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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅴ幕 【彼岸の郷土】

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帰郷編・16『占星術』

 図書室で九条と四葉ととりとめのない雑談をすること十数分。

 示し合わせたように、ほとんど同時に一神たちが戻ってきた。


 一神、鬼塚は大きめのカバンを背負っており、合宿でもするのかというほどの大荷物だ。まさか図書室に泊まり込む気じゃあるまいな。

 零は制服から私服に着替えていた。なまじ顔が良いからおろし立てのジャケットがよく似合う。盲目王子と呼ばれるのも、正直わからなくはない。

 そんな零は、車椅子で中央のテーブルに近づくとすぐに口を開いた。


「揃ったようだな」

「憐弥とネスタリアは?」

「五百尾くんは抜けられない私用らしい。家族がらみとのことだ。ネスタリアくんには帰ってもらった」


 そういえば憐弥と恋人の綿部寧々は、家庭環境が複雑なんだっけ。

 助っ人も二人増えたので、零としては特に問題は無さそうだ。


「では準備を……と言いたいところだが、その前に楽、君と少し話がしたい」

「俺と? まあいいけど」


 一瞬、零が顔を準備室のほうに向けた。

 どうやら密談がしたいらしい。


「じゃ、悪いけどみんなは待っててくれ」

「はーい。ねえ愛花、お店は行ってくれた?」

「もちろん。飾り付けは快諾してくれたよ」

「よかった~ありがとね」


 一神たちは和気あいあいと明日の打ち上げの予定を話し始めた。わざとらしく話を逸らしてくれたので、気を遣ってくれたんだろう。


 俺は零の車椅子を押し、準備室に入って鍵を閉めた。

 テーブルに椅子をセットして座り、零と向き合う。

 エルニ、防音の魔術を……と言いたいところだが、しかたない。なるべく小声で話そう。


「で、零。何の用だ?」

「君だけに話しておきたいことがあってね」

「俺だけ? おいおい三人寄れば文殊の知恵って言葉は知らないのか? 俺なんか三人どころか半人前もいいとこだぞ」

「知恵が欲しいのではない。与えたいのだ」


 零は慎重に言葉を選んで言った。


「まずは僕自身の話だ。僕は定期的に脳を情報強化することで、世界線を越えて未来の情報を渡すことができた。その積み重なった世界線の数だけ『何周目』という表現をしているが、ここまでは理解できているな?」

「ああ」

「厳密には、僕には今回と異なる75の世界線の情報がある。つまり今回が76周目となり、おそらく君は75周目の七色楽で、この76周目の君に()()()する形で逆転生した」

「たぶんそうだな。それで?」


 ヘリコプターで死んだのは前回、つまり75周目の俺たちだったらしいからな。

 それを確認したいだけ……なわけではないだろう。

 俺が先を促すと、零はやや声を潜めた。


「だが妙なことに、僕には初めて自分を占った世界線――つまり1周目の世界線の知識が、()()()()

「……二つ?」

「ああ。僕が世界線の分岐を認識していない情報が二つあるのだ。その二つはほとんど同じだが、ほんのわずかにタイミングのズレがある。糸一本分のズレのような些細な違いだがな」


