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12話(最終話)


 ホームパーティ程度とは言え人生の節目となるような気がしているのだろうか、シンタロウとイザナギはなんとなくソワソワしていた。

 二人は子供用のスーツとドレスに身を包んでいつもより少し大人びた雰囲気だ。

 そんな二人を眺めるメグルもまた、パーティードレスを着て精一杯着飾って落ち着かない。化粧も個人的に頑張った。

 どれもこの日のために、両親がレンタルしたものだ。

 最初はもっと小規模なものになると思っていたのに、気付けば随分気合の入ったパーティになっていた。

 会場はいつものリビングだが、家具を片付けて広くスペースを取り飾り付けられていて、ちょっとしたステージである。

 両親は2階で着替えている。朝から二人準備に追われて忙しそうだった(もちろん子供たちも準備していたが、途中から着替えのために離脱した)

 

 「なんだか落ち着きませんわ……」

 「そうだね。一回やってるはずなんだけどな」

 「――私、お料理の盛り付けをもう少し」

 

 なにかしていないと爆発してしまいそうとでも言わんばかりに立ち上がるイザナギを、メグルが制した。

 イザナギは花嫁らしく白を貴重としたワンピースだ、汚れたらそれはもう悲惨なことになる。


 「もう、ドレス汚れちゃうよ。とにかく座ってて、ね?」

 「でも、お義姉様」

 「ほらイザナギ、姉さんの言う通りだから。座ってないと」

 「シン様まで……うう」 


 イザナギは渋々といった様子で座る。

 メグルは椅子に座ったイザナギの傍らにかがんで、目線を合わせる。

 落ち着かせるように、その手を取って優しく握る。


 「お家でやるパーティの延長だし、そんなに緊張しなくていいから」

 「そうですわね、そうですわ……」

 「身内しかいないし、気楽でいいから。――ほら、シンタロウもイザナギさんの手を握って!」

 「姉さんも今日はテンション高いね」

 「うるさい」


 生意気なことを言いつつも、姉の気遣いに感謝してシンタロウは震えるイザナギの手をやさしく握った。

 向こうの世界で挙げたときはまだ幼く、周囲の人任せでただ座っているだけだった彼女だが、今はいろいろ覚えて出来るようになった分いろいろ気がかりで仕方ないのだろう。


 「僕も一緒だから、隣でちゃんと見ててあげるから。落ち着いて」

 「は、はい。……あの、シン様。手を離さないでくださいまし。ずっと握っていてほしいですわ」

 「分かってるよ、約束する」

 「シン様……♡」

 「イザナギ……」


 ものすごい勢いで二人の世界に入った弟夫婦を残して、メグルはキッチンへ向かう。

 ヤレヤレと肩をすくめた。

 なんとなく緊張してしまいのどが渇く。

 お皿に綺麗に盛り付けられた美味しそうな料理がキッチンテーブルに並ぶ。

 父はずいぶんと気合を入れて料理したらしい。つまみ食いをしたくなるが、我慢我慢。

 と、階段から両親が下る足音が聞こえて、メグルはそちらに向かう。


 「おお、お父さんもお母さんもすごい綺麗」

 「ふっふっふ、私もまだまだイケるだろうメグル」「ありがとう」


 スタイルの良さを強調する煌びやかなパーティードレスに着替えた母ユメと、すらりとかつ自然体で燕尾服を着こなした父ノゾム。ノゾムが手をユメの手を握って珍しくエスコートまでしている。

 いつもとは違う両親の姿に、メグルは思わず感嘆の声を上げた。


 「ユメさんが昔のドレスをまだ着れてよかったよ」

 「ノゾム君、どういう意味だ?」

 「ユメさんが昔と変わらず綺麗なままだって意味だよ」

 「あ、ありがと」

 「……いやあのさあ、娘の前でいちゃつかないでよマジ」


 この世で見たくないものの上位を見てしまった。苦いものでも食べたような気分だ。

 

