さようなら!ネプトゥーヌス男爵家!
リオこと元カレとの最後の悲しい時間(何度も言うが微塵も思っていない)を過ごした私は、無駄に煌びやかな廊下を歩きながら自室へ向かった。
実は私の実家であるトゥーヌス家は辺境地の男爵家でありながら本来は父の代で公爵にまでなれるほど昔から王家に貢献してきたらしい。ただ残念ながらお爺様もお父様も面倒な立場はいらないと爵位が上がるのを拒否し続けて男爵家のままということになっている。なので国で何番目かに裕福な貴族なのだ。
そんな父は王に使える宰相でもあるためほとんど家にはいないし、きっと私のことも忘れ去ってるのだろう。
あぁ嫌なこと思い出したわ。これからの新しい生活につかわしくないしお父様のことは忘れましょう!
少し俯きぎみになっていた顔を上げると噂をすればなんとやらで、向かい側から私と同じ金色の髪にピンク色の目をした男性がやってくるのが見えた。
最悪だわ。
「ごきげんよう。お父様。お出かけですか?」
「あぁ」
色んな感情を押し殺して満面の笑みを父に向けたが、本人は一瞬立ち止まり私の方を一瞥するとすぐ歩き始めた。どうやら興味がないらしい。
目の前を通り過ぎそのまま玄関に向かった背中を睨みつける。
実の子供にこんな態度をするなんてほんと嫌な奴。ヒロインのかわいい尊顔が目に入らないのかしら。
そう実父はエリーサに興味がない。元々後継者のため男が欲しかったのだ。だが体の弱かった母は私を生んですぐ他界した。母を愛していたらしい父は私を恨んだだろう。母を失ったうえ、生まれたのは女だったのだから。完全無視や虐待はされていないがこの体の記憶に父との楽しい記憶は全くない。
そして1年後後継者のため、男の子の養子を迎えることになる。2つ年上の私の兄になる人だ。その後さらに家での自分の身の置き場をなくしたエリーサはどんどん恋人であるイラーリオに依存していく。彼をなくすと1人になってしまうという思考から浮気をしている彼を泣く泣く見過ごすのだ。
原作を読んでいた頃はそんな健気なエリーサに心打たれ号泣し、溺愛モードに入ってからは報われてよかったねという親心とイラーリオの変わりようにキュンキュンしたが、自分がエリーサとなった今は話が違う。そもそもイラーリオを好いていない。この家での堅苦しい思いもするつもりはない。
どうせエリーサの存在はこの家ではいてもいなくても変わらない。内気だった彼女には仲良くしている侍女もいない。となればやることは1つ。家出だ。
父も私の存在は邪魔だろうし、社交界に1度も顔を出したことはないので私の顔を知っている者は本当に一握りなのだ。
自室に戻った私は早速準備を開始する。
クローゼットを勢いよく開け、しまい込まれていたキャスター付きのカバンを取りだす。
カバンを窓側にある机付近まで引きずって、鍵付きの引き出しの奥にしまってある金貨たちを眺め、にやにやしながらカバンに詰める。
きっとヒロインにあるまじき顔だろうが気にする必要はない。
一応一人娘お小遣いはそれなりに貰っていたらしいエリーサは十分すぎるほど貯金がある。
本人になったとはいえ少し罪悪感が湧くが、絶対エリーサを幸せにして見せる!お金があればなんでもできる!余裕ができたらイラーリオなんかよりいい男を捕まればいいのだ!
明るい未来に思いをはせながら次は服を詰め込むためクローゼットに戻る。が収納されている服をみて手が止まった。
---前から思っていたけど改めてみると地味な服ばかりね、まぁでも盗賊に狙われにくいという意味では地味な服がいいのかしら?
少し考え、とりあえず詰めるだけ詰めて、気に入らなかったら新しい服を買って古い分は孤児院にでも譲ろうと思いなおした私は、せっせっと服をハンガーから外し、忘れぬようクローゼットの下の方にある下着も数着詰めた。
ーーーこの世界の下着って、何度見てもださいわね
そう、この世界の下着はまさしくカボチャパンツなのだ。
服のセンスのなさと下着のダサさに呆れながら一通り詰め終わり、ふぅと一息つきベッドに倒れ込んだ。
あと必要なものはー。スマホ!!
これだけは絶対もっていかなきゃ
そこでふっと思いあたる。そういえば・、充電は大丈夫なのかしら?
こちらに転移する前、確か充電器にスマホをさしてきていたはずだからある程度はあると思うけど
私はベッドの上に置きっぱなしだったスマホの待ち受けを確認する。『充電100%』の文字が目に入った。
あぁよかったあれ?でもよく考えると充電器がないじゃない。スマホがないこの世界で充電器なんてあるはずないわ。というか電気もないじゃない!!えっ神様いいかげんすぎない?