 それはおかしい。

 世界線が分岐するということは、従来の未来とは別の行動を取るからだ。無論、誰しも未来のことを知らなければ別の行動は取れない。

 だが零の認識や行動が変わっていない周回が2つあるってことは、つまり。


()()()()()()()()()()()()()()()()()が、いる……?」

「左様。しかも、僕よりも前にだ」


 つまり零より先に未来を知った何者かがいて、なおかつ、わざわざ同じ未来を辿っていたということになる。


「さっきはわざと驚いてみせたが、実のところ妨害はまるっきり想定外ではなかった。最初に分岐を作り出した者が、身を潜めて僕たちの近くにいることは予測できたからな」

「……なるほど。だから村人に潜む〝人狼〟に例えたのか。それで人狼の正体は?」

「それはまだだが、いずれわかるだろう。人狼が動き出したということは、つまり今回の世界線が転換点になると判断したという可能性がある」

「人狼は、零がやってることが運命を変えると思ったってことか?」

「あるいは、人狼の目的が今回の周回そのものだという可能性もあるな」


 今回の周回が目的、か。

 運命を変えさせたくないというより、今回の世界線で何かをしたいから妨害している、ということか。

 たしかに今回だけ動いたのならそうも考えられるが……どっちにしても想像の域を出ない。


「ま、それは人狼を見つけて聞いてみればいいさ」

「左様。いずれにせよ、君には妨害する者がいないか、僕の代わりに目を配っていたもらいたい」

「わかったよ」

「助かる。それと楽、無事に聖典の箱を手に入れたようだな」

「ああ。それで重要な話なんだけど――」


 ついでだったので聖典について話した。

 零は知らなかったのか、俺が取り出した箱を興味深く触って確かめていた。


「なるほど、この箱も含めた聖典だったとはな。つまり前回の僕の試みは不完全だったということになるか」

「そうだな」

「だが現に君はこうして戻ってきた……逆に、その不完全さが功を奏した可能性もあるようだ」

「なあ零。一応聞くけど、前回のおまえは何をしたんだ? ……いや、萌々香さんに()()()()()んだ?」

「君にそれを教えるのは、今回の試みが成功し、君たちがこの世界で生き続けることができるようになってからだ。そうなれば僕が知っていることは何でも話そう」


 キッパリと言い切った零。

 まあこれも想像通りの反応なので、俺も肩をすくめておいた。


「そうなるといいな。でももしそれが叶っても、いまの俺たちはあっちの世界に帰るつもりだぞ。こっちの世界のこと76周目の俺に任せるつもりだ」

「……そうか。いまの君はやはり、向こうに戻るつもりか」


 零は見えない瞳で、俺の胸あたりをじっと見つめた。

 こっちに戻ってきたからあまり考えてこなかったが、おそらくいまの俺は76周目の七色楽にとっての()()だろう。

 向こうの世界に戻れば、残るのはこの世界線の俺の魂だけ。いま経験している記憶や知識まで残るのかは定かじゃないが、たぶん、それが本来あるべき形のはずだ。

 零も、転生の話をしたときに薄々察していたのだろう。


「悪いな零。俺には、死ぬまで守り続けたい仲間ができたんだ」

「……一神くんや鬼塚くんのことか?」

「ああ。それ以外にも何人か、な」


 そう言うと、零はクスリと笑った。


「君の口から誰かを守るなんて言葉が出てくるとは……そうか。物語よりも大事なモノができたのだな。彼女たちのことが、それほどまでに大切なんだな?」

「ああ。何よりも……誰よりも」


 こんなセリフ、あいつらには口が裂けても絶対に言えないけど。

 だけど幼い頃からずっと一緒にいた零にだけは、スルリとそんな素直な言葉が出てきた。


「それは重畳。君がそこまで成長しているとは、諦めず努力してきた甲斐があったというものだ」

「いままで75回も俺たちを助けようとしてたんだって? サンキューな」

「あくまで僕自身のためだ。君たちに感謝されるためではない」

「それでも言っておくよ。ありがとな、零」

「……ぬ……」


 俺がそう言うと、零は珍しく言葉に詰まった。

 しかし照れ隠しのつもりなのか、すぐに意地の悪い顔をして、


「して楽。あっちの世界では一夫多妻が許されているのか? あるいは誰か本命がいるのか? なに、遠慮することはない。僕に正直に教えたまえ。誰が最適か占ってやろう」

「……よし、そろそろ戻るか!」


 みんなを待たせすぎるのも悪いしな!

