77《20》聖女はひたすら進む
部屋に飾られている不気味な肖像画達は、前回見た時から更に不気味なことになっていた。
いくつかの絵の向きが変わっている。肖像画なのに、逆さまにされたり、横向きにされて飾られていた。すると……全ての肖像画の目線が、黒い扉に向かうのだ。前回、開け方が分からなかった黒い扉が開いている。
「ウィリアム様がクリアしたのでしょうね」
「ええ。目線の違和感も、やはりこれがキーだったからなんですね。よく見れば脚立もあるし……」
「えー……こんなのがクリア条件なんて、わからないですよー……」
この部屋の仕組みを考えた人のセンスを少し疑うエレンである。不気味だなあと思いながら部屋に入ろうとしたら、イアンに止められた。
「待ってください、エレンさん。みんなで入る前に確認しておきたいことがあって」
「確認したいこと? なんですか?」
「この濃茶の扉が、室内からも開けられるかどうか」
その確認の理由については、マーリンが説明してくれた。
「……そうですね、大事な確認ですわ。だって、私達の目的は、ウィリアム様を見つけた後、元の道をたどって《白い扉》から現実に戻ることなのですから」
「そっか。帰り道が塞がってたらそこで困っちゃいますもんね」
「ええ。なので、一旦私だけで入ります。
もし2~3分しても私が扉を開けない時は、外から開けてもらえますか?」
「はあい」
そうして、イアンだけが部屋に入り、扉が閉まった。
エレンはドキドキしていたけれど、それほど間髪を開けずにイアンが扉を開く。
「なんだ。普通に開きますね」
「よかったあ」
「ふふ、これで安心して先に進めますね」
そうして、3人は黒い扉を通り過ぎた。
するとまた、似たような迷宮。
エレンが探索魔法を使おうとすると、今度はマーリンが止める。
「エレンさん、毎回全体に使おうとすると、さすがに魔力も尽きると思います。節約できないか試してみませんか?」
「節約?」
「例えば……エリアを小分けして探索してみるとか?」
「なんでですか?」
イアンが考えながら答えて、エレンが質問する。
するとマーリンが解説してくれる。
「魔法は発現させる時に一番魔力を使うんです。自然界にあるものを使ったり、発現済みの魔法を動かすほうが負担が少ないので……例えば、エレンさんを中心にして、右前方、左前方、それでも扉がなければ左後方……の順に探索したら、本来の1/4の魔力量で扉の探索ができますわ」
なんと、そんな裏技が……!?
エレンは目から鱗がボロンボロンだ。
「ほほー、なるほど! マーリン様もイアン様も、よくとっさにそんなことを考えられますね……」
「とっさに、と言うか……四元素魔法の初級ですね」
「え? そうなんですか?」
「うん。私の場合、最初は外で風の向きを変える練習から始めて……操れるようになったら魔力を風に変化させる練習をしてましたよ」
「へー……光魔法にはできないやつですねえ」
マーリンとイアンの話を聞けば聞くほど、四元素魔法が羨ましくなってしまうエレンである。自然を操れるってなにそれカッコいい……!
