プロローグ
(痛い…苦しい…なんだこれ…俺…死ぬのか…)
俺の人生は一言で言えばクソだ。
就職して辞めて就職して辞めてを繰り返して
消費者金融や親や友達から金を借りまくり
もう返せないとこまで来た。
それくらい俺の人生はクソだ。
俺は真面目に働こうとしたさ、でも無理なんだ。
ちょっとした事で病んで逃げてを繰り返す。
こんな人生…もう嫌なんだ。
おっと危ない、このマインドに陥った時は気分転換に限る。
俺は外に出て散歩へ赴く、久しぶりの日光はすごく気持ちがいいものだ。
アニメだのラノベだの色々考えながら歩いてると駅前まで来てた。
だいぶ歩いたな…帰るか。
「もう構わないでください!!!」
「お前さえいなければ!!!」
なんだ?痴話喧嘩か?
すると女性の叫び声が聞こえた。
これはただ事じゃないな。
顔をあげるとそこにはナイフを持った男が女性を襲おうとしていた。
俺は叫びながら走った。
身体が勝手に動いたのだ。
「やめろぉぉぉ!!!!!」
こんな時のシミュレーションは子供の頃から何度もやってた。
「この子には手を出すな」と決めゼリフをいい、華麗な身のこなしで犯人を制圧、明日のニュースには英雄として俺の名前が載り、後日警察からは感謝状を貰う。
そんなシミュレーションは何度もした。
いや、ただの妄想……うん、シミュレーションだ。
「!?!?」
そんなこと考えてると腹の辺りがすごく熱く痛く…刺された!?
「お、俺は悪くない!こいつが勝手に出てきたんだ!」
通り魔はそんなことを叫んでた。
駅横の交番から警察が走ってくるのが見える。
おいおいまじかよ、これ死ぬやつじゃね。
こんなはずじゃなかったのに…なん…で…。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
くそ柄にもないことやるんじゃなかった。
誰か知らない女性を助けようなんてするんじゃなかった。
あぁ違うな、クソみたいな俺の人生なんだ。
最後に人を守れたんならそれでいいや。
女性の嗚咽混じりな泣き叫ぶ声がだんだん遠のく。
あぁ…俺…死ぬんだな……。
目を覚ますと知らない天井。
アニメで見るような中世貴族に出てきそうな内装だ。
起き上がろうにも身体が思うように動かない。
そりゃそうだ俺はけが人なんだ。
あれ?てか生きてんだ、絶対死んだと思ったのに。
そう思いながら刺された腹を抑えてみると包帯も何も無い。
包帯どころか傷跡も何も無い。
むしろ何も無さすぎる、なんだこの触り心地は。
むにむにと柔らかく筋肉のきの字もない身体だ。
それに手が…手が!?!?!?
「んわああわああ!」
手が小さい!?喋れない!?身体が縮んでる!?
いや違うこれは…転生?なのか?
実在すんのか?そんなことが…。俺の夢…なのか?
あれよこれよと考え込んでいると執事の格好をした男が部屋に入ってきた。
「お目覚めになられましたか。ヴェルディン様。」
何か喋ってるようだが言葉が理解できない。
これは英語でもない…何語だ?
俺は生前海外サッカーが趣味で色んな国の言葉を耳にしたが、どれにも当てはまらない言葉だ。
「ルーシャ」
また執事の男が何か言った。
その瞬間執事の横に一瞬の光とともに女性が現れた。
なんだ今のは…手品か?なんだ?
何も無かった場所から女性が急に…まぁいいか。
「ここに」
「今日から君がヴェルディン様のお世話係だ」
「私がでしょうか?」
「ルーシャなら安心して任せられる」
「……かしこまりました、父様」
「我が父ライ・ラデンの名によりレイバルト家長男ヴェルディン・レイバルト様にお仕え致します。ルーシャ・ラデンでございます。」
うん、何か話してるのは分かる。
多分大事なことを言ってるような気もするが…理解できないものは仕方ない。
むしろ赤子の俺にそんなにかしこまらなくてもいいんじゃないか?とも思う。
「んんやああ!!!」
とりあえず返事しといた。
生まれて半年が経過した。
まだ言葉は話せないが理解はできる。
どうやら俺の名前はヴェルディン・レイバルトというらしい。
父はフラーティル・レイバルト、母はサラシア・レイバルト、その二人の間に生まれた長男が俺だ。
レイバルト家は地方貴族らしくまーまー裕福な家庭だ。
使用人も何人もいる。
その中でも俺の身の回りをお世話してくれるのが
ルーシャ・ラデンとその父にしてレイバルト家の執事長ライ・ラデンだ。
俺は前世の記憶を持ってるからかあまり面倒はかけず育ってきた。
なんなら生後半年で言葉を理解出来てるのはかなり優秀だと思う。
そんなある日事件は起きた。
つかまり立ちして歩き出した俺はバランスを崩し倒れた。
ただ倒れ方がまずかった、着いた左手は逆方向に曲がり一目で分かる大怪我をした。
「んんやあああわああ!!!!!!!」
骨折ごときで泣きたくないがこればかりは勝手に涙が出てくる。
すると隣にいたルーシャが何やら言葉を話し出した。
「ヴェルディン様大丈夫です、今治します。」
「天に崇めし精霊の神よ彼の者の痛みを癒したまえ、ヒーリング」
すると俺の左手に光が宿る。
空気中から何かが左手に集まってくるのが分かる。
うそ…うそうそうそ!?!?!?
怪我したはずの左手がみるみるうちに治ってく。
これは…魔法だ…。まじか、マジなのか。
転生したのは分かる、聞き覚えのない言語、それから察するに異世界かもとは思っていたがまさか魔法が存在するとは…。
最初にルーシャを見た時もそうだ。
あれも魔法だったのか、これはさすがに心躍るな。
もっと知りたい、この世界のこともっと知りたい。
そんな好奇心から気づけば俺は仁王立ちしていた。
なんだ、立てるじゃん。
とりあえずお礼は言わないとな。
「んありとー」
「あら、ヴェルディン様が言葉を…いえ、どういたしまして」
よし決めた。俺はこの世界では真っ当に生きる。
父に母に誇れるように。




