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リ・ボール  作者: よもや
2章 海外遠征編
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58 探偵の真似事

「…そんなことが。」


俺…仁界巡は、日本がどれだけ平和な国なのか、改めて考えさせられた。


「だから今急いでんだ…。イヴを早く…助けてやらねぇと…っ!」


俺は走り出そうとしたシルヴァンの足を掴んで、もう一度転けさせた。


「なにすんだぁ…っ!?」


焦っていても状況は変わらない。フィールドの中ではあれだけ冷静なシルヴァンが2度も足元を疎かにするなんて。


「あなた1人で探す気ですか?警察は?他に頼れる仲間は?大人は?」


「警察は動いてくれねぇよ…っ!ただでさえ迷路みたいなこのスラム街に…情報なしで乗り込んでくれるほど…あいつらは情に厚くねぇ…っ!」


確かに。長年ここで生活してきたシルヴァンでさえ、今ダミアンを見つけられずずっと走り回っていたのだから。このスラム街の全てを完全に把握するのは無理な話なのだろう。


「それに…仲間達を巻き込むわけにはいかねぇ…。俺が一番知ってんだ。あいつらがどれだけ怯えて生活しているか…どれだけ苦しい日々を送っているか…。」


シルヴァンは拳を握った。


「ダミアンの恐怖も知ってる。あいつは狂ってんだ…。もし、あんなやつに関わらせてしまったら…あいつらが危ねぇ…っ!」


誰も巻き込みたくない…。それはシルヴァンなりの優しさなのだろう。だが、シルヴァン…君はまだ子供だ。大人を頼ることを覚えた方がいい。子供はそこまで…強くない。


「いいでしょう。では僕もイヴさんを探すのを手伝います。」


「はぁ…っ!?何言ってんだお前…っ!?話聞いてなかったのかっ!?」


シルヴァンは驚き声を荒げた。


「聞いていました。その上で、あなた1人では解決できないと考えました。これからのサッカー界の発展に、あなたは絶対必要だ。ここで失うのは惜しい。」


「何言ってんだお前…っ!?遊びじゃねぇんだぞ…っ!命がかかってんだよっ!」


シルヴァンが起こるのも当たり前だ。ふざけている場合じゃない。今この瞬間も、イヴに危険が迫っているかもしれない。


「それに…お前は仲間でもねぇ…国も違ぇ…っ!俺のせいで…お前の人生までめちゃくちゃにするのは嫌なんだよっ!」


シルヴァンはしっかりと理解しているのだ。今の自分の身の上が、決して当たり前ではないという事実を。自分が間違いなく…下流階級の人間だというこの現状を。


「大丈夫。」


俺は頭に血を上らせるシルヴァンの肩に手を乗せ、その隣をゆっくりと通り過ぎる。さてと…人を探すにはどうすればいいか。


「大丈夫って…お前…」


シルヴァン。君はすごく優しい人間だ。チームのメンバーを名前で呼ばなかったことも…誰とも馴れ合おうとしなかったことも…全部自分の身の上に巻き込まないようにするためだったんだろう?


「シルヴァン・ネージ。あなたは救われるべきだ。大丈夫。俺に頼ってみてください。今回は特別料金にしておいてあげます。」


シルヴァンは膝をついて涙を流した。きっと自分以外頼れる人間がいなかったのだろう。孤独は何より人を弱くさせる…同時に強がりにさせる。君はまだ弱い。これから国を背負っていくのだから、強くなってくれ。


