115 「逆ソクラテス」
はい、こんにちは。
相変わらず「夏休みの読書マラソン」中のつづれです~。
とは言いながら、結局映画を観に行ったり自分の小説やエッセイで忙しかったり「夏休みだからこそ!」通える病院通い(主に検査系)で、さほど冊数は熟せておりませんが……。
今回ご紹介するのはこちらの作品。
○「逆ソクラテス」
伊坂幸太郎・著 / 集英社(2020)
こちらの本は今年、学校図書館向けに毎年配布されている「夏休みお勧め本」といったポスターなどでも紹介されているものです。毎年届くので、恐らくは全国的に配布されているのではないかと。
伊坂幸太郎さんは、少し前にもご紹介した「重力ピエロ」の作家さんですね。映画化された作品としては「ゴールデンスランバー」や「アヒルと鴨のコインロッカー」などがあります。
「お勧め」として紹介されただけあって、「逆ソクラテス」は中学生が読むのにちょうどいい感じの作品。
まず、短編集であること。主人公が大体小・中学生ぐらいの子ばかりであること。日常に即した描写の小説ばかりであること。表現は平易で、分かりやすい言葉だけで書かれていること。などなど、「中学生に読みやすい」という点でかなり大事なところを抑えてある作品のように思います。
作者である伊坂幸太郎さんも、あとがきの中で「自分だからこそ書ける、少年たちの小説」を書こうと思ったという風に書いておられます。
短編集ではあるものの、こちらはあの「給食アンサンブル」とは違い、登場人物が密接にかかわりあっている感じではありません。同じ名前の人物(先生です)は出てきても、主人公側はまったく交流はないですし、世代も違う感じ。
さてさて。ということで今回は、本のタイトルにもなっている「逆ソクラテス」というお話の冒頭だけご紹介しましょう。
主人公の青年が自宅のリビングのソファに座り、何の気なしにテレビをつける……という場面から物語は始まります。そこに映っているのはプロ野球の試合。終盤で活躍した選手のインタビューが始まり、その選手がちょっと不思議なジェスチャーをする……という。
そこから物語は一気に過去の思い出へと飛びます。主人公が小学六年生の少年だった頃へです。
「学力も運動もそこそこ」で目立たない少年だったころ、彼は担任の久留米先生になんとなく反感を覚えていました。この「もやっとする感じ」がとても巧みに表現されていて、とても「うまいなあ」と感じます。あらすじで説明するのは難しい感じなのですよね。
この久留米先生は、なんとなく生徒たちを「こいつはこういう生徒」「こいつはこんな生徒」と自分の中で決めつけた価値観でしか見てくれない感じの人だったのです。
とくにこの先生から半ば「みそっかす」のように思われている男子生徒がおり、彼のことも含めて不満に感じている友人・安斎とともに、少年はとある作戦を実行することに……という。
なんだかね、小中学生が読んでももちろんよいのですが、むしろ大人になった自分に何かを突きつけられているような気分になる短編でした。自分の価値観をいま一度、ちゃんと顧みて見直さなくてはいけないのでは……と、襟を正さねばならない気持ちになるといいましょうか。
ラストもさらりと非常に鮮やか。
他の短編もそれぞれに「大人ってこういうとこあるよね」「私、大丈夫だろうか」と考えずにはおられないような内容。
これを小中学生の子たちはどのように受け止めるのか、そのあたりもまた興味深いなと思いました。
もちろん学校図書館にもお勧めです。
ではでは、今回はこのあたりで。