12『本隊が到着です!』
「なんでお前たちが正面に布陣してるクマー⁉︎」
三月二十三日――。
二万の本隊を率いて戦場に到着した、隆信ちゃんの第一声はそれだった。
まあ、当然の反応だよねー。
だって出陣前に決めた陣立てでは、山手と浜手を別働隊が、ここ中央には隆信ちゃん率いる本隊が陣を敷く予定だったんだから。
なのに、山手担当の右翼別働隊を率いる私たち五千が、本隊の陣取るべき沖田畷正面にすでに陣を張っている。
それどころか昨日、二十二日を丸一日費やして、沖田畷を封鎖する様に柵を張り巡らしてやった。
特に通行のための隙間を作ってもなければ、木戸も設置していない。
すなわち私たちは自軍と柵でもって、本隊が沖田畷に入れない様に『通せんぼ』をした形になっている。
全軍より単独先行して戦地に入った私と直茂ちゃんだったが、事前の『根回し』という点では、特に大きな成果は残せなかった。
どころか私の一言で、島津家久という少女がハイパー化したかもしれず、局面は予断を許さない展開になってきた可能性もある。
ならば、今できる事をやる。
それがこの沖田畷の完全封鎖だったのだ。
とはいえ、これは越権行為を超えた命令無視だ。
そりゃまあ穏やかではない。
だが、これをやらなければ運命は史実通りに動き出す。
――ここ沖田畷で、龍造寺隆信は討ち取られるのだ。
歴女だった私は召喚直後に――『この戦は必ず負ける』と警告した。
でも脳筋四天王の親玉だけあって、ワガママ放題のクマクマ幼女隆信ちゃんは、それを無視した。
っていうより聞いてなかったんじゃないかな、アレは……。
ともかく、まず出兵を止める事には失敗してしまった。
それなら運命に別の運命を被せて、歯車を狂わせてやろうと思ったのが事の発端だが……。
さあ、第一の正念場が来たぞ。
「直茂、どういう事か説明するクマー!」
やはり叱責は直茂ちゃんに向けられた。
まあそうなるわな。
だってこの部隊の指揮官は直茂ちゃんだもん。
「えーっと、えーっと」
あー、明らかに直茂ちゃん動揺してるわ。
私が召喚の理由を詰問した時もいきなり土下座してきたし、家久ちゃんを闇討ちしようとした時も、不審者丸出しだった事から見ても、彼女は基本『ビビり』なのは分かっている。
しっかし隆信ちゃんの剣幕に、いきなりしどろもどろとは……。
これはマズイな。ちゃんと打ち合わせ通りのセリフを言えるか⁉︎
「あ、有馬晴信は、隆信様の出陣に撤退を考えております!」
「な、なんだとクマー!」
おっ、言えた!
隆信ちゃんもいい食いつきだ。
「それはどこからの情報だ?」
むむっ⁉︎ 隆信ちゃんの傍らから声が飛んできたぞ。
隆信ちゃんを挟んで並ぶのは――ご存知(?)龍造寺四天王だ。
その一人、成松信勝さんから直茂ちゃんの発言に疑問が挟まれてしまった。
私がこの『姫戦国時代』に召喚された初顔合わせ以来の対面だけど、脳筋四人衆の中でも彼女だけは、ちょっと落ち着きがあったのよね。
見たところ私よりも年上だな。三十半ばってとこか?
しかし、それしにても背が高い。
前回の会話から『気合系脳筋』なのは分かっているけど、こう睨みつけられると結構な威圧感だ。
直茂ちゃん大丈夫かな?
「そ、それは……、わ、我が『鍋島秘密諜報隊』が極秘に入手した情報です!」
なんだその長い部隊名! あとダサっ!
とはいえ、さすがに私たち二人で先行して敵陣に潜り込んでましたとは言えないもんな。
まあこの場においては上出来か。
しかし、こういう小手先の嘘はポンポン出てくるんだな直茂ちゃん……。
私も気を付けよ。
「そうか、秘密諜報隊が頑張ったのかー! うん、それはご苦労だったな」
うわー、成松さん好意的な反応見せてるー。
「そ、そうなんです。『気合』で頑張りました」
「そうか、そうか。気合で頑張れば、なんでもできるからな! ハッハッハッー!」
んな訳あるかー!
