第17話: 村人たちが、黒騎士を屠る
震えながらも立ち上がる村人たち。
その手には、悠真の進化能力によって生まれ変わった武器が握られていた。
「まずは俺が道を開く!」
悠真が風裂の刃を振りかざし、一気に前へと踏み出した。
夜風が唸り、髪をなびかせる。
「――疾風斬撃!」
シュッ――!
放たれた風の刃が、迫りくる影狼たちを一掃する。
その斬撃は音すらも置き去りにし、黒い毛並みが突風とともに夜の闇へ舞い散った。
「す、すげえ……!一撃で吹き飛ばしやがった!」
村人たちが驚愕する中、悠真は次々と風の刃を放つ。
振るうたびに、透明な軌跡が闇を裂き、遠くの魔物たちをまとめてなぎ倒した。
「悠真さんに続け!」
村人のひとりが叫ぶと、恐怖に縛られていた者たちの目に、再び生気が戻る。
「おりゃあああっ!」
鋭刃の鍬を手にした農民が、鋼牙熊の分厚い毛皮を貫いた。
肉を裂く音とともに、巨大な熊が地を揺らして倒れ込む。
《鋭刃の鍬》
特性①:刃強化(刃の部分が金属化し、攻撃力を大幅に上昇)
特性②:装甲貫通(硬い防御を持つ敵にも有効打を与える)
「いける...いけるぞ!」
魔貫の槍を持った若者が影狼の群れを貫き、次々と仕留めていく。
《魔貫の槍》
特性①:魔力貫通(魔物の防御魔法を貫通しダメージを与える)
特性②:投擲強化(遠距離からでも正確に敵を狙い撃つことが可能)
「この槍……本当にあたるぞ!」
叫びとともに、村人たちの恐怖が少しずつ勇気へと変わっていく。
武器を手に、村人たちは次第に自信をつけ始めた。
「す、すごい……! 俺たちでも戦える!」
互いに声を掛け合いながら、連携して魔物を押し返していく。
初めて感じる手応えだった。
この力は、俺1人だけのものじゃない。誰かを守れるんだ――そう思えた。
だが、その瞬間。
――ズゥゥン。
地面がわずかに震えた。
異様な気配が村の入口に広がる。
悠真が反射的に視線を向けると、壊れた柵の前に、ゆっくりと“それ”が姿を現した。
漆黒の鎧に包まれた騎士。
重厚な鎧の隙間からは、まるで生き物のように意思を持った魔霧が、ゆらめくように漂っている。
その手にした大剣は禍々しく、刃先には微かに黒い炎がメラメラと揺らめいていた。
その場の空気が一瞬で変わる。
奮闘していた村人たちも、圧倒的な威圧感に気圧され、誰もが動きを止めた。
「な、なんだあれは……?」
「人間じゃない……」
村人たちが後ずさる。
先ほどまでの士気が、まるで霧のように消えていく。
その威圧感は、ただ立っているだけで膝をつかせるほどだった。
悠真は剣を握り直し、静かに息を整える。
(こいつ……ただの魔族じゃない……!)
漆黒の鎧が月光を吸い込み、闇の中で鈍く怪しく輝く。
それは、光を飲み込んでなお、自身が深い闇を吐き出しているかのようだった。
間違いない。
この魔族の騎士こそ、魔物たちを操る黒幕だ。
騎士は悠真の視線を受け止めると、ゆっくりと口を開いた。
「……ほう。コイツらを次々と屠っていたのは貴様か?」
低く響く声が夜の空気を震わせる。
その音には、言葉以上の“圧”があった。
悠真は一歩も引かず、静かに返す。
「お前が……魔物たちを操ってるんだな?」
「ふ……察しがいい。」
わずかに唇を歪めると、騎士はゆっくりと大剣を構えた。
刃先が地をかすめ、黒い火花が散る。
「......なるほど、少しばかりはやるようだが……その力、どれほどのものか試させてもらおうか。」
次の瞬間、空気が爆ぜた。
――ドンッ!!
地を蹴る轟音。
騎士は視界から外れるほどの速さで踏み込み、悠真との間合いを一瞬でゼロにした。
(っ……速すぎる!)
風が、逆流する。
悠真が反射的に構えた、その刹那――
ガギィンッ!!
剣と剣がぶつかり合い、金属が悲鳴を上げる。
火花が夜空を裂く。衝撃波が地面を揺らし、周囲の砂を巻き上げた。
「ほう……」
騎士が楽しげに呟き、再び間合いを取る。
悠真は腕の痺れを感じながら、冷や汗を拭った。
(速さだけじゃない……洗練されている)
「人間にしては悪くない動きだ。」
「しかし――我が『魔霧』にどこまで抗えるかな?」
言葉とともに、騎士の足元から底なしの黒い霧が爆発的に立ち昇った。
それはまるで意思を持つ無数の蛇のように蠢き、漆黒の鎧を這い上がっていく。
「はたして、貴様のその剣が……どこまで耐えられるのか……」
黒霧が騎士の身体を完全に包み込んだ次の瞬間、
周囲の重力そのものが歪んだような凄まじいプレッシャーが悠真を襲った。
動きが、鈍る。
「くっ――!」
悠真が身を屈めて回避行動をとった瞬間、黒い残光が走る。
騎士の一撃が空を裂き、悠真の頬をかすめた。
ほんの一瞬、コンマ数秒の遅れで、確実に首を撥ねられていた。
だが、すれ違った衝撃は想像以上に重く、悠真の足元が大きく沈む。
(こいつ……霧で自分の質量や魔力を引き上げてるのか!?)
