53《29》聖女は王子を探す
エレンがパーティー会場に入ると、会場内はざわざわと大変賑わっており、大勢の男女が、思い思いのドリンクを片手に談笑していた。
今回もレスターはまだ来てなくて、出席者達がゆったりとしてる感じからするともしかしたら、毎回遅刻しているのかもしれない。
エレンがなにもできないまま、ただただ待っている間にも、イアンが兵士達に追いかけられて、命をかけたやり取りが始まったらどうしよう……。
そう思うとエレンは気が急いて、かといってできることはなにもなく、オロオロと壇上を見上げた。
「やっぱり、少しだけ、会場の外に出てみよう」
レスターの登場するタイミングが、昨日と同じあたりなら、まだまだ時間があるはずだった。エレンはただ突っ立って待っていることはできなくて、そっと会場を抜け出した。
会場を出てしばらくしたところで、エレンに気づいた王宮使用人が話しかけてきた。
「エレン様。どちらに行かれるおつもりで?」
ちなみに女性である。エレンはなんて言おうかなあと思いつつ応えた。
「レスター様に早くお会いしたくて。今どちらにいますか?」
「……そうですか。では逆方向にお進みくださいませ。ってそ、そちらではありません! どちらに行くつもりですか?」
エレンはふふんと笑みを浮かべて使用人に言う。
「あなた達、いつも私に意地悪をするから逆かなーと思って」
「勝手なことをされては困ります! お戻りください! 無作法ですよ!」
序盤に嘘と丸わかりのにやにや笑いをしていた使用人の慌てたような制止の声を、エレンは無視して進む。
……つもりだったけれど、ふと気になってエレンは足を止め、使用人の方に振り返った。純粋に不思議で、聞いてみようと思った。なんでこの人達は、こんな無意味なことをするんだろう。
「私に意地悪をして、もし私がレスター王子の婚約者じゃなくなったら……あなたは、自分が代わりになれると思ってるんですか? 他の令嬢が、私の後釜になるだけだと、思」
「そんなことわかってます!」
使用人は、エレンの言葉を遮って叫んだ。そうして、もう一度「わかってます」と呟くと、涙を溜めた目でエレンをにらんだ。
「あなたみたいに、生まれた時からなんでも持ってる人にはわからないでしょう!? 時々、目が合って微笑んでくれるのを待つ、私達の気持ちなんてわからないでしょう? レ、レスター様は……私がずっと馬鹿にされてたそばかすを、チャーミングだと、言ってくれたんです! 一重まぶたも、奥ゆかしいって。でも、顔を上げてもっと笑顔になったほうが素敵だって! そ、そう言って、笑ってくれた! 不釣り合いなことなんてわかってます! だけど、まだ、取らないで……私達のレスター様を、取らないで!」
そう言うと、使用人の女の子は、ぼろぼろと涙を流して、震える細い体を両手で抱きしめうつむいた。エレンは突然のことに呆然とした。
「……そう。あなたの気持ち、少しだけわかった。応えてくれて、ありがとう」
エレンはなんとかそう言うと、使用人を置いて目的の方向に歩き始めた。
この子は昨日のループだとたぶん、王宮使用人から外されてたはずだ。やってたことは、悪いことなのに……あんな風に泣きながら心を出されると、どうか幸せになりますように、と思ってしまう。
その後もエレンは、5~6人の使用人に道を聞いて進んだ。だが、しかし。
「ふりだしに戻った……なんで!?」
いつの間にかパーティー会場の前に戻ったエレンである。どうやら道を教えた人の中に、正しいことを言ってた人もいた様子。……全部逆に進んでしまった。本当のことを言ってくれた人ごめんなさい。
まあでも、自国の絶対キスさせない強制力みたいに、隣国もパーティー会場でしかレスターに会えないのかもしれないし、もしそうなら待つしかないし、もう一回うろうろするには時間も足りない。しゅん。
「それにしても……本当に、この国のどこからでも見えるんだ……」
エレンはそびえたつ処刑塔を眺めた。
塔は、王城から比較的、近い場所に建っている。王城そのものもそこそこ高台に建っているから……顔の判別まではできなそうだけど、人が落ちる瞬間は見えそうだ。……地面に落ちた後も。
わざとそういう風に作ったのなら、とても悪趣味だなとエレンは思った。そうして、すごすごと会場に戻り、せめて少しでも早く話せるようにと、壇上近くで待つことにした。
しばらく待っていると、なぜか後ろから歓声が聞こえた。エレンは『ま、まさか!?』と思って振り返る。
レスターはエレンも出入りしてた扉から入って来たようだ。ええー、なんで、普通の入場口から!?
レスターは、会場に入るなり大声でエレンの名を呼ぶが、人が多すぎて姿が見えない!
「エレン! エレン・マーシャルはどこだ!」
「はい! はいはーい、ここです!」
エレンは慌ててとたとた走る。周りの人達が、なんだなんだとなりながらも道を開けてくれるけれど……会場広っ!
レスターはエレンがまだ走り終わらないうちに、エレンに指を突きつけて叫んだ。
「エレン・マーシャル! 君との婚約を破棄する!」
「やっぱり、破棄ーー!?」
思った通りだから驚きは全然ないけれど、エレンもとりあえず叫び返した。どよどよする会場で、レスターがふふんと勝ち誇る。
「ふっ、どうやら思うところがあるようだな!
だが、なにか言い分があるなら聞いてやろう。
まあ、この令嬢に嫌がらせをしたという確固たる証拠がたんまりとあるから、言い逃れなんてできないだろうがな!」
レスターの後ろでは、大量の書類を両手に抱える花子も勝ち誇っていたりする。
だが、レスターはエレンの顔を見ると、勝ち誇った表情のまま、ピタリと動きを止めた。
「レー様? どうしたんですかあ?」
花子が聞くが、それには答えず……レスターは、先ほどの高テンションから一転して、戸惑った顔になり、エレンに話しかけた。
エレンがちょうど、レスター達のところにたどり着いて、立ち止まった頃である。
「エレンちゃん……俺は君から、家名を聞いていただろうか?」
「いえ……没落してから、基本的に家名は名乗ってないんです」
「そうか……」
レスターの態度の落差に、もしやと思いエレンは質問してみる。
「もしかして、記憶が戻ったんですか?」
「ああ。君が治してくれた……右足の小指に違和感がして……そしたら記憶が2重になった。リヴェラが君に差し替わっている記憶と……本当の記憶。
今……なにが起きている? なんでまた、昨日と同じパーティーをしてるんだ? エレンちゃん……昨日のアザは大丈夫?」
エレンは、レスターの記憶が甦ってよかったと思った。気持ちがゆるんで涙目になった。
「ループしてるんです。この国の、バグです。レスター様、お願い……イアン様の処刑を止めて!」




