宇宙工場サブファイロット 06章 コモンプログラム3
次回更新は8月の予定です
聞き慣れない言葉に、パドがいぶかしんで尋ねる。ナットが無邪気に顔を上げた。
「ステーション全体でエネルギーを使いすぎて、エネルギー不足になってる時に発令される警報みたいなもの。それが出たら急ぎでない仕事は中止して、余計なエネルギーを使わないようにするんだよ。」
パドにそう言うと、ボルトに顔を戻し、
「あの日は昼間に怪我人が出て、次の日までにフェーズ5まで組み立てしなきゃいけないのが、全然終わってなかったから。それで、チーフが続行を判断したんだ。」
「そうだったのか。運が良かったな。私は調整がどうしてもうまくいかない機体があって、胸部セカンダリ・マトリクスを確かめに下りたとこだった。どうしてもだめなら、いっそ引っぺがしてやろうと思って。」
「凄いことを言うねー。」
目を丸くするナットに、
「基盤が損傷してたら、調整室の仕事じゃない。製造室に逆戻りだ。」
しらっとボルトが答える。
「ひどいなあ。じゃ、ああいう戻ってくるロボットは、ボルトの仕業だったんだね?」
「調整しても動かないようなロボットを送ってくる製造室が悪いよ。大抵そういうのは、製造時のミスなんだ。」
彼女は軽く肩をすくめた。
「でも一応、悪いことをしてるとは思ったさ。だから人目に付かないように、胸部ハッチをちゃんと閉めて、気づかれないように・・・。そのおかげでロボットにも気づかれずに済んだらしいな。結果として。」
ナットはふうっと息を吐いた。
「調整室って、おそろしいところ。」
ボルトがすぐに、
「似たり寄ったりです。」
と返す。腕を組み、それまで黙って二人の話を聞いていたパドが口を開いた。
「つまり、誤作動を起こしたロボットは、パネルが閉まったロボットの中に人がいることまでは考えなかったんだな。その他の場所、人が普段乗り込む場所や、もちろんその辺にいた奴も宇宙船に詰めて放り出した、と。――で? それからお前たちはどうしたんだ。ロボットの中にいて、そいつが動き出して中で挟まれたりしなかったのか。」
二人は口を揃えて、自分たちの入っていたロボットはまだ動ける状態じゃなかったと答えた。
「でも、それからが大変だった。外が騒がしくなって、みんなコードを叫んだり逃げろとか言ってるし、背中のパネルは開かないし。後で分かったけど、ミニ・クレーンをロボットの背中のすぐ脇で止めてた馬鹿がいたんだ。ま、中にいるよって言わなかった私が悪いんだけど。」
ボルトはぶっきらぼうに言って、
「で、これはもう騒ぎが収まってから助けを求めた方が賢いなって思ったんだ。あんな騒ぎじゃ何も聞こえやしない。でも、しばらくしたらスペアの声が内部スピーカーから聞こえてきたんだ。あれはびっくりした。停止しているロボットでも、ロボット間通信が送受信できるのは、あの時始めて知ったな。」
ナットも頷いて、スペアがロボットが誤作動を起こしている事、ロボットの基本プログラムからバグを探して突き止めるから、それまで隠れているよう通信してくれた事を話した。
「だから僕、スペアが修正プログラムを送ってくれるまで、じっとしてたんだ。」
「私も同じ。でも長かったな。もちろんスペアは急いでやってくれたんだろうけど。起動コードを言ってクレーンをどかさせて外へ出てみたら、もう誰もいなかった。ぎょっとしたな。」
ボルトの言葉に、ナットも少し顔を曇らせる。
「ほんと。あんな静かなの、ちょっと恐かったよ。辺り一面めちゃめちゃになってたし、ロボットはみんな突っ立ってるし。スペアが製造室に来てくれた時は、ほっとした。」
ボルトも微笑して同意する。
「私も。それにナットもスペアも、会ってみたら案外いい奴だったし。」
「案外?」
「嘘だよ。かなりいい奴だって言いたかったんだ。」
彼女が笑うと、ナットは再び口を尖らせ、「かなり・・・。」と納得できないように小さくつぶやいた。