 「――二人はどうしてる?」

 「なんかすっごい緊張してるけど、まあ概ねイチャイチャしてる」

 「大丈夫そうだね。後は招待客を待つだけかな」

 「そんな大げさな……」


 招待客と言えば聞こえはいいが、内実はリサ、ハチコとレンジだけである。

 実情を知っている3人だけ招待した。

 もうそろそろ来る頃だ。


 「まさかシンタローの結婚式が先だとはな……おまけにまだ43だぞ私は」

 「は? まだ正式なものじゃないし。勝手にため息つかないでよね」

 「ほーぉ。じゃあお姉ちゃんらしく励むんだな」

 「まあまあ二人とも。リビング行こうか」


 ノゾムに促され玄関わきの階段から、リビングへ移動する。

 手を握り合って所在投げにしていたシンタロウとイザナギが立ちあがり、着飾った両親の姿を見てメグルと同じような声を漏らしていた。


 「素敵ですわお義父様、お義母様!」

 「ありがとうイザナギ。どうだ、少しは落ち着いたか?」

 「シンタロウ、もしかして緊張してる?」

 「何故かしてるからわざわざ言わないで、父さん」


 4人が話しているのを眺めていると、チャイムが鳴ったのでメグルが出迎える。

 招待客3人、揃っていた。

 パーティーと聞いて小学生二人はそれなりに着飾っている。

 中でもリサはいつもと雰囲気が180度変わった清楚な令嬢めいていて、メグルは内心舌を巻いた。


 「いや~同じ時間に来たみたいで。ね、レンジ君にハチコちゃん」

 「あ、は、はい!」

 「ちょっと、アンタなんで赤くなってんの」

 「――ほら二人とも、まずは挨拶アイサツ」


 リサに促されて顔を真っ赤にしたレンジと、緊張しつつもそんな彼をジト目で見るハチコがお辞儀をする。二人が頭を下げるのを確認してからリサも続く。

 メグルも慌てて応じた。


 『この度はおめでとうございます』

 「あ、ありがとうございます……」

 

 そんな正式な結婚式じゃないんだけどなあ……と思ったが

 3人を引き連れリビングへ向かうと、部屋の飾りつけにまず驚き、次いでしっかり着飾った二人を見て感嘆の声を上げた。

 

 「うわシンタローがスーツ着てる!」

 「わあイザナギさん綺麗……」

 「イザナギちゃん花嫁っぽいじゃん~!」


 3人、シンタロウたちの元へ駆け寄っていく。

 準備を頑張った甲斐が報われたような気がしてメグルはこっそりにやけた。

 

 「――いらっしゃい、始めようか」


 ダイニングテーブルにノゾムが料理を置いていく。

 どれもおいしそうだし、手で持てるよう工夫が凝らされている。

 いい匂いに釣られてテーブルに人が集まる。

 

 「はい、グラス……は危ないから紙コップだ」


 すかさずユメが全員に紙コップを手渡してジュースを注ぐ。

 ジュースがいきわたったのを確認して、ユメが音頭を取る。

 主賓の挨拶はもう少し後だ。


 「それじゃあまずは――乾杯!」

 『かんぱーい!』


 紙コップを掲げて続く。

 ささやかな結婚式が始まった。

 


 ――まあ普通のパーティーだよなあ

 

 結婚式、とは言え参加人数なんてたかが知れている。

 各々散らばって会話を楽しみつつ立食、とは行かずテーブル周りに集まっておしゃべりしながら一応立食している。


 「メグパパのご飯どれも美味し~」

 「ありがとうリサちゃん。いっぱいあるからドンドン食べてね!」

 「あの、リサさん! これも美味しいです!」

 「皆一通り食べったって。なにデレデレしてんの、レンジのばか」

 

 騒がしくはないけれど、賑やかな食事会。

 メグルは自然と頬が緩むのを自覚していた。今日ぶっすりするのはもったいない。


 「機嫌がいいな、メグル」

 「ん……そうだね」

 

 隣に立つ母はいつの間にかビールを片手に食べていた。頬が少し赤い。

 そう言うユメもだいぶ上機嫌もとい出来上がっている。


 「お母さん、ちょっと飲むペース早いよ」

 「はっはっは。娘に心配されるほど弱くはない!」

 「はいはい」


 呆れてそっぽを向くと、やおら頭をガシガシと撫でられた。

 せっかくセットしたのに何事だと慌てて跳ね除ける。


 「ちょっ、なに?」

 「頑張った娘を褒めてる」

 「なにそれ」

 「アタシはメグルの頑張りをちゃ~んと分かってるってことだ」

 「もう、酔い過ぎだってば」


 なおもイイコイイコと絡んでくるので、鬱陶しさ以上に恥ずかしくていたたまれなくなる。

 家族以外に友人もいるのだ。現にリサはこっちをニヤニヤと見ているし。


 「ほらほらユメさん、そういうのはシラフの時に言ってあげなきゃ」

 「むう……努力する」

 

