118 「カフネ」
こんにちは。
今回はこちらの本のご紹介です。
〇「カフネ」
阿部暁子・著 / 講談社(2024)
小説「カフネ」はご存じの通り、今年の第22回本屋大賞受賞作品ですね。
ということで、学校図書館の方へも購入してみたものでした。
実は夏休みに入る前に先生が借りてくださったのですが、子どもたちは借りてがなく、夏休み中にわたしが借りて帰っていたものです(これから紹介に力をいれたい……!)。
さてさて。
日本の女性の作家さんによるものであり、ファンタジー等とは違っていわゆる日常的なことをテーマにした作品なので、「勧め方にはひと工夫が必要そうな感じ……」と思いながら読み始めましたが。
冒頭は「う~ん??」と思うような描写もあったのですが、次第に引き込まれて真ん中あたりからは一気読みでした。
主人公は、つい最近年の離れた弟・春彦を亡くしたばかりの40代の女性・野宮薫子。
最愛の弟を亡くした薫子は傷心を抱えつつも、ごく健康だった弟がなぜか生前に残していた遺言書に従って、彼が生前つきあっていたという女性・小野寺せつなと会うことに。
というのも、春彦は一人暮らしをしていた自宅のベッドで亡くなっており、特に事件性もなく、そのすぐ前まで明るい様子で姉とも話をしていたため、自殺とは考えにくかったからでした。春彦は自分の遺産の一部を、すでに別れた元恋人であるせつなに遺そうとしていたのです。
この春彦の死が、ある意味でこの物語の中で大きなキーとなっています。亡くなった原因をはじめ、その不思議なタイミングや、彼が何を思って生きていたのか……といったことまでが、ちょっとしたミステリー調のギミックになっていて目が離せません。
ところで、薫子が不審に思いながらもせつなという女性に会ってみると、せつなはけんもほろろに「必要ないです」とその申し出をつっぱねてきました。苛立って口論になってしまう薫子。興奮しすぎたためなのか、薫子はその場で倒れてしまいます。
その後あれこれあるのですが、やがて薫子は何かに導かれるようにして、せつなが働く家事代行サービスが行っている土曜日限定のボランティア活動に参加することに……。その会社の名前が「カフネ」。
料理の達人であるせつなと二人、薫子は様々なご家庭に出向いてその家の片づけをするというボランティアを行うように。そこで出会う、様々な状況に置かれた人々。そこでせつなが提供する、非常に細やかに相手のことを考えて作られた料理の数々……。
次第しだいに薫子はせつなに一目おくようになり、春彦のこと、両親のこと、自分のことについて落ち着いて考えられるようになっていきます。
また、不妊治療の果てに自分を捨てていったもと夫のことについても、次第に彼の真実がわかるようになっていきます。
「人は決して一面だけを見て評価するようなものではない」というのが、作者さまの言いたかったことの一部であるように思いました。
平易な文章で描かれているためか、大切な部分でぎゅっと読者の心の柔らかい部分に自然に切り込んでくるような感動があります。私個人も、いくつかの場面では涙腺がぎゅっと熱くなる感覚がありました。さすがは本屋大賞作品。
ということで、こちらの本も学校図書館にあってよい作品ではないかと思います。中学生ぐらいの男の子が登場するシーンなどは特に、じっと読んでみてほしいなと思いました。
それでは、今回はこのあたりで。