マーリンが唇に指を当てて悩ましげに話す。
「ただ、この迷宮が果てしなく広いのなら、見当違いのほうに魔力を伸ばし過ぎてもよくありませんし……その場合は、ある程度距離をしぼって探索してみて……その範囲になにもなければ、歩いて次のエリアに移る。みたいな方法も、検討したほうがいいかもしれませんね」
「あ、それは大丈夫です。昨日、迷宮全体に魔力を広げてみていけたので。果てはありますよ」
「え? そうなんですか?」
「はい。延々同じ景色だから、歩き回ってると距離感がわからなくなりますけど……実際はたぶん、王宮くらいのサイズです」
「そうですか……。迷宮の入口も王宮の中にありましたし……なにか、繋がりがあるのかもしれませんね」
魔力の使い方の方針が決まったところで、エレンは範囲を絞って探索魔法を使おうとして……『別に4分割じゃなくてもいいよね?』と直前で思い直した。
目の前だけにまっすぐと魔力を伸ばす。
「範囲、大胆に絞りましたね」
「ふふふ、灯台作戦にすることにしました!」
「灯台作戦?」
エレンは、いたずらに微笑むと、迷宮の端っこまで魔力を伸ばして、その場でゆっくりと回る。エレンの正面だけに伸ばしている魔力もエレンの動きに合わせて動く。
そうして半分回った時に「あ、見つけた!」とエレンが言った。
「すごいです、エレンさん!」
「それに早い……!」
「ふふふふふ、節約は……趣味です!」
全く全然自慢にならないけれども、エレンの人生のほとんどは貧乏なのだ。『節約』という言葉を聞くと血がたぎるエレンである。
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「今度は、真っ暗なフロアですね」
エレンはそう言うと、光魔法を光として使う。
照らしてみると、最初の頃と同じような分岐する通路だ。
「魔物とか、警戒していましたけど……生き物の気配は一向にありませんね」
「そうですね。舞台装置だけあって、敵がいないのは、不自然な感じがしますわ」
「ふーん、そういうものなんですかねえ……」
こういう閉鎖空間で、各フロアに謎解き要素があって、登場人物は全然いない……みたいなのは、結構、脱出ゲームあるあるなので、エレン的にはなんとなく《挑戦》=《迷宮の謎を解いて脱出せよ》なのかなと思ってた。
まあでも、各フロアの扉を開ける謎解き部分は、先行してるウィリアムが全部解き終わっているからエレン達は進むだけである。
だから結構単調な道程なのだけど、黒い扉を通り過ぎてからは、通路そのものも、火の道や絶壁や暗闇が邪魔をして、色んな種類の魔法で乗り越えないと進めないようになっている。3人で協力しあってようやく進めている感じだ。
「まあでもほら、イアン様! 3人で来てよかったですよね? ね?」
「ソウデスネ」
「ん? なんでカタコトなんですか?」
イアンの反応にエレンが質問したら、マーリンが『え、そこ聞きます?』みたいな顔をしている。
「ん? 火の道とか通るの大変じゃないですか?」
「ソウ……デス、ネ」
「ほらこんな暗闇とかも、ねえ、イアン様?」
エレンの容赦ない攻撃に、イアンはついに羞恥で顔を隠した。
「ええ、私1人では無理でした……2人がいないと進めませんでした。もう許してください」
「ふふん、変な意地張るからですよ? 私達に意地悪なことも言ってましたしい。ねー、マーリン様?」
「いえあのほら、火魔法用の迷宮なんですよ、きっと……それに、無理と認めるのも、助けを求めることも、なかなかできることではありませんわ。イアン様は充分、立派ですよ」
「えー? 全然立派じゃないですよー。無謀! 強がり! 分からんちん!」
エレンがダメージを与えて、マーリンがフォローする。イアンは苦笑した。
「もー……メンタルごりごり減らしにきますね。マーリン様に癒される……ってあれ? 今回も英字がある」
「今回も?」
「そんなものありましたか?」
話しながらたどり着いた暗闇ステージの部屋では、大量のキャンドルに火が灯っているけれど、いくつかのキャンドルだけ火がついてない。
これもなにかの法則性があって、ウィリアムが解いたんだろうと思うのだけど、イアンが見ているのは、壁の一角だ。
エレン達にも見つけやすいように、指先で示した。
「1つ前の部屋で偶然《B》の文字を見つけたから、この部屋もなにかないかと思って。そうしたら、あそこにほら……《A》と書いてます」
「じゃあその前は《C》?」
「カウントダウンなら、なぜ数字じゃないんでしょうか」
「……単語の可能性もありますね」
でも、ここまで来て、最初の部屋から順番に文字を探しに行くなんてしんどいし。このまま、進めるところまで進んで、ウィリアム探しを続行しようということで、落ち着いた。