 ノゾムの助け船にこれ幸いとその場を離脱する。

 と、イザナギがメグルに向かってちょいちょいと手招きをしてきた。 


 「お義姉様」

 「どうしたのイザナギさん」

 「私も、改めて。ありがとうございます」

 「ちょっと、イザナギさんまで――」


 ペコリと頭を下げられ、メグルは慌てた。

 珍しく母から褒められたと思ったら、今度は義妹から感謝される。

 

 「お義姉様は私のお陰だとおっしゃいましたが、そんなことありません。私が笑顔でいられたのは全部お義姉様のお陰ですわ」

 「イザナギさんまで急にどうしたの?」

 「どうもしてませんしお酒も飲んでませんわ。ただ、お義姉様にこの場で伝えたい。ただそれだけですの」


 イザナギはメグルの手を取り思いの丈を伝える。

 握られた手が熱くて、メグルはついイザナギの目を見つめた。

 ……ホントにお酒飲んでないよね?


 「別の世界から来て心細かった私に手を差し伸べてくれたのはいつもいつもお義姉様でしたわ。ずっと家族のためを考えて、その輪の中に私を入れてくれて。

 その心遣いが私、とってもとっても嬉しかったんですの。

 頂いた暖かさを今はまだお返しできませんけど、だからこそ今は言わせて下さい」


 イザナギが潤んだ瞳で、精一杯の思いの丈を伝えようとしているのが分かった。

 だから、メグルは先を促すように小さく頷いた。

 イザナギは花が綻ぶような笑みを浮かべた。

 多分、メグルが見てきた笑顔の中でとびきり綺麗で見惚れるほどの。


 「――お義姉様、本当にありがとうございます。私、お義姉様のことが大好きですわ!」

 「…………うん。ありがと、イザナギさん」

 

 あまりにも真っ直ぐな感謝と好意をぶつけられて、メグルは当たり障りのない言葉を返すので精一杯だった。

 視界の端でシンタロウが笑顔で嫉妬のオーラを出しているような気がするが、無視。

 

 「それから――」


 急にぐいっと身体を引っ張られ、たたらを踏んだメグルの耳元にイザナギが顔を寄せる。


 「たまにはナギと呼んでください」


 誘うような声音で囁かれ、次いで頬についばむようなキスをされた。

 二人のやり取りを見守っていた周りが冷やかすような声を上げるが、メグルには聞こえていなかった。

 それよりも、説明できないほど高鳴る鼓動で頭がくらくらする。

 キスされた頬を撫でると、目の前のイザナギが唇に人差し指を当てていたずらっ子のように微笑んだ。

 瞬間、顔が真っ赤になるのがメグルは自分でもはっきり分かった。

 なに、これ。

 思考がフリーズして、感情がどうにかなってしまいそうなほど揺さぶられ――


 「ちょっ、ちょっとちょっとイザナギ!? 今日僕たちの結婚式だよね!?」

 「シン様にはいつも愛をお伝えしていますもの。今日だから伝えたかったんですわ」

 「まあ隠れてされるよりは……ううん……」


 メグル以上に慌てふためくシンタロウのお陰で少し落ち着いた。

 まだ顔が赤いが一先ず鼓動は静かになった、はず。

 

 「くっ……納得行かない…… 僕達も宣誓しようイザナギ!」

 

 イザナギの手を取り、シンタロウがリビングの一番飾り付けられた場所に移動する。

 なんとも間抜けな始まりだが、ようやく「誓いの言葉」を披露するとなり、一同拍手で場を盛り上げる。

 シンタロウはわざとらしい咳払いを一つすると、堂々とした様子で宣誓を始めた。 



 「……今日は集まってくださりありがとうございます。

 人前式もとい結婚式というにはささやかですが、僕たち夫婦は今日改めて結婚を誓います」


 ――気持ちを切り替えたのか晴れやかな笑顔で喋るシンタロウを見て、メグルは改めて彼が自分よりも歳上なんだと実感した。

 でも、もう気味悪いなんて気持ちは湧いてこない。

 あれが、今のシンタロウなのだ。

 ちょっと変わったところはあるけど、私の弟だ。


 「わがままで色んな人に迷惑をかけてしまったけれど、それでも今こうして祝福してくれる温かい家族と友人達に心からの感謝を伝えます。僕は今日この日を一生涯忘れません」


 ――ユメはこっそり泣いていた。

 息子が立派になったこと、一度離れかけた家族がまた心を通わせたこと、息子夫婦が幸せそうにしていること、自分の子育てが間違っていなかったと思えたこと、夫との思い出や家族の思い出……様々な感情と思い出が溢れて泣くことしかできなかった。