「貧乏だから…金無ぇよ…。」


良かった。冗談に応えられる心はまだ残っているみたいだ。


ーー


とはいえ…この入り組んだ迷宮でたった1人の人間にあてもなく辿り着くのは無理な話だ。まずは情報を集めないといけない。


「ほほぅ。ここがあなたのお店ですか。…いつもこんな外観で…?」


「ちげぇよっ!?やられたんだよダミアンにっ…!!」


流石にそうだよな。

現場に戻ってきていた俺達は、ボロボロになったシルヴァンの祖父の店を目の当たりにしていた。


「さて…では探しましょうか。」


俺はその場でしゃがみ込んで、スマホの明かりで辺りを照らしながら探索を開始した。


「探すってお前…一体何を…!?」


俺の行動に驚くシルヴァン。


「手掛かりは現場に落ちているはずなんです。路地裏で犯行を働く人達だ…決して国の軍隊などでは無い。きっとどこかに抜かりがあるはず…。」


きっとスマホなんかの電子機器すら持っていないのだろう。だからこそ警察は逆に手が出せない。GPSなんかで位置を特定できないからだ。


「時間がない。早く見つかるといいんだけど…」


そこで俺は一枚の紙切れを発見した。


「あった。」


シルヴァンが俺の元に駆け寄ってくる。


「おいおい…なんだってこの状況でゴミ拾いなんか…っ!」


俺はその紙を照らした。するとやはり予想的中。その紙切れには丁寧に地図が描かれていた。構造を見るにおそらくこの路地裏のものだろう。


「これって…地図か?」


「えぇ。先ほども言った通り、この路地裏は迷宮だ。長年過ごしてきているあなたでも道に迷うほどにね。ということは…その条件は彼らにとっても同様だ。地図でも作成しておかないと、この路地裏を自由に歩けないんじゃないですか?」


俺は地図の砂を落として、イヴを連れ去ったダミアンが居座るその場所を探した。


「かくいうあなたも地図を持っているのでは?」


「あ、あぁ。確かに。でも、俺は基本同じ場所を行き来するだけだから持ち歩かねぇな。」


「そうでしょう?それは彼らも同じなんです。ここに来るのはいつもの往来からは外れている。だから必ず持ち歩くと思っていたんですよ。地図。」


「…な、なるほどな。確かに、考えてもみりゃ当たり前のことだな…っ!」


きっと冷静さを欠いていなかったならばシルヴァンでもすぐに気づいたはずだ。だがもし1人でこれを見つけていれば、1人で敵のアジトに乗り込みかねない。これを避けられただけ良しとしよう。


