109 「宙わたる教室」
こんにちは。
今回はこちらの本のご紹介です。
少し前、某国営放送にてドラマ化され、主演を窪田正孝さんが務められていて気になっていた作品です。あ、私はドラマそのものは未見ですけれども。
〇「宙わたる教室」
伊予原 新・著 / 文藝春秋(2023)
伊予原新氏といえば、ごく最近、「藍を継ぐ海」で第172回直木賞を受賞されていますね。こちらも学校図書館に入れようとしたところ、賞を獲ってすぐということもあってなのか、「在庫なし」として叶いませんでした~。残念! やむなくという形でこちらの「宙わたる教室」を入れたようなわけでした。
舞台は関東のとある高校。
この学校には二部、つまり定時制があり、物語は基本的にそこに通うさまざまな人たちの人間模様となっています。
近頃赴任してきた理科担当の教師・藤竹は、ちょっと風変わりな男性の先生。冒頭から、ヤンキーな青年・柳田岳人の目線で語られはじめるのですが、次の章ではフィリピンにルーツをもつ中年女性アンジェラ、さらに保健室登校をなんとかやっている少女・名取佳純、クラスで最高齢の老人・長嶺……といろいろな異なるバックボーンを持つ生徒たちが藤竹先生と少しずつかかわりをもつようになり、科学部を結成。やがて「教室に火星のクレーターを再現する」という目標のもと、科学部の活動にのめり込んでいく……という物語。
学校名や生徒の名前などはフィクションですが、こちらのお話は実話をもとにしたものだそうです。
この本のあとがきによれば、モデルになったのは大阪府立大手前高校や大阪府立春日丘高校の定時制課程だそうで。日本地球惑星科学連合2017年大会「高校生によるポスター発表」で優秀賞を獲得した研究テーマからこの小説ができたとのこと。それだけに、小説とはいえ説得力がすごいのだろうと思います。
「勉強ができない」「学校にいけない」とひと言でいっても、状況は人それぞれ。「勉強ができない」という一事だけで、人がいかに社会的に難しい立場に追い込まれてしまうのか、といった社会問題にも目を向けさせられる作品だったと思います。
最初の主人公の青年は、「うまく文字を読むことができない」、いわゆるディスレクシアの人なわけですが、それだけのことですっかり自分の人生、未来を悲観してなげだしかかっていました。その彼がこの物語の最後でどのように変化していくかも見どころのひとつでしょうか。もちろん、ほかの生徒さんたちもそれぞれに気になります。
学校図書館にある意味のある作品ではないかとも思いました。よろしかったらどうぞ。
ではでは、今回はこのあたりで。