第五章「ブモンの武者修行」2
それ以来、ブモンはこの第一道場に入り浸った。
道場ビレッジにある第一〜二十四道場には、各1名づつ師範代と呼ばれる猛者がおり、道場の秩序を保っている。
とはいえ、何でも有りの混沌とした道場には秩序などというものはほとんどない。
そういったものを抜きにして暴力の前に身を置いてこそ、最強の剣は得られると考えられているのだ。
少なくとも第一道場では、合図なく乱闘が始まることも珍しくはない。
(まるで辻斬りの世界だ)
ブモンは道場の壁にもたれかかりながら思った。
あらゆる剣技、時には剣技以外の技術も入り乱れ、その中で有効な技を吸収し、剣士達は力を付けていく。
(まるで闇鍋のようだ)
ブモンは思った。
とはいっても、素質に富んだブモンに襲いかかるような者がいれば簡単に返り討ちにされてしまう。
しかしそうならなかったのは、ここに来てからの数戦で周りを強さで威圧したからだろう。
ブモンはその数戦で、自分がこの道場でも上位にいると実感している
そして、ブモンは他の戦いを眺めている間に、獲物を厳選していた。
(あれは良いな)
ブモンが見ているのは、木の蔓が編み合わさって人間の形となっている木人形の魔物だった。
硬い木の身体は容易には断ち切れない防御力を持ち、鋭い木の破片を射出する<蔓手裏剣>という技はまるで弓使いの戦い方だ。
ブモンはマモルとの戦いを自然に想定している。
ブモンの速度の素質の能力<初速バースト>は一撃の速さに全力を注ぐため反動が大きく、防御型には不利だった。
しかし、もう一方の<加速>は徐々にスピードが上がっていき、戦いが長引くほど行動回数を増やすことができる。
ブモンは木人形と戦う時に加速戦法を取ると決めた。
しかし、ブモンが意識するように木人形もまた、ブモンの戦いを見ている。
見た上で初速バーストを使ってこないことは予想している。
(ならば、速度の素質の基本能力、加速を使ってくるだろう)
木人形は思った。
木人形の名前は木王シルベ。
最強の木人形としてマイワールドに生を受けた。
シルベの蔓手裏剣は木人形の素質の能力であり、生きた手裏剣である。
敵を認識し空気抵抗の向きを変え、自動追尾が可能なのだ。
蔓手裏剣と学んだ剣技を組み合わせた速攻戦術ならばブモンに対して有利だろうと考えている。
ブモンとシルベの戦いは必然的に発生した。
まるで示し合わせたかのように、2人は道場の中央に歩いていったのである。
そして、2人は向き合い歩みを止めた。
(奴も俺のことを意識していたか)
ブモンは相手も自分を狙っていたことをこの瞬間に知ったが、別に驚きもしない。
驚いたのは周りだった。
道場内で5本の指に入るであろう2人がついに戦い、片方がこの世から消えるかもしれないのだ。
ブモンは剣を脇に構え、シルベは正眼に構えていた。
(動くッ)
全員が思った瞬間、ブモンは上体を倒し大地を蹴った。
「フッ、死ねッ!」
〜初速バースト〜
低姿勢の高速移動。
素質に明るくない者達はこの行動を当然だと思ったが、そうでない者達の考えは違う。
(防がれれば終わる)
現にシルベは様子見の体であり、すぐに防御の体制に入ることができた。
(だが、それが甘いところよ)
ブモンは今までの数戦、最高速度の60%ほどしか見せていなかった。
そして、速度に反応しきれないシルベの不完全な防御が簡単に押し込まれ、左足が切断された。
(命まで取れたか)
速度の乗った真っ向からの切り上げで決着していたとブモンは通り過ぎてから思う。
反撃を警戒した下段の攻撃を選んだのは、防御の素質の能力<残盾>で初速バーストを無効化されることを懸念したためだった。
だがこれで、シルベの剣技は死んだも同然だった。
(あとはじっくり追い詰める)
ブモンは呼吸を整えるため膝をついた。
シルベはすぐに後方にいるブモンに対して4つの蔓手裏剣を放つ。
それぞれの蔓が空気抵抗を変え、四方からブモンに襲いかかる。
圧倒的疲労感でポテンシャルを失ったブモンだが、それを必死で打ち落としシルベを見た。
(足が再生している・・・?)
青々とした若い蔓がシルベの左足の断面から顔を出している。
つまりシルベはやがて機動力を取り戻すだろう。
初速バーストによって加速を封じられたブモンが今度は不利になってしまう。
しかし、ブモンは一切動揺せず目を瞑っていた。
(感じろ。風の意志を)
立ち上がりながらブモンは、シルベに背を向けてライジングフロウを両手で天に掲げる。
「見せてやろう・・・ライジングフロウの真価をッ!」
ブモンはライジングフロウを手に入れ、いつからか風の意志を感じるようになっていた。
天に掲げられたライジングフロウは勢いよく下ろされ、そのままシルベに向かって下から上へ掬い上げるように斬り上げられる。
ブモンとシルベとの距離は5メートルほど離れており、その動作と同時に放たれた無数の蔓手裏剣がブモンに向かって乱れ飛んでいた。
しかし、ライジングフロウから発生した上昇する突風に絡め取られ、シルベの身体もろとも道場の門を突き破り吹き飛んでいく。
しばらくしても戻ってこないシルベにブモンは勝利を確信した。
ブモンはライジングフロウの刀身に彫られている模様を撫でた。
ブモンはセキサイの話を思い出す。
(おそらくこの模様は、ノザワという奴が風を取り入れるように計算して掘ったものだろう)
そして、ブモンはこの戦いでようやく剣の真価を引き出すことに成功したのだった。