周り回って神様に腹が立ってきた私だが、充電を無駄に使うわけにはいかないためそっと電源をオフにした。
よし!これで準備終わり!昼間に出ていくとばれるかもしれないから決行するのは夜中ね!
一応置手紙でもするか、探されても面倒だし、いや探さないか
散々迷った結果、万が一のことも考えて机に向かい筆をとった。
----お父様、私は元気に生きます。探さないでください。エリーサ・ネプトゥーヌス----
まずい。筆をとったものの書くことがない。10秒で終わってしまった。
そうだ!どうせなら今までで一番の綺麗な筆跡で書いてやろう。あっスマホでお手本でてこないかな!
思い立った私は先ほどオフにしたばかりのスマホの電源を付け某サイトで『達筆 文字』と検索をかけた。するとお手本変換サイトなるものが出てくるではないか!!持つべきものはスマホだ。
きっとこの達筆さに父は驚くだろう。こんな達筆な字を書く娘をなぜ今まで放っておいたのだ!となるに違いない。絶対そうならないであろう妄想を頭の中で繰り広げニタニタが止まらない。私の頭の中はこの窮屈な生活から逃れられるただそれだけで気分が高揚しているのだ。
早速変換したい文字を入力し、出てきた文字を模写する。横書きだとなんか気に食わなかったので縦書きにすることにした。文字もどうせなら万年筆より筆ペンの方がいいはずと思い、筆ペンに持ち変える。
結果、何度も書き直し約2時間かけて縦書きの習字文字で書いた置手紙が完成した。
なんと立派な置手紙!!文章は2、3行しかないけど、これぞ日本人!
あっスマホこんなことに使っちゃった!けどまぁいっか!門出だし!
----改めて電源をオフにした私はしばらく自分の字を見つめ、夜中に出発するならと仮眠をとることにした。
深く眠りに着いた頃、コンコンと聞こえたノック音で現実に引き戻される
「お嬢様、ご夕食の準備ができました。」
えっ!夕方!?
勢いよく体を起こし部屋の中をくるりと見渡すと大きなキャスター付きのカバンが目にはいる。やばい!!
今、部屋の中を誰かに見られるわけにはいかない。そう思った私は足早で扉へ向かうと顔だけひょっこりとだし、夕食を知らせに来た侍女を見やる。
「知らせてくれてありがとう!お父様はもうあのまま外出したのかしら?」
「はい。もう出発なさいました」
侍女は笑顔1つも見せないまま淡々と答える。まぁある意味いつも通りである。
ーーー少しくらい愛想笑いをしていいものを
「そう。じゃあ私は自室で食べるわ。」
「かしこまりました。」
「えぇ、お願いね!」
バタりと顔を引っ込め侍女を追い払った私はカバンをクローゼットへ押し込めた。
父が家に居るときは形式上一緒に食堂で食事をとる。まぁお察しの通り終始無言だ。
そんな父はきっとまたすぐに王都に向かったのだろう。つまりはさっきの廊下での言葉が最後になったということだ。少しだけ寂しいと思うこの気持ちはきっとエリーサのものなのだ。
少しナイーブになった私は気持ちを打ち消すようにふるふると頭をふった
まぁ悩んでもしょうがない!せっかく転移した異世界!色んな町や国を見て回ろう!そして億万長者になる方法をみつけて、ウハウハ稼いで、イラーリオよりいい男と結婚する!!
気合いを入れなおした私は侍女が運んできたご飯を全て平らげ、湯あみをされてベッドに入った。
そして、日付が明日になったころ窓からそっと部屋をでる。
初めてこの世界で夜に足を踏み入れる。
少しほっぺを撫でる風がここちよく気分が高揚する。
元々私の部屋は1階にあったので危険なことをする必要はない。男爵という爵位はあれど爵位の中では一番低い爵位である我が家に護衛騎士も多くはない。
なにより辺境地という名のど田舎なのでそんなに治安は悪くないのだ。
門の前でおしゃべりしているなんとも仕事熱心な騎士2人を観察しながら反対側へ石を数個一気に投げる。
「な!なんだ!今の音は!」
「まさか侵入者か!」
「いや、こんな辺境地の男爵家に?」
「・・・ないな、まぁ一応見に行こうぜ。暇だし」
「そうだな、暇だし」
全然やる気ねーなこいつら。と思いながらも騎士たちが反対方向に向かったのをみて、さっと門をでる。
この街には夜でも他の街へ行く馬車がでている。まぁ日本で言う夜行バス的なやつだ。時間はかかるが誰でも乗ることができるし安価でもあり今の私からすると好都合だ。
さぁやっと自由な生活ができる!さようなら!ネプトゥーヌス男爵家!
私は笑顔で邸宅に手を振ると、見に纏ったローブのフードを深くかぶり前世で好きだったバンドの曲を口ずさみながら街へ向かった。
◇◇◇
その約1時間後----
「なぜこうなるのよーーーー!!!」
馬車の停留所に向かったはずの私は牢獄の中に囚われていた。
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