104 「恋せぬふたり」
こんにちは。
今回はこちらの本のご紹介を。
しかもわたくし、放送当時はよく知らなかったんですが、こちらは某国営放送で2002年に放送されたドラマがもとになっています(しかも主役のお一人があの高橋一生さん!)。
ドラマは当時、第40回向田邦子賞を受賞したということで、非常によくできたものらしく。今回の本は、そのドラマの脚本家がご自身で小説化されたものです。
〇「恋せぬふたり」
吉田恵里香・著 / NHK出版(2022)
この吉田恵里香さん、最近お名前を目にした気が……と思われた方も多いかもしれません。昨年、NHKの朝ドラで「虎に翼」というドラマが評判になりましたが、実はそちらの脚本もこの脚本家さんの手によるものです。「虎に翼」、本当に素晴らしいドラマでした。
吉田恵里香さんは、今の世の中で「マイノリティ」と呼ばれる立場の人たちに目を配り、丁寧に注目する書き手さんだなあと思っておりましたが、こちら作品もまぎれもなくそうしたテーマを内包するものでした。
ということで、ネタバレにならない程度に少しだけご紹介を。
兒玉咲子は、大型チェーンスーパーマーケットの本社営業戦略課で働く女性。思春期以降、なんとなく自分が恋愛や性について他の人たちとは違う感性を持っていることに気づき、違和感を覚えながら生きてきた人です。
彼女には、恋愛や性的なことがよくわからないのです。
過去に彼氏がいたことはあったのですが、他の人たちのようにそれに興味や関心をもつことができず、「わからない」ため、結局別れてしまう……という状態。
咲子は、若い男女が少し仲良くしているだけで、すぐに周囲の人々が「この二人は恋仲だ」と考えることがそもそも理解できません。若い女性が「独身でいる・彼氏がいない」という状態だと、すぐに周囲がだれか男性をくっつけようとお節介なことをやり始めたり、男性自身が強くアプローチしてくることなどに、ずっと嫌な思いや違和感を覚えています。仕方なく、そういう場面になるとなんとなく意味のない微笑を返して誤魔化し、やり過ごしてきたというのです。
悩んだ咲子は、ある日とあるブログに行き当たり、この状態が「アロマンティック」とか「アセクシャル」と呼ばれるものだと知るように。
さらには、偶然にもそのブログの主で咲子と同じような状況にある男性、高橋羽と出会い、彼の家で共に暮らすことに……。
ふたりが始めた「家族カッコ仮」という状態は、なかなか周囲の人々には理解されず……??
決して生々しい描写ではないとはいえ、性的な話が避けては通れないテーマでもあり、少しばかり男女のそうした行為をほのめかす描写があります。
けれども、昨今のLGBTQそのほかマイノリティ、多様性、ダイバーシティといったものが押しつけがましくならずに表現されており、考えさせられました。それらを理解する助けになる作品だと思われるので、学校図書館にある意味はあるのではないかな……と思います。
中高生が自分の幸せとは何か、ということを考える助けにもなりそうです。
ではでは、今回はこのあたりで。