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戦いの果てに少女は花を咲かせ






 ……あれから、三年の月日が経った。


 ひまわりの作り出した植物の壁の正体は、結果的にはなんなのかはわからなかった。ただ一つ明らかになっているのは、あの壁が出来て以来、ウィザーの出現が激減したこと。壁との関連性は確実ではないが、関連性があることにはほぼ間違いないだろう。


 ひまわりの作り出した壁のおかげでウィザーの出現が激減し、結果としてガーベラたち花の少女が力を使う機会も減った。それはつまり、彼女らの寿命が伸びたということ。


 だが……ウィザーの出現は激減はしたが、まったくなくなったわけではない。壁の隙間から現れたり、どこかの穴をついてウィザーは出てくる。


 だから結局、あの日以来も、ウィザーの襲撃は続いている。戦い、傷つき、勝ち、時には負け……大切なものを守れたり、失ったり。みんながみんな、あれから無事……なんて都合のいい物語はない。


 ウィザーの出現は激減しても、三年もあればガーベラも、ヘルコニアも、ボタンも……その命を落とし、また新たなガーベラが、ヘルコニアが、ボタンが産まれる。


 頻度が減っただけで、結局ウィザーは何者なのか……なせわ、世界を破壊しようとしているのか。根本のところは解決していない。


 そして、問題はもう一つ。……ひまわりだけが、次の種を落とさない。斑目曰く、三年もなんの音沙汰もないのは前例がないんだとか。どれだけ遅くとも、一年以内には産まれるはずだと。


 いったいどうして産まれないのかは、誰にもわからない。



「……よし、今日の分は終わり、と」



 俺は、ひまわりが命を散らしたあの日の後……結局、ここに居続けることにした。今は研究員として、身を置いている。


 これまでに経験したことを、データとして残すためにだ。『花崎 勇樹』とご丁寧に名札を付け、完全にこの組織の一員となっている。今じゃ、斑目の気持ちが少しはわかる。


 そして、これは後で聞いたことなのだが……実は、ここで見聞きしたことは、記憶を消すという条件と引き換えに日常に戻ることができるらしいのだ。そんな制度があったなんて、知らなかった。


 なんでそれを初めに教えてくれなかったんだ……とは、今は思わない。ここに連れてこられた当初はともかく、今となっては、むしろ言ってくれなくてよかったと思う。


 でなければ、ここであいつらと、大切な時間を過ごすことができなかったから。



「先輩ー、ここがわからなくて……」



 ひまわりを失ってから、俺がここに居続けることを決意してから……新しく、人も入ってきた。彼女も、その一人だ。


 どうやら記憶力がいいという点を買われたらしいが、俺みたいに拉致されてきたのだろうか。それは、彼女には聞けていない。拉致でないことを、祈るばかりだ。



「んー? あぁ、ここはな」



 けど要領は、いいとは言えない。だから俺が先輩として、彼女の世話を見ることになった。俺が先輩なんて笑っちゃうが、それはそれだ。歳も近いし、不思議と趣味も合う。小柄だから、自然と見上げられる形になるのがむず痒いが。


 ……ひまわりとも、こうしてもっと話しておけばよかったな。



「じゃ、今日はもう上がっていいぞ。残りは明日、休息も大事だからな」


「は、はい! お疲れさまでした! ……あ、あの先輩、もしよかったら、この後一緒にお食事でも……」



 ビーッ! ビーッ!



 警報が、鳴り響く。この警報はそう、樹から実が落とされ、産まれるということだ。


 ったく、今日はもう上がりだってのに。けど、仕方ないな。交代の人員はもう来ているが、せっかくだ。これを見届けてから帰るとしようか。



「……あれ、さっき何言いかけた?」


「い、いえ別に!」



 地下へと向かいながら、後輩に先ほどなにを言おうとしたのかを問いかけるが……なんでもないと、返される。そっか、聞き違いか。


 さて、と。意識を切り替えてオペレータールームへと入る。今度産まれたのは、これまでに散っていった誰かの名を継ぐ者か、まだ見ぬ花の子か……



「おい、今回は誰が産まれた?」


「ゆ、勇樹さん! それが……」



 地下室につき、樹を監視していたオペレーターに問う。誰が産まれたのか、確認するのは彼らに聞くのが一番だ。コンピューターで、逐一確認しているからな。


 てか、俺も結構偉くなったもんだよなぁ。


 俺が話しかけた彼は、一瞬口を紡ぐが……今一度画面を見てから、口を開く。



「今回産まれたのは……『ひまわり』です!」


「……ひまわり?」



 オペレーターの口から出てきたのは、まったく予想していなかった名前。聞き違いかと確認するが、何度聞いても間違いない。三年も音沙汰がなかったのだ、どこかで諦めていたのに……


 ……いや、きっと心のどこかでは思っていたんだ。ずっと、ひまわりが来ないかと。それがたとえ、俺の知っている彼女ではないとしても。



「あ、先輩!」



 ひまわりの名を聞いた瞬間、俺は走り出していた。巨大な木々……それらの中で、黄色く天に向かって立派な花を咲かせたひまわりの樹が、そこにあった。


 その下に、落下した実。その中から、人の姿をした存在が現れる。


 ひまわりであって、ひまわりでない存在が……



「……っ」



 彼女を見た瞬間、一瞬、心臓を掴まれた気分になった。


 肩まで伸びた黄色く光る髪、すべてを見透かされてしまいそうな透明な瞳。日焼けもしたことないんじゃないかと思えるほどの白い肌。


 彼女は……『ひまわり』は、ひまわりのような笑顔を浮かべて……言った。



「……おはよう。……えっと、はじめまして。よろしくね? ……ユウキ」


「……あぁ、よろしく」



 あの日に散り、そして三年の時を経て新しく産まれた彼女は……あの日と同じ笑顔を、俺に見せてくれた。


 彼女たちは、記憶は引き継がれない。だから、俺たちは初対面だ。だが……彼女は確かに呼んでくれた。俺の名前を。


 どこか、止まっていたと思っていた時間。だが、これからまた、俺とひまわりの……いや、花の少女たちとの物語は、動き始めたんだ。

 完結しました! ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

自身初の完結中編と言える作品となりました!


 なにもかも解決した終わり、というわけではないですが、その辺りは最初から決めていたのでご容赦を

 決して、書くのがだるくなったとか、そんな理由ではないのでご安心ください!


 ともあれ、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!

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