いや、にしてもさすが、これまでこの脳筋軍団を支えてきただけあって、直茂ちゃん殺し文句のチョイスは絶妙だわ。
あと脳筋、チョロすぎるわー!
「隆信様、ここでいたずらに有馬晴信を刺激しては、日野江まで逃げられる恐れもございます。そのために我々鍋島隊は先行の上、ここに陣を張って長期戦の構えを見せようとしたのです」
「フム、偽りの陣……という事クマ?」
おっ、隆信ちゃん幼女のくせに、やはり一国の主だけあって、戦術眼は鋭いな。
これは乗ってくれるか、と思いきや、
「そんなの、つまらんクマー!」
だー、かー、らー、そういうとこだよー!
いっつも、その場のノリでやってっから、龍造寺家はギリギリだったんだろーが!
少しゃ学習してくれよ!
「だったらさー。逃げんだったら、追っかけようぜ! ゲラゲラゲラ!」
えっ、誰⁉︎ 何言ってんの⁉︎
むむっ、今度は百武賢兼さんか。
にしても彼女、背はちっさいのに声はでけー。
あと、追っかけるって……おいおい、そんなの私の戦術がぶち壊しになるだろうが!
「ウン、そっちの方が面白そうクマー!」
うわっ、隆信ちゃんも乗ってきちゃったよ。
「そうだぜ隆信ちゃん、有馬晴信が逃げるんなら、蝦夷の果てまで追っかけてやろうぜ!」
おいおい、ここ島原半島だからな。
って、ツッコんだら負けなんだろうな、きっと……。
じゃなくて、この『暴走系脳筋』のノリに乗せられたままだと、マズイぞこれは!
「ま、待ってください! 日野江は島原の南端。そこまで我が軍が遠征してしまえば、東の大友が佐賀を狙うかもしれません!」
おお、直茂ちゃん。理路整然としたナイスな指摘!
そうなんだよ。九州は今、東の大友、西の龍造寺、南の島津と三すくみの状態なんだよ。
今回の龍造寺と有馬の戦も、本質は有馬の援軍である島津が真の敵だ。
その島津が肥後遠征軍から三千しか島原に送れなかったのは、東の大友を警戒しての事だ。
それは龍造寺も同じ。
今、三万もの大軍で本拠地佐賀から遠征しているが、万が一を考えると島原中央であるこの沖田畷より南下はするべきではない。
「フン、じゃあどうすれば『面白く』なるクマ?」
さすが隆信ちゃん。脳筋たちとは違って、大局を見る目はやっぱり確かだわ。
私の本心としては、持久戦を主張したかった。
これは直茂ちゃんも同意見だ。
でも隆信ちゃんは『面白く』と言った。
――持久戦が面白い訳がない。
それにたとえ小手先の嘘で、とりあえず持久戦に持ち込めたとしても、きっとこの傍若無人を絵に描いた様なクマクマ幼女は、どこかで暴発する。
そうなったら、もう手がつけられない。
それより心配なのが島津が――家久ちゃんがどう動くかだ。
あまりに不気味すぎる。
家久ちゃんは間違いなく名将へと覚醒した。
そんな相手に受身はマズイ。
後手に回れば、きっと私たちの想像を超えた一手を打ってくるに違いない。
だから、ここはやはり――先手を打つべきなんだ!
あーでも、これはやりたくなかったんだけどなー。
でも、しゃーない、やるか。
「どうした、何か面白い方法はないクマか?」
「そ、それは……」
答えに窮した直茂ちゃんの後ろから、私は前に進み出る。
さー、大きく息を吸ってー!
「面白い方法ならあります――!」
当然だけど、みんなが私に注目する。
くっ、またこのパターンか。
だが女は度胸。
ここまできたら、ぶちかますまでだ!
「この戦、『我ら』龍造寺四天王におまかせください!」




