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宇宙工場サブファイロット 05章 探索機の去来2

 展望ルームを離れると、ボルトとパドは昨日の現場へ向かった。発着場入口ゲートにほど近い通路では、動作を停止したロボットの一団がそのままの位置に立っていた。

 E5を除く(E5の思考プログラムが入ったチップを、スペアが引き抜いていたため。)ロボットを再起動すると、ボルトはきびきびと調整を始めた。調整は、まるで長い呪文を詠唱するように音声コードで行われ、パドは感心したようにその調整ぶりを見守っていた。


「――うん。これで完了だ。どこにも異常はない。AS057、35879668、RES―TA559! どうだお前たち?」

 すると、十数台のロボットが一斉にアームを上げた。

「おはようございます、ボルト様。パド様。」

「パド様はよせ。何をしたんだ、お前?」

 パドが嫌そうな顔をボルトに顔を向けると、

「ああもう、面倒だな。・・・じゃ、お前たちよく聞け。これから新しい調整士のランクを加える。該当者はここにいるパド一人。優先順位は私と同じだ。ただし彼には『様づけ』をしない。そこだけが私と違う。分かったな。この特殊ランクはP・A・Dと称することにする。他のロボットにもこの事を伝えろ。臨時措置だから調整士リストには載せなくていい。」

「了解しました。」

「じゃ、これから発着場に行って、そこにいるナットの指示に従え。」

「はい、分かりました。」

 ロボットは何事もなかったように、きれいに一列になって通路を去っていく。その駆動音を確認してから、ボルトはパドを振り返って、

「調整ついでに、あんたのことも上級調整士だと強制認識させておいたんだ。ロボットは情報を交換、更新するからすぐに全部のロボットに行き渡る。まあこれで、あんたもしばらく安心だろ。」

「しばらく、ね。それは言えるな。」

 彼は薄く笑った。


 続いて二人は、パドが行きたがっていた場所――水の製造循環施設へ赴いた。案の定、飲料水のチューブにはKKN38などの刻印がある巨大な金属のタンクがいくつもつながれていた。ボルトは作業ロボットに命じて、それらのタンクをすべて外させた。

「水の管理なんかは、あれだろう。当然、大統領関係の連中が行っていたんだろうな。」

 一応尋ねたパドに、ボルトが黙ってうなずく。そして、

「あと、何か薬を入れられそうなものがあると思うか?」

「まさかとは思うが、空気だね。空気がその、大統領たちの居住区と分けられているならな。」

「エリアは完全に区切られている。移動チューブ帯とエレベーターを通らないと向こうには行けない。空気の配管もたぶん・・・、こことは別だと思う。」

「ふーん。じゃあその配管元に行くか。」

 厳しい目を天井に向けていたパドが視線を戻すと、ボルトはじっと宙を見据えていた。彼はわざとのんびりと続けた。

「ええと、水・空気・食料と。他に、体に入れていたような物でもあるかい。」

「いや、思いつかない。吹き付けられてたら別だけど。製造室や調整室は、出入りする時に圧縮空気の吹き出るゲートを通る。体についたごみをルーム内に持ち込まないようにしているんだ。」

「じゃあその辺りもだな。」



 一方、スペアは中央副会議室に移動していた。ドアをロックし、さらにロボットが入って来られないようテーブルや椅子でバリケードを作ってから、部屋の奥にある三台のパネルデスクにデータチップを次々に差し込む。

 この副会議室には、スペアたちが個室に使っている会議控え室のものより高性能な、中型パネルデスクがある。データ解析を一気に進めようと考え、スペアはここに来たのだった。

「ロボットたちが会議室のパネルデスクは壊さないでくれて、助かったな。どうしてここだけ無事だったんだろう?」

 独り言を言いながらシステムを確認すると、案の定、データ解析用のプログラムはパネルデスクに入っていなかった。どうやら会議室や副会議室、会議控え室などのデスクには、そういった重要プログラムは入っていないらしい。

 中央データルームのパネルデスクにもつながっておらず、高性能機種のわりに、ただ単に、データの表示のためだけに使われていたようだった。(スペアは知らなかったが、これらの部屋では他の宇宙ステーションからの商人を交えて会議する事もあり、そのため万一にも重要機密を表示したりしないよう、他からは完全に遮断されていたのである。)


 スペアは軽く息を吐いて気を取り直すと、ここ数日、自力で組み上げた解析プログラムの入ったデータチップをポケットから取り出し、デスクに差し込んだ。軽くテストしてから、チップ内のデータを自動解析にかける。パネルデスクが低い駆動音を立て始めたが、圧縮されたデータは膨大で、見て分かるような形になるまで相当時間がかかりそうだった。スペアはデスクを離れ、大きな窓へと歩み寄った。


「みんなはどうしているんだろう。」

 副会議室の窓からも、ロボットが暴れ回り、破壊の限りを尽くした跡が生々しく見える。眼下に広がる景色は見慣れたものとあまりに異なり、スペアは深いため息をついた。遠くの方にはなぜか無傷で済んだ、居住エリアの建物の屋根も小さく見えている。――ロボットの誤作動が起こってからずいぶんになるが、追放された仲間や運送業者、注文業者もやって来ないのはなぜだろう。もういい加減、誰かやって来てもいい頃だ。

 物思いにふけっていたスペアの腰から、小さく呼び出し音が鳴った。昨日の事件を思い出し、ポケットから通信端末をつかみ出してボタンを押すと、いつものナットの明るい声が流れてきた。


次回は4月下旬更新予定です

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