103 課題図書2025
こんにちは。
今年はちょっと注文するのが遅れてしまい、いつもよりもやや遅めですが、今年の中学校課題図書のご紹介です。よろしかったらご参考ください~。
今回の3冊をざっと眺めて、「まずどれから読もうかな?」と考える司書さんが多いだろうなと思いますが、私もそのご多聞に漏れず毎年そんな感じです。
ですが今回は、わりと素早く一冊目が決まりました。こちらです!
〇「スラムに水は流れない」(原題:THIRST)
ヴァルジャ・バジャージ・著 / 村上利佳・訳 / あすなろ書房(2024)
なぜ、これを一冊目に選んだか。
それは、お話の舞台がインドだから!
一応、原文は英語ということで分類は「933」となっているのですが、作者であるヴァルジャ・バジャージさんはインドにルーツを持つ方のようで。
ほかのエッセイをご覧の方はご存じのことと思いますが、インド・テルグ語映画「RRR」に遭遇して以降のわたしはインド映画大好き人間に変貌しておりまして(苦笑)。
しかもこちら、冒頭でインドはヒンディー語ムービー(ボリウッドなどとも称されますが)のスーパースターのお名前がいくつか書かれていまして、ますます「これ読まなきゃ!」となったという……。
まあ、そのお話は置いといて(笑)。
簡単に冒頭だけでもストーリーのご紹介をいたしましょう。
舞台はすでに申した通りですがインド有数の都市・ムンバイ。主人公はその町のスラムに暮らす12歳の少女ミンニです。
このスラムには、ムンバイの全人口の40%が住んでいるのに、水は市全体のわずか5%しか供給されません。それも朝2時間、夕方1時間という限られた時間帯のみ。スラムに暮らす人々は、みんなで共同で使っている水道まで行って、朝と夕には容器に水を入れて運ばねばならないのです。
3月は特に水不足になる季節らしいのですが、そのころ、ムンニたちが夜にたまたま知り合いのおじさんの車で出かけた際、ムンニの兄・サンジャイが、闇社会の水マフィアを目撃したことで危険な状況になり……。
ムンニはとても優秀な子で、将来は大学へ行って高等教育を受けたいと望んでいるのですが、スラムに住む人々にとってそれがいかに難しいことかがよくわかる物語。大きな理由は貧困です。そればかりでなく、ムンニは今も残るカーストによる差別に晒される状況に。そんな風に自分の責任ではないことでさまざまな苦難に陥るムンニを見ていると、自然と彼女を応援せずにはいられなくなってきます。
これに加えてインドの今ある問題について調べ、自分の状況に引き付けて考察すれば、感想文の内容も深まって書きやすくなりそうに思われました。
ということで、二冊目。
〇「鳥居きみ子 家族とフィールドワークを進めた人類学者」
竹内紘子・著 / くもん出版(2024)
実はわたくし、こちら、正直冒頭はとても読みにくいと感じてしまいました。文体が簡素な感じで、ちょっと木で鼻を括ったように感じられたためかもしれません。それに加えて、冒頭の舞台が明治の日本であり、女性が生きていくには非常に厳しい環境であることがひしひしと感じられたためでしょうか。
伝記ですので、そもそも文体に余計な虚飾は必要ないわけで、それは読むうちにだんだんと慣れてきました。中学生のみなさんも、がんばってそこまで読んでくれるとよいのですが……。
と申しますのも、こちらは読み進めるほどに胸が熱くなるような展開の作品だからです。
四国は徳島に生まれ、女学生だったきみ子は、はっきりとした将来の夢もなく、「とにかく東京に出たい」ということで当時の東京音楽学校へ。
当時はまだまだ非常な男尊女卑社会です。男性には旧制中学から大学へ行ける道がありましたが、女性は女学校で花嫁修業をするか師範学校へいき、職業婦人になった暁には結婚を諦めて他人の子どもを教える仕事に就くことを期待される。
うーん。今じゃ考えられない世界ですね。
ともかくも、その東京で「ちょっと会ってみてほしい人がいる」と紹介されてきみ子が会ったのが将来の夫となる鳥居龍蔵でした。この方が人類学を志す青年で、きみ子にもその面白さを語り、やがて結婚することに。
人類学の面白さに開眼したきみ子は、やがて生まれた子どもを人に預け、生まれたばかりの赤子づれで夫とともにモンゴルに渡ることに……。
その後、つぎつぎに生まれた子どもたちまでが研究者となり、一丸となって人類学の研究に邁進する姿は非常に気高いものに思えました。
「人類学に国境は関係ない」という龍蔵氏の信念が、まっすぐに胸に響きます。
決してとっつきがいい本だとは言い難いわけなのですが、課題図書に選ばれるだけのポテンシャルを持った本だったなと思いました。
ということで、いよいよ3冊目です。
〇「わたしは食べるのが下手」
天川栄人・著 / 小峰書店(2024)
さて、いよいよ日本の小説の出番です。
表紙からして、可愛らしい中学生らしき少女ふたりのイラストで好感が持てます。いかにも「読みやすそうだな」と思ったこともあって、最後に読むことにしていました。
そしてその予想は大いに当たり。大変読みやすく、いま中学生である人たちにとっては非常にとっつきやすい導入の作品だったと思います。
主人公は中学生の女の子ふたり。
ひとりは、給食や母親が作ってくれた食事を食べることが苦痛でたまらず、なかなかうまく食べきることができなくて悩んでいる少女・葵。作中で医師の診断がおりたわけではないのですが、恐らくは「会食恐怖症」というものではないか……という話が出てきます。
母親は料理研究家であり、その母の作るものが食べられないことで、母親との関係もぎくしゃく。
普通に給食を食べるだけでも大変なのに、あるとき学校で「完食月間」なるイベントが決まってしまい、葵はますます食べることへのストレスを抱えていました。
そんな中、ある日保健室へ行った葵は、すらりと背が高くて美しいクラスメートの少女・咲子とはじめて話をします。
咲子は朝から学校に来ること自体がまれな子。ほとんど食事を摂らず、自分の姿を気にしている様子。
咲子の父親は実業家なのですが、母親はその夫のアクセサリーのような存在となってしまっており、自分の容姿を異様に気にするばかりで、娘の咲子のことには無関心です。
咲子自身もとあることがきっかけで自分の容姿を気にするようになり、現在では摂食障害の状態に。
このほか、宗教上の理由もあって豚肉を食べない少女や、家の事情があって給食で栄養を摂るしかない少年などが登場。さまざまな「食事」に関する問題が絡められながら、とある大人との係わりをきっかけに少しずつ解決の方向へ……という展開。
先述したとおり非常に読みやすい上、主人公も日本人の中学生ということで、3冊の中ではもっとも子どもが手にとりやすい本ではないかと思います。食事のことで悩みを抱えている子には寄り添う内容ではないかと思いますが、感想文を書くとなると少し難しさも感じる内容かもしれないな、とは思いました。摂食障害や会食恐怖症についてほかで少し調べてみた上で、自分の経験も踏まえながら書く感じでしょうかね……。
と、今年の課題図書はこんな感じでございました~。
なにかお役に立ちましたら幸いです。
ではでは、今回はこのあたりで!