宇宙工場サブファイロット 07章 囚われの制作者5
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「監禁者はひとり。・・・ひとり。残りの四人は、もう死んじゃっているだなんて。」
ナットは悲痛な声でうめいた。四人は、あの恐ろしいロボットからしばらく話を聞いたが、じきにIS354を追い返し、ロボット会議も散会させて展望ルームに戻ってきたのだった。
ナットは誰よりも強くショックを受けたらしく、テーブルに肘をついて顔を両手で押さえている。隣に座ったボルトは黙って見守り、反対側に座っていたスペアは、彼の頭を撫でた。しかし、そのスペアもすっかりめいってしまっていた。
パドは椅子に座らず、三人から離れた窓辺で、じっと外に視線を向けている。不意にボルトが乱暴に立ち上がり、花瓶を取り上げて部屋のすみの給水機で水を注ぎ始めた。しかし、花瓶から水があふれても水を止めようとせず、流れ落ちる水を眺めている。
スペアが力なく呼びかけた。
「ボルト。水、流れっぱなしだぞ。」
するとボルトはのろのろと給水機を止め、隣の棚から小さいポーションを取り出し花瓶へ投げ入れた。味のついた水の入った花瓶と、人数分のコップを乱暴に取り上げると、皆のいる丸テーブルへと水を運ぶ。誰もしばらく口を聞かなかったが、やっとスペアが飲料を一口飲んで、疲れたように言った。
「ステーション裁判でそんな刑を受けるくらいだから、とんでもない男なんだろうけど。それにしても、あんまりだよな。あんな、誰もいない人工衛星で、閉じこめられてるだなんて。」
窓際のパドがゆっくりスペアを振り、静かな声で言った。
「それは、どうかなスペア。お前たちが思っているほど、とんでもない男とは限らないだろうよ。単に、大統領だのお偉方だのの気に障ったってだけの可能性もある。」
「恐いことを言うな。」
凍り付いたスペアに代わって、ボルトがぽつりと言う。そして、
「あのロボット。何故そんな刑になったのか『存じ上げません』とかなんとか言っていたけど。どのロボットならそれが分かるか、聞いたらよかった。」
「あまり知りたくない気がする!」
突然、顔を突っ伏したままナットが悲鳴のような声を上げた。パドがゆっくりと諭す。
「気持ちは分かるが、お前も、知りたいことだけ知っていればいい段階は過ぎていると思うぞ、ナット。もうガキじゃないんだろ。」
ナットは少しだけ顔を上げたが、すぐに身を震わせた。
「恐ろしい・・・!」
そう叫ぶと、
「だいたい死刑があるってだけでも恐ろしいのに。ねえ、サブファイロットで死刑になった人なんているんだろうか、スペア。」
すがりつくような目で見つめられ、スペアは困ったように答えた。
「――そういう刑も、あり得るってだけの話じゃないか? だって、誰かが死刑になったなんて話、聞いたことないだろ。」
「それはそうだね。」
始めて安心したようにナットは息を大きく吐いた。その隣で、ボルトが言いずらそうに口を開く。
「どうだろーなー。私のところの前のチーフは、管理エリアから帰ってこなかったぞー。病気の発作を起こしたって聞いていたし、今の今まで疑ったこともなかったけど。」
「やめてよ、そんな話!」
ナットは強く自分の両耳を押さえた。その目にみるみる涙がたまっていく。ボルトは辛そうに彼を見て、「悪かったよ。」と柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でた。撫でながら、スペアの方に顔を向け、
「とにかく、どんな極悪人だとしても、そうでないとしてもだ。私たち、その人に会いに行けないか? スペア、お前にもう少しあの人工衛星のデータを解析してもらって、ロボットの攻撃を止める方法が分かったら、会いに行くのは容易いだろう。私、その人間に会ってみたい気がする。」
スペアは驚いてボルトを見つめたが、ボルトはテーブルに突っ伏したナットに視線を移すと、独り言のように続けた。
「必ず、重要な制作者のはずだ。わざわざ空気だの食べ物だの供給して、生かしているくらいだからな。ほんの下っ端ならどんなに大統領の気に障ったって、そんな面倒はしないって気がする。あんたはどう思う。」
窓際のパドを振り仰いで意見を求めると、じっとテーブルの三人を見ていたパドは、テーブルに近寄り、そばの椅子を引き寄せた。椅子を逆さまに置くと、背もたれに両腕をかけて座り、
「そうだな。あそこのロボットたちに、お前たちがもう攻撃されないって確証が得られるなら、その人物に会いに行くのは俺も賛成する。お前たち以外で始めての、このステーションの人間だしな。俺も興味がある・・・。監禁されているぐらいだから、いきなり俺たちに襲いかかったりも出来ないだろう。だがまあ、あそこのロボットを何とかするのが先だろうよ。助けに行くのは、その後だろう。」
ボルトはじっとパドを見た。彼女は、パドが「助けに行く」と言ったのを聞き逃さなかった。一方スペアは、ゆっくりうなずくと「分かった。」と低く言った。そして、やっと顔を上げたナットの肩をぽんと叩いてから、
「じゃあ人工衛星のロボットの動きの解析を、最優先にしてやるよ。まかせてくれ。お前たちは曳航船がいつでも出発できるよう、準備を頼む。」
次回更新は10月下旬の予定です




