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111 「鬼の橋」

 

 こんにちは。

 大抵の夏休みはまあそうなんですけれども、今年も自分の勤める学校図書館から借りてきた本や購入した本で「なるべくたくさんの読書をしよう!」が目標のひとつとなっております。

 司書のみなさんはもともと本好きの方が多いと思われるので、別に目標にしていなくても普通にたくさんの読書をなさることでしょうけれども、わたくしは目標にしておかないと……小説かいたり映画みたりマンガ読んだりゲームしたりフィットボクシングしたりで、なかなか時間が限られてしまうのです(苦笑)。


 ということで。今回はこちらの本のご紹介です。


 〇「鬼の橋」

 伊藤 遊・著 / 福音館書店(2012)


 とはいえ、こちらの作品はかつて第三回児童文学ファンタジー大賞を受賞し、1999年・第45回の中学校課題図書にも選ばれ、今年改訂された東京書籍の中学国語の教科書で紹介されている有名本でもあり、特に学校の司書さんであればご存じのかたが大半ではないでしょうか。私が今まで読めていなかっただけで!


 まず、文体がとても平易で品があって読みやすかったです。比較的優しい漢字にもルビがずっとつけられていることもあって、読みやすさは抜群。


 舞台は平安時代の京都。冒頭では弘仁五年(814年)。身分社会であり、庶民は飢餓や貧困、疫病に苦しみつぎつぎに死んでいく一方、貴族たちは比較的裕福に暮らしている社会です。


 主人公は小野(たかむら)。十一、二歳ぐらいの少年です。

 腹違いの妹、比右子(ひうこ)が最近自分の失態がもとで命を落とし、そのことでずっと失意の思いを抱えて苦しんでいます。

 冒頭は、そのむしゃくしゃした気持ちを鴨川にかかる五条橋の欄干をつい蹴りつけて晴らしてしまったことで、貧民の少女・阿子那(あこな)から叱責される場面となっています。阿子那の父はこの橋をつくった人夫で、ここで事故にあって死んでいたのでした。そのため、彼女はいつも必死でこの橋を守ろうとしているのです。


 篁の妹・比右子はとある荒れ寺の古井戸に落ちて死んでしまったのですが、親から禁じられているにも係わらず、ある日そこへ近づいた篁は、そこから冥界へと迷い込んでしまい……。

 そこで地獄の恐ろしい鬼どもに出会って恐れおののく篁。ですが、そこへすでに三年前に死んだはずの征夷大将軍・坂上田村麻呂が現れて救ってくれます。


 田村麻呂は冥界の川に掛かる橋の上におり、亡者たちがどんどんわたってゆくその橋を自分ではどうしても渡れない状態。なぜかというと、死んだときに帝から「死してもなおこの都を護れ」との命令が下されていたから。彼は現世ではすでに「王城守護の武神」としてあがめられてさえいるのでした。

 田村麻呂は篁の父とも生前に親交があり、懐かしそうにその話をします。

 ともあれ、「ここにいてはいけない」と言われて篁はそのまま田村麻呂に促されて現世へ戻ります。


 物語はこののちも、地獄の鬼どもと現世の篁、阿子那たちとの係わりの中で事件がおこり、不思議な(えにし)がつながって人間関係が築かれていきます。その中で篁が成長してゆくさまを感じることができるのではないでしょうか。

 特筆すべきは、鬼であったにも係わらず、人間の世界へ彷徨いでてきて阿子那と親しくなり、生活をともにしはじめる非天丸(ひてんまる)の存在。彼が登場することで、俄然ページをめくるスピードが速くなりました。気になりすぎる!


 読後感はさわやかであり、希望があります。若い人に対して「人生において苦境が襲ってくることは避けられないが、悲観して自暴自棄になる必要はない」といった、児童文学に求められる明るく力強いテーマ性を持つ作品ではないかと思いました。各所で若い人へ勧められるのも納得です。


 ではでは、今回はこのあたりで。


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