歯を食いしばり、体勢を立て直す。
このまま守勢に回れば押し潰されて終わりだ――手数が尽きる前に反撃しなければ!
「――疾風斬撃!」
渾身の力を込めて剣を振るう。
鋭い風の刃が一直線に飛ぶ。
しかし――
「甘い。」
黒霧が渦を巻き、風の刃を吸い込むように消し去った。
悠真の目に驚愕が走る。
(風を……霧の魔力で完全に相殺して喰いやがった!?)
騎士の影がゆらりと動く。
気づいた時には、すでに悠真の懐――!
「終わりだ、消え失せろ」
漆黒の大剣が、振り下ろされる。
風が裂け、空を覆う月明かりが途切れた。
絶体絶命の、その瞬間!
「悠真さん!!」
鋭い叫びとともに、一本の槍が2人の間に割り込んだ!
騎士の刃を強引に弾く。
見れば、先ほどの若者が武器を手に立ち塞がっている。
村人たちの叫びが、戦場に響き渡った。
「俺たちも、戦うんだ!!」
その言葉とともに、武器を持った村人たちが一斉に駆け寄ってくる。
彼らの決意を感じた。
(そうだ……俺だけじゃない。みんなも戦っている!)
握る手に、再び力がこもる。
「ここで負けるわけにはいかない!」
悠真は歯を食いしばり、剣を構え直す。
彼らの声が、悠真の心に火をつけたのだ。
ギィンッ! ガキンッ!
火花が散る。
悠真は必死に刃を振るい、黒き騎士の猛攻を受け止めていた。
だが、剣を交えるたびに腕が軋み、呼吸が荒くなる。
押されている――わかっていた。
(くそっ……! 攻撃どころか、一撃ごとに削られていく……!)
騎士の剣は重い。
まともに受ければ、骨ごと吹き飛ばされるほどの破壊力だ。
それに加えて――
(こいつ、全く疲れる様子がない……!)
騎士の動きに乱れはなく、むしろ余裕すら感じられた。
ただ冷たく、正確に殺意だけが迫ってくる。
ズドンッ!!
地面を砕く一撃。
砕け散る瓦礫を跳ね飛ばしながら、悠真は後方へと大きく飛び退いた。
「はぁ……はぁ……っ!」
肺が焼ける。
限界は、もうすぐそこだった。
(……このままじゃ、やられる――)
息を整える間もなく、騎士が再び踏み込む。
目で追うのがやっとの速さだ。
ガキンッ!!
今度は完全に防ぎきれず、剣圧が腕を貫く。
衝撃が肩まで走った。
感覚が一瞬、白く弾ける。
「ぐっ……!」
足元が揺らぐ。
力の差は、あまりにも大きかった。
――その時。
「下がって!」
リィナの叫びが夜を裂いた。
反射的に体を引くと、すぐ横を閃光が走る。
バシュッ!!
一閃の鋼矢が、騎士の足元の影を正確に撃ち抜く。
影を縫い付けられた騎士の身体から、黒い霧がわずかに霧散した。
「……ッ!? 影を縫うか……!」
騎士の流れるような動きが、ほんの一瞬だけ硬直した。
「今にゃ! 悠真!」
その声で、悠真の中の何かが弾ける。
全身で地を蹴った。
(このチャンス、逃すかよ――!)
一気に踏み込み、剣を振り抜いた。
「はぁぁぁぁっ!!」
シュンッ――!
風を裂く音とともに、刃が閃く。
風の放つ斬撃が、一直線に騎士へと迫った。
ガキィィンッ!!
だが、騎士はとっさに剣を構え、その衝撃を真正面から受け止めた。
刃は鎧をかすめる程度で、決定的なダメージにはならない。
(くそっ……! 浅い!)
だが――
「もう一発いくよ!」
リィナの声。
今度は、彼女が手にしていた"矢"が輝きを増す。
バシュッ!!
青い閃光が一直線に走る。
「ふんっ」
騎士は余裕を崩さぬまま、肩の重厚な甲冑を跳ね上げ、その神速の矢をただの物理攻撃として弾く構えを見せた――が。
ズブゥゥッ!!!
「な、んだと……!?」
矢はそのまま騎士の肩口を正確に貫いた。
「……ぐはっ!!...なんだ、この力は!」
《破魔の聖矢》
特性①:穢れ浄化(闇・呪い・不死属性の敵に追加ダメージを与える)
特性②:魔力貫通(防御魔法を一時的に無効化し、内部の魔力核へ干渉可能)
特性③:装甲透過(物理防御を貫き、確実に肉体へ届く)
それは、あらかじめリィナに託しておいた進化の矢だった。
黒い霧が裂け、騎士が膝を折る。
その一瞬の隙を逃すわけにはいかなかった。
悠真の背後から、村人たちの熱い叫びが爆発した。
「悠真さん!!」「今だ!!」「やっちまえええ!!」
血が熱くなる。
(そうだ……俺は一人じゃない! みんなが……俺の背中を押してくれている!)
「これで……終わらせる!!」
風裂の刃を両手で強く握り締め、悠真は大地を蹴り砕くほどの全力で踏み込んだ。
周囲の風が巨大な渦を巻き、地面が獣の咆哮のように唸る。
ゴオオオオッ!!
吹き荒れる暴風が悠真の髪を激しく逆立て、夜の闇を切り裂く。
全身の魔力と想いを乗せ、悠真は渾身の叫びを放った。
「くらえええええっ!!!」
心臓が爆ぜるほどの鼓動とともに、風裂の刃が銀色の閃光となって騎士を襲う――!
第18話、感謝です。
少しずつ伏線が動き始めています。
次回『黒騎士の残滓』
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