112 「トムは真夜中の庭で」
こんにちは。
今回はもう、押しも押されもせぬ児童文学の名作ですね。
とはいえわたくしは未読でしたあ、すみませーん!
いわゆる「名作」と呼ばれているものでも、まだまだ読めていない作品が多くて……お恥ずかしい。
ちなみにこの「トムは真夜中の庭で」も、今年改訂された東京書籍の中学国語教科書にて紹介されている作品のひとつです。
〇「トムは真夜中の庭で」(原題:「TOM‘S MIDNIGHT GARDEN」)
フィリパ・ピアス・作 / 高杉一郎・訳 / 岩波書店(1975)
まあ、この初版年を見るだけでも、名作度合いがわかろうと申すものですね。そもそも名作ぞろいの岩波少年文庫ですし、もう「間違いない」っていうやつですね、はい。1975年というのは岩波少年文庫に入ったときですが、もとの英語版は1958年に出版されたものですしね……。もはや「古典」と呼んでもいい作品かもしれません。
あらすじを最初にさっと見たときには「『時の旅人』と似た感じかな……?」と思ったのですが、同じイギリスの作家による児童文学ということでもあり、似てくるのは仕方がないのかもしれません。
とはいえ、こちらは主人公が少年ですし、読み進めるにつれてどんどん引き込まれていきました。
主人公は、少年トム・ロング。弟のピーターがはしかに罹ったことで、ひとり自宅を離れ、遠い町カースルフォドに住むおじさんとおばさん夫婦の家に預けられることになります。この夏は弟ピーターと自分の家の庭で楽しい夏休みを過ごそうと思っていたのに……と、腹に据えかねてちょっと拗ねているトム。
たどりついたおじさん、おばさんの家は大きなひとつの建物で、以前はひとつの家だったものを、今は中を区切って何家族もが暮らすアパートにしてあるものでした。
おじさん、おばさんはいい人たちで、トムに優しくしてくれるのですが、とにかくトムは不機嫌なうえ、退屈で死にそうになっており、おじさんたちに対しても不愛想。
建物の中には大きなホールがあって、そこに大きな古時計が据えられていました。
ベッドに入っても眠くならず、鬱々としていたトムでしたが、なぜか古時計が夜中に十三も時をうつのを聞いて、そっと寝床を抜け出します。
やってきたときには閉まっていたはずの裏庭へ出る扉がなぜか開いて、外へ出てみると、外は広々とした美しい庭園でした。それ以来、トムは夜ごと、そこでこっそりと遊ぶようになります。
ところが、それはとても不思議な庭。
夜に出ているのに、あちら側では夜だったり、昼だったり。雷で倒れたはずの大木が、次に行ってみたらちゃんと立っていたり、季節まで違っていたり……。
また、トムが庭へ出ると、建物の内装や住んでいる人々の顔ぶれまで、現在とはがらりと変わってしまう上、人々はだれもそこにトムがいることに気づきません。何を言っても彼らには聞こえません。扉などを開けようにも、手がすりぬけてしまってうまくいかないのです。
ただひとり、そこに住む家族にひきとられて育てられている最年少の少女ハティだけが、トムの姿を見、言葉を交わすことができて……。
この時と空間の入れ替わる不思議なギミックに加えて、ハティという少女の様子が次第に変わってゆくにつれ(要するに成長してゆく)、こちらもどんどん物語に引き込まれていきます。
また、特筆すべきはこの庭園の描写の大変な美しさ!
あとがきによると、これは作者フィリパ・ピアス自身がかつて住んでいたグレート・シェルフォドの住まいの庭園の様子を、まるごと「ぶちこんだ」とのこと。挿絵を描いた画家にも実際の家と庭園の写真をわたして参考にしてもらったのだとか。作者にとってとても大切な庭園への思い入れがあることがうかがえますね。
ともあれ、トムはこの不思議な庭のことを弟ピーターにだけは手紙で知らせつつ、この不思議な冒険をつづけていきます。ラストはとても感動的。名作と呼ばれるだけのことはある、素敵な結末でした。
ではでは、今回はこのあたりで。