宇宙工場サブファイロット 07章 囚われの制作者1
07章 囚われの制作者
翌日、ボルトとパドは発着場の隅に止められた、曳航船の前に立っていた。
青く輝く曳航船はすっかり修理が終わり、人工衛星で受けた破壊の跡が分からないほど、以前と変わらぬ美しさを見せている。目の前のパネルが開き、ナットがエンジンルームから元気よく顔を出した。
「うん、中も完全。もういつでも飛べるよ。」
分厚い作業用手袋を外しながら、ナットは二人に笑いかけた。曳航船のそばで整列し、ナットの確認を待っているロボットの一団に、パドはちらと目をやった。これらは、ナットに評価されるのを期待しているのだろうか。
パネルを丁寧に閉めると、ナットは作業ロボットを軽く見回して、
「みんな、ありがとう。よくやってくれた。発着場の修理に戻っていいよ。」
「分かりました、ナット様。」
鈍い緑色のロボットたちは喜ぶ風もなく、整然と並び、一列になって去っていく。複雑な表情でそれを見送ったパドは、隣に立っているボルトに話しかけるというよりは、独り言のように言った。
「ロボットって奴には、感情はないのかい。」
ボルトは彼をちらっと見上げ、
「もちろん。」
と、そっけなく答えた。
「感情なんて余計なもの持っているロボットが、戦闘――、人殺しの役に立つと思うか。」
「なるほど。ごもっともだ。」
パドが肩を軽くすくめる。
「善悪を判断したり、命令や状況に対して感情を選択していたら、負荷がかかって反応が遅れるしな。戦闘ロボットは迅速に動かないと。無駄なく。」
上着のポケットに両手を突っ込み、平然と言ってのけるボルトの横顔を呆れて見たパドの前に、ナットが明るく駆け寄って来た。
「じゃ、エンジンをかけてみよっか。ボルト、チェックをお願い。」
「分かった。」
ナットは再び曳航船の中に戻って行った。しばらくすると船のエンジンがうなり始め、タービンやファンの音が周囲に響き始める。集中してその音を聞いていたボルトは、曳航船のハッチから顔を覗かせたナットに大きくうなずいてみせた。
「完璧だな。問題、まったくなし。きれいに動いているよ。ただ、どこか装甲を変えた? 共鳴音が前と違うようだけど。」
「さすがボルトだね。レーザー発射台の装甲を、ETR23から25に変えてみたんだ。形もちょっとだけ。スペアに聞いたらいいって言ってたから。」
ナットはにっこり笑うと、
「じゃ、大丈夫だね? エンジン止めてくる。」
と曳航船の中に消えた。ボルトもつられたように、パドにめずらしく笑いかけた。
「あんなにやられていたから修理には時間がかかると思ったけど、ナットはやるな。あんたの船のエンジンも、あいつに任せておけば安心だよ。」
「そうだな、その点は俺も疑っていないよ。」
ズボンのポケットに両手を突っ込み、曳航船を眺めていたパドが答えると、彼女は相手を見上げて、
「だったらもう少し信用して、作業ロボットにエンジンを修理させろよ。ナットが指示して、修理させている以上心配はない。あんた、ナットがロボットに命じてエンジンを修理させようとすると、露骨に嫌そうな顔をするだろ。」
パドはかすかに、皮肉めいた笑いを浮かべた。
「おやおや、気づかれないようにしていたいつもりだったがね。」
ボルトは肩をすくめて、
「私じゃないよ、ナットが言ってたんだ。あいつ、あんたにすっかり懐いているけど、あんたのことすごく気に掛けてるからな。あんたの船のエンジンの修理が進まないの、そのせいなんだぞ。」
ぶっきらぼうに言って、タラップを駆け降りてくるナットに軽く手を振る。駆け戻ってきたナットが、じゃこれからパドの小型船の修理に取りかかろうかと話すと、パドはちらとボルトを見てから、のんびりと言った。
「なあに、モニタールームから、ロボットに指示してくれよ。お前がわざわざやることもないさ。」
ナットはすこし意外そうにパドを見上げて、
「そう? 僕だったら全然構わないよ。ねえ、パドの船のエンジンだけど、やっぱり全部取り替えた方がいいと思うんだ。どう思う? それともあのままの方がいい?」
と休む様子も見せず、まとわりつきながら尋ねた。そんな様子にボルトは思わず微笑み、パドも優しい目になると、
「そうだな。どうするかね。」
とナットの肩に手を置いて、ゆったりと歩き出した。三人はそのまま連れだって、小型船へと向かった。
次回更新は8月下旬の予定です




