんとおねえしゃんもいっちょにあそぼう」
「そうだよ、翼はお兄ちゃんと凛おねえちゃんと一緒に遊びた~い、ほらこっち~」
翼ちゃんは僕と四方木さんの手を握り引っ張る。
「わかったから、そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ」
「そうなの~、まだ時間はたっぷりあるの~」
お昼ご飯が出来るまで4人で遊びながらゆっくりするのだった。
しばらく後に、僕に嵐が来るとも知らずに。