 俺は零の追求をかわして、そそくさと図書準備室を後にしたのだった。






 

 占星術。


 天体の配置と召喚法を併用して、特定のモノについて占う神秘術だ。

 実際の未来事象を知る『予言』とは違い、得ることができるのは一側面からの情報のみ。しかもその情報は言語化されていない抽象的なものだ。

 それを言語化するのは術士であり、その言語化の機微によって解釈も変わる。つまり召喚法の腕前も大事だが、言語化する能力も同じくらい大事なのである。


 零は、その言語化能力が非常に秀でている。


 幼い頃から視覚を持たず、脳で取得した情報をほぼすべて言葉として認識していた男だ。視えている世界は俺たちとは全く違うのだろう。


 零の占星術は水盆とタロットカードを使い、占う対象と縁の深いものを触媒として、情報を召喚する。

 もはや三年間で見慣れた光景だった。


「楽、何のカードが出た?」

「月」

「ふむ。では、こちらは?」

「塔の逆位置だ」

「ほう……」


 零は面白がるような声を出して、すぐ隣に置いていた水盆に手をかざす。

 すると霊素が揺らぎ、何かを零に伝えていた。


「ふ、ははは」


 いきなり笑い出した零。

 何か面白いことでもあったのか?

 零の占星術を見守っていた俺たちは顔を見合わせる。


 俺、一神、鬼塚、九条、四葉、そして萌々香。この中で誰も零が笑ったことを理解していないようなので、俺が特別察しが悪いってわけではないだろう。


「結果が出たのか? 聖典はどこにあるって?」

「その前に、人狼についてわかったことがある」

「なんだ?」

「人狼は僕についてよく理解しているようだ。僕が占星術を使えば、盗んだ聖典がどこにあるのかおおまかな位置は割り出せることを知っている」

「まあ、そうだろうな」


 失せ物探しは零の得意分野だ。

 この学校の人間なら、そんなことくらい誰もが知っている。


「では君が人狼なら盗んだ物をどこに隠す? しかも昨夜からの短い時間で、高校生が行ける場所も限られているだろう。どこに隠そうが僕がそれを見つけ出すのはさほど難しい話ではないことを知っていれば、ただの時間稼ぎとも言える」

「勿体ぶるなよ。聖典はどこにあるんだ?」

「まさに、そこが人狼の悩みどころだったはずだ。場所を知られることを前提にする必要があるものの、正確に見つけ出すことが困難な隠し場所。そしてこの学校の生徒の誰でも立ち入ることができて、こっそり隠したとしても正体が露見しない場所」


 零は、仰々しく両手を広げた。


「木を隠すには森の中。つまりここ、()()()()。なるほど(うま)い隠し場所だ。僕がおおまかな場所を特定できても、この場所で一冊の本を探し出すのは非常に難しい。僕をよく理解しているからこそ出てきた発想だ。これは人狼を褒めなければなるまい」


 なるほど、この図書室か。

 蔵書の数は市立図書館にも引けを取らない。たった本一冊を隠すだけなら、どこかの書棚に押し込んでおけばいいから手間もかからない。背表紙に貼っている貸し出し用バーコードも、適当なものを偽装しておけばパッと見ではわからないだろう。

 普通ならとても感心するところだ。手放しで褒めたって良い……が、人狼はひとつ見落としている。


「あれ? でもそれって悪手じゃない? 七色くんがいるんだし」

「その通りだ一神くん。人狼は僕のことをよく理解しているが、どうやら楽のことは()()()()()()()()()()らしい」

「ねぇ、さっきから何の話?」


 首をひねる九条。

 人狼のことはちゃんと話してないので当然の反応だが、いまはスルーだ。

 零は笑みを浮かべて俺に言った。


「さて、楽。この広大な図書館に紛れ込んだ一冊の本を見つけ出してくれ。時間は……そうだな、三十分もあれば充分か?」

「おう」


 確かに人狼は俺とはあまり仲良くなかったらしい。


「じゃ、みんなはゆっくり待っててくれ」

 

 俺は書棚を眺めながら、適当な場所から歩き始めた。

 無数の本の中から一冊を見つける。

 それは普通のやつにとっては難題だろうが、この図書室の蔵書すべてを配置まで憶えている俺にとっては、自分の部屋で友達が忘れた財布を見つけるようなものだ。

 

 俺が聖典の書を見つけ出したのは、それからわずか十五分後のことだった。


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― 新着の感想 ―
つまり図書委員はほぼ全員が除外されると そうなると一番怪しいのがネスタリアになるかな? 他のクラスメイトだと図書室に来ることは珍しいだろうから目立つはず でも楽に本を探してもらった経験があるなら楽の異…
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