「おそらくこの×印が書かれた場所が現在地…つまり相手にとっての目的地でしょう。ですが…相手のアジトは印がついていませんね。」


流石にそこまでの馬鹿ではないみたいだな。であれば…しらみつぶしに探す他ないだろう。


「とりあえずは臭いところを潰していきましょう。」


俺達はその地図を参考に、怪しい行き止まりや、道が細くなっているところなどを重点的に捜索を開始した。


「そもそもアジトがあるかもわからないですし、あったところでそれがアジトだと認識する方法は俺たちにはないんですよね。」


それに、先ほども言った通りこの手の問題は子供だけでは解決が難しい。いくら巻き込みたくないからと言って、シルヴァンも監督やチームメイトに相談するのが先決のはずだ。


「イヴ…。」


心配そうに辺りを見回すシルヴァン。相談することすらできないほど、切羽詰まっていたのだろう。なぜなら彼はまだ…15歳の少年なのだから。


ーー


しばらく探して、俺達は地図の中で最も怪しい場所を見つけた。


「…さて、やっぱりここで間違いなさそうですね。」


裏路地をしばらく歩いて抜け、開けた広場の端にある廃教会。その地下へとつながる隠し扉が、おそらくは彼らのアジトだろう。


「ラッキーでしたね。偶然ここに出入りするところを発見できるなんて。」


俺たちは偶然にも、先ほどの追い剥ぎ達の内の1人が、この廃教会を出入りするところを目撃した。


「あぁ…。さっさと行くぞっ!」


今にでも走り出そうとするシルヴァンの腕を抑える。


「あなたはどれだけ馬鹿なんですか…?今僕らがたった2人であそこに忍び込んで何ができるんですか。」


「それは…」


言葉に詰まるシルヴァン。やはり無策で感情に任せて突っ込もうとしていたようだ。もう少し冷静さを保ってほしい。


「結局この手の問題は警察に任せるのが早いでしょうね。」


「…警察って、あいつらは動いてくれやしないぞ…っ!?」


アホかっ!?と両手を広げるシルヴァン。


「どうして動いてくれないのか。それを考えてみてください。」


俺は一つ一つ予想を述べていく。


「あなた方ここに住む人間ですら迷うような迷宮…そこに住む…一般的な観点から見ると碌でもない少年1人からの連絡…それでは警察も動きたがらないでしょう。」


きっと何件もイタズラ電話をもらっているはずだ。


「あなたもしたことありませんか?友人とふざけてイタズラ電話をしたこと。」


「い…言われてみれば…。」


冗談で言ったのだが、本当に身に覚えがあったみたいだ。あまり嘘をつきすぎると、本当にそれが起きた時に信じてもらえなくなる。きっと今実感したんじゃなかろうか。


「ではこれならどうでしょう…?日本代表の子供達と監督、そしてスタッフ陣…フランス代表の子供達と監督、そしてスタッフ陣…彼らみなから署名を集められたとしたら…。警察も動かざるを得ないでしょう?」


俺は携帯電話を取り出して監督に電話をした。きっとこの手の問題を放っておけるような人じゃない。木城監督はかなり情に厚い人だからな。


「お前、まさか…」


「もしもし…木城監督ですか?お忙しい中申し訳ございません。少しお話が…」


それからしばらく、俺は監督に現在の状況を事細かに説明した。シルヴァンの身の上…そして何が起きているのか。地図はあって、アジトは分かっていても、あとは署名が必要だということ。


『…ふむ、なるほど。話は理解した。にわかには信じられない話だが、仁界…お前がくだらない冗談を言うとは思えん。』


監督は少し考えてから結論を出した。


『今日、フランスの監督と話をつけてみる…選手達ともな。お前達は危険だからその場からすぐに離れろ。シルヴァンもいるのだろう?彼も今日は寮で寝泊まりするといい。』


「ありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」


『気にするな。子供に扱える問題じゃないことは話を聞けばわかる。むしろよくアジトを見つけてくれた。あまり危険なことはしてほしくないがな。』


俺はシルヴァンに目配せして、準備が整ったということを伝えた。


「はい…はい、よろしくお願いします。…良かったですね、監督が選手達を集めてくれるそうですよ。」


俺は電話口を口から離して、シルヴァンに今の会話の内容を伝えた。シルヴィンは驚いた顔でこちらをみている。にしても驚きすぎな気がする。


「えぇ。それでは…」


バンッ…


その瞬間、突然強い音と共に、頭に衝撃が走る。視界がぐわんぐわんと揺れて見える。一体何が起こったんだ?


「ぇ…?」


目の前で羽交締めされるシルヴァン。俺を助けてくれようと手を伸ばしてくれているようだが、俺にその声は聞こえない。


「ったく…このクソガキどもが…うろちょろつけてきていたとはな。」


「っはなせっ!!…おい、仁界!仁界っ!大丈夫か…っ!?」


俺の意識は朦朧としていき、瞳はゆっくりと閉じていく。そこで気づいた。俺は殴られたんだ。


「…やめろテメェらっ!そいつは関係ねぇだろっ!」


必死にやめろと訴えるシルヴァン。


あぁ…何やってんだろうな俺は。この人生だけは自分のためだけに生きようって…そう決めていたのにな。危険ってわかってたのに…サッカーができなくなるかもってわかっていたのに…元監督として、シルヴァンが…選手がフィールドに立てない悔しさを…考えてしまった。


「縄で縛っておけ。シルヴァン、お前も静かにしろ。」


「がぁは…っ!?」


シルヴァンは俺と同じように殴られ、意識を失っていく。そして俺も…手を縄で縛られたところで完全に意識を失ってしまった。




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