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52《28》聖女は馬車を満喫した

 今日のパーティーにリヴェラは参加しないから、髪のセットやメイクとか、時間がかかってしんどい準備を、今回、エレンは一人ぼっちっちでお願いすることになると思っていた。

 けれど蓋を開けてみれば、リヴェラも普通につきあってくれた。


「カモフラージュだよ。パーティーに不参加なこと、両親に隠したいし。馬車で着替えられるように、ドレスにちょっとした仕掛けもあるんだよね」


 そう言ってリヴェラは人差し指を唇に当ててウインクする。

 なんでそんなにこなれているのかしらん……? 不思議に思うエレンである。


 そんなこんなで準備が終わったエレン達。今回はイアンも馬車に乗り4人で向かう。馬車が動き始めてすぐリヴェラが言った。


「さあ、エレンちゃん。私のドレス脱がして」

「ええーー!?」


 エレンはぎょぎょぎょー! っとした後で、隣のイアンを見た。イアンもぎょっとしている!

 続いてエレンは斜め向かいのアレンを見てみた。アレンは悟りを開いたような顔をしている!


「ああ、こいつのお家芸だから。脱がしたところでセクシーさ全然ない。エレンちゃんがやりづらいなら俺が脱がそうか?」


「いやいや。いやいやいやいや! 私が! やりますゆえ!」


 アレンがリヴェラを脱がすとか、セリフだけで事案である。エレンはリヴェラの背中のコルセットの紐から、着手した。


 なぜかこの世界……ドレスだけは中世の西洋風である。なぜドレスだけは昔のままなのか……洋服はファスナーなのに。あちこち、紐で縛って止めて、スカートも頭からかぶって着るのだ。ワンピースみたいに、1枚で仕立てられてるかのように見せかけつつ、実はたくさんのパーツで成り立っている。


 一人では着ることも脱ぐこともままならない。


 そうして脱がしていくと、リヴェラはなぜか、カジュアルでボーイッシュな姿になった。エレンは目を白黒させた。


 な、なにこれしゅごい! イリュージョン!?

 脱がせたのはエレンなのに、なにが起きたかわからない!


「ふふふ、すごいでしょー?」

「はい、すごいです! なんでー!?」

「ふっふっふ……ひ、み、つ」


 そうしてパニエの中から、フラットな靴と帽子を取り出すリヴェラ。ハイヒールを脱ぎ捨ててそれらを慣れた手つきで身につける。


「あ、イアンくん、気を使って見ないようにしてくれてたんだね。もうこっち見ていいよー」


「え……先ほどと全然雰囲気違いますね」


「さっきすごかったんですよ、イアン様! 脱がした私も、なにが起きたかわからなくてびっくりです。オーウ、イリュージョン! ワンダホー!」


 そんな話をしていたら、最初の目的地に、あっという間に着いてしまった。


「じゃあいってくるね」

「俺もリヴェラについて一旦ここで降りるが……城に馬車が着く頃には馬車乗り場で待っている。そこで落ち合おう」


「うん、わかりました、またあとで」

「お2人ともいってらっしゃい」


 処刑塔近くでアレンとリヴェラが降りて、エレンはイアンと2人きりになった。

 馬車が走り出す。


 もうすぐ、パーティー会場に近づく。エレンは急に怖くなった。ひざの上に重ねている両手がプルプルして、それをただただ見つめていた。

 すると、イアンの温かい手のひらが、エレンの震える手の甲に重なった。


 エレンが顔を上げると、イアンが微笑む。


「最善を、尽くします」

「……はい。わ、私も」

「泣かないで、エレンさん」

「だ、だって……大好きです、イアン様」

「うん」

「好き。大好き。イアン様が……大好き」

「私もエレンさんが、大好きですよ」

「うん……ふふ」


 涙をこぼしかけたエレンが、イアンのたった一言で笑うから、イアンはいたずらに微笑んで、エレンの耳元に唇を近づけた。そうして、小さな声で甘い言葉をそれからいくつも囁く。


 エレンはくすぐったそうに笑いながら、イアンのくれた手のひらを両手で包んで、ときめきの数だけこねこねした。

 こねこねこねこね、うふふうふふ。


 そうしてイアンのボキャブラリーは、なんと馬車が目的地に到着するまで持ちこたえる。エレンはすっかり元気になって、きらきらと瞳を輝かせてイアンに微笑んだ。


「ふふ、なんだか私、とっても上手くいく気がしてきました」

「それは、よかったです」


 実は甘い言葉が即尽きて、後半戦はエレンに会えなかった頃に考えていたポエムからひねり出し、しのいでいたイアンである。

 夜空にきらめく満天の星は、あなたのきらきらした魔法と輝く笑顔を連想させてうんぬん。

 ……別の意味でとても恥ずかしかったので、イアンは今とても逃げ出したい。


「ではまたあとで、イアン様」

「はい、またのちほど、エレンさん」


 そうして、最後にもう一度だけ手が触れあって、エレンはイアンと別れた。王宮の人の案内に従って、昨日もたどった同じ道をエレンは進む。

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