 隣に立つノゾムとそっと指を絡め寄り添い合ってスピーチを聴く。


 「この大きな恩はすぐには返せないと思います、でも、だからこそ僕はゆっくり返していこうと決めました。そうしてこの場の皆様と一生涯縁が続けばいいと思っています」


 ――ユメと寄り添いながら、ノゾムもまた同じ想いで感極まっていた。

 なんだか息子と娘が今日は一段と見違えて見える。

 毎日見ているのに、いつの間にやら大きく成長していたような錯覚。

 子離れはまだまだ難しそうだなぁと微笑んだ。


 「そして……図々しいですが、皆様が見守ってくれるこの場で誓わせて下さい。

 世界で一番信頼できる皆様の前で」


 そこまで言い切ると、シンタロウはイザナギに向き直った。

 シンタロウが少し見上げる形だが、それでも構わずお互い見つめ合って続ける。


 「イザナギ、僕は、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、共にあることをここに誓います」

 「シン様――シンタロウ様、私も、貴方様を生涯かけて愛し敬い、共に助け合い、そして命ある限り真心を尽くすことをここに誓います」


 誓いの言葉をいい終えると、ノゾムがいつの間にか二人の指輪をベロアの張られた台で運んできた。

 シンタロウがまずイザナギの左手を優しく取り薬指に指輪をはめる。

 次いでイザナギがシンタロウの薬指へうやうやしく指輪をはめる。

 二人は熱い視線で見つめ合う。 


 「では、新郎新婦は誓いのキスを」


 もったいぶった口調で、茶化すようにノゾムが先を促す。珍しく意地悪そうにニヤけている。

 イザナギが少しかがんで、シンタロウに視線を合わせた。

 すこしだけ悔しそうに笑ってから、シンタロウはイザナギに優しくキスをした。

 

 「~~~ッ!」


 堪らず、メグルは拍手した。他も同じだったようで、少人数にも関わらず大きな拍手がリビングを包んだ。



 「――続いてのお便りはラジオネーム『ぽんこつたぬき』さんから」

 

 深夜に差し掛かろうとする時間。

 ラジオ番組は聴者からのお便りを読み上げるコーナーに入った。


 「こんばんは。以前投稿を読んでいただけたので、また投稿します――ありがとう! えーなになに、頭を打って変になった弟でしたが、無事恥ずかしさを乗り越え、大人の男として一皮剥けたようです。カッシーさんの言うとおり恥ずかしがっていただけのようです。追伸、弟はめでたく結婚しました。――うん?

どゆこと? なんか5段飛ばしくらいで巻かれてないこのお手紙! オチは?……」


 メグルは自分の投稿ネームを読み上げられた様な気がしてふと顔を上げたが、ラジオはすでに別のお便りを読んでいるところだった。

 どうやら少しうたた寝をしていたらしい。

 階段を上る二人分の足音が聞こえて、ノックと共に部屋の扉が開かれる。


 「姉さん、僕はそろそろ寝るから。夜ふかししちゃ駄目だよ」

 「お姉様、私達もそろそろ寝ましょう」


 下の階で談笑していたシンタロウとイザナギがひょっこり顔をのぞかせる。

 結婚式が終わってしばらく経ったが、未だに許可は下りず結局メグルとイザナギは部屋を共有していた。

 変わったことと言えばイザナギの薬指に結婚指輪がはまっているのと(シンタロウはまだ指輪が大きいので首から下げている)、イザナギがメグルの事を「お義姉様」から「お姉様」に変えたことくらいだ。

 曰く、もう家族なので義理でないとかなんとか。


 「分かってるってば」


 二人のお節介に苦笑しつつ、メグルはラジオを切った。

 明日は土曜日だし少しくらい夜更ししてもいいかなと考えたけれど、やめた。

 

 「お姉様、電気消しますわ」


 メグルがベッドに入ったのを見届けてから、イザナギが部屋の蛍光灯を消す。

 真っ暗な部屋の中、メグルはイザナギの方へ向けて言う。


 「おやすみ、ナギ」

 「はい、おやすみなさいお姉様」

 

 すぐに返事が帰ってきて、メグルはそれを合図に目を閉じた。


 また明日になれば。

 きっといつもと変わらない家族の日常が始まるだろう。

 それでいいし、それがいい。


拙作お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 帰還物はよくありますが普通の日常物は極めて珍しく面白かったです 話もきれいにまとまっていましたしとてもよかったです
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