星羅魔法女学院への転入
風呂から上がってから、僕達は着替えを持って来きたら良かったことに
気が付いた。仕方なく、いったん部屋に戻って道着から私服にと着替えて
朝食を食べに桜子と一緒に向かった。
今日は父親がいない。どうやら仕事に出かけたらしく、いたのは母親だけ
だった。
「おはようございます、お母様」
「おはよう。桜子、真」
「おはようございます…」と母親に挨拶して席に座ろうとすると
「真」と声をかけられた。
「なんでしょうか?」
「お母様って言ってみて」
「…お母様」
「聞えにくいわね。もう一度言ってみて」
「お母様」
「もう少しね。はいもう一度」
「お母様」
どうやらこの人、僕に「お母様」って呼ばせたいらしい。
正直言うと桜子がお母様って言うのはしっくりくるけど、僕がお母様って
言うのはどうなのだろう?どちらかというと、僕は「お母様」より「母さん」
の方がしっくりくるけど…それだと、死んだ母と同じになってしまう。
それだとやっぱり、お母様の方が良いのかもしれない。
「真さんがお母様って言うの、ちょっと面白いですね」と隣に座る桜子が
くすくすと笑っていた。よっぽどおかしかったのか、口に手を添えて必死に
笑いを堪えようとしているけれど、顔に出るタイプなのですぐばれる。
「ちょっと。本人がいる前で笑わないでくれる?」
「すみません」
謝ってはいるが、それでもまだ笑いが消えない桜子に
僕は何も言わずに席に座って、朝食をもくもくと食べたのであった。
朝食を食べ終えて、部屋に戻ろうとすると母親から桜子と一緒に呼び止め
られた。
「真。貴方、転入先の高校って決まってるの?」
「いえ、まだそこまでは…」
僕が氷浦に来た目的は、今よりも強くなること。
転入先の高校を考えていないわけではなかったが、今の時代は通信制の高校
があることも知っていたので深く考えようとしなかった。
「そう。だったら、桜子と一緒に星羅に通いなさい」
僕は母親が言った言葉をすぐには受け止められなかった。
耳が悪くなってしまったのか?とさえも思ったほどに…聞き間違いであって
ほしいと母親にもう一度聞くことにした。
「あの…もう一度言っていただけますか?お母様」
「ですから、桜子と一緒に星羅魔法女学院に通いなさい」
やっぱり聞き間違いじゃなかった。僕が…星羅女学院に?
「お母様、僕は男子ですよ?」
「もちろん知ってます」
「星羅は女子高だと聞いたのですが、共学にでもなったのでしょうか?」
「いいえ、星羅は今でも女子高ですよ」
「だったら入れないじゃないか!?」
僕はついに母親に怒鳴った。
男子だって分かっているのに、娘と同じ女子高へ転入しろだなんて
どうかしている。それを見た桜子が僕の前に立って「真さん、落ち着いて
ください」と通せんぼする。
「どいて、桜子」
「嫌です。真さん、お母様の話を聞いてあげてください」
「充分に聞いただろっ?!なんで僕が女子高に通わなきゃいけないんだよ?
僕に女装でもして通えって言うの?!そんなの僕は絶対に嫌だからね!?」
「ああ、確かにその手もありましたね?桜子、貴方が送ってきた写真に真が
メイド服を着たものがありましたよね?」と、母親は桜子に問う。
だが、それは僕にとって初耳だった。
メイド服と言えば、僕が体芸祭に着たあの猫耳メイドのこと
しか考えられなかった。
「桜子…どういうこと?」
「いえ。私が撮ったわけじゃなくて、クラスの方がこっそり撮ったものを
譲ってもらったといいますか…それでお母様に学校生活のご報告ついでに
手紙と一緒に送って…」
「お前のせいかぁ―――!????」
「おっ、お許しください!!!!!」
「二人共、そこまで!」といつの間にか僕達の真ん中に立っている母親に
肩を叩かれ、僕の殺気は一瞬にして引いていった。
「真。星羅女学院は女子高ではありますが、現代の少子化ということもあって
共学にしようという声が少ないながらも存在します。ですが、魔法学校で唯一
の女子高として貫いてきた星羅がそんな簡単に共学にするなどと言う声もあり
、現在も女子高のままなのです。そこで、私から星羅の理事長にお願いして
貴方を一年間おいてほしいと言うお願いを申し込もうと考えているのです」
「…そんなの、僕じゃなくても他にいるはずではありませんか?」
「確かに。でも、考えてみてください。三年間女子高に一人で通える勇気ある若者なんていると思いますか?」
僕は考えた。女子高の中に一人の男子生徒が無事に三年間を過ごすということ
が出来るかどうかを。そして考えた結果は…
「無理ですね」
「そうでしょう?ですから、今年で18歳、高校三年生となる貴方が一番
適任であると私は考えているのです。共学にするかどうかは星羅が決めること
ですが、これも星羅のためであり貴方のためでもあるのです。どうですか?
たったの一年間辛抱するだけです。それに桜子もついていますから、わからな
いことがあれば聞けますし、女子に不慣れだとしても隣にいればすぐになんら
かのフォローをすることも可能ですよ?」
「真さん、どうしますか?」
女子高に一年間通うって、いったいどんな感じなんだろう?
これはまるで、沼口の妹の持っていたある少女漫画の内容に
良く似ている。ある事情で中学卒業後に、元女子高の学校に入学することに
なった主人公はクラスどころか全校生徒が女子で、男子は自分一人だけという
現実を突きつけられて悩みながらも高校生活を送るというなんとも有り得ない
話だった。
こんなの漫画でしか絶対にないと思っていたのだが、まさしく今それと同じ
ようなことが現実に起きている。僕は…はたして、一年間を無事に生きて
卒業できるだろうか。そこのところ心配である。
「真さん、大丈夫です。私が真さんを守りますから」
「守るって、どうやって?」
「守ると言ったら守るんです!」と桜子は僕の両手を自分の両手で包み込む。
そして大きな目で僕をまっすぐに見つめてくる。
「私は真さんと一緒に星羅で高校生活を送りたいです。私は真さんと出会っ
て本当に良かったと思っています。力輝さんや南條さん達とあんなに楽しい
時間を過ごせたこと、本当に感謝しています。だから…今度は私が助ける番
です。出来るだけお側にいますし、星羅のこともすべてご説明します!」
「わかった、わかったから…そんなにじっと見ないで」
人の目を見れないわけじゃないけど、彼女のように目力が強い人だと
その圧力に負けてしまい見れなくなってしまう。それに、説得するのに夢中
なのか段々と顔が近づいてきて余計に目をそらしてしまうのだ。
「分かったよ。そこまで言うなら行くよ」
「本当ですか!?お母様、真さんが星羅に通ってくれるそうです!」と
嬉しそうに母親に報告する桜子。
「聞きましたよ。良かったですね、桜子」
「はい。すごく嬉しいです!」
「では、私から理事長にお願いしておきましょう。大丈夫だとは思いますが
…念のために転入試験の勉強をしておいてください。といっても、魔法力検査
と基礎学力があるかどうかだとは思いますが、そこの所は桜子に教えてもらい
なさい」
「わかりました」
「私からは以上です。詳しいことが決まり次第お知らせしますね」と
母親は席を立った。
「はぁ…女子高か」
「真さんなら大丈夫ですよ。自信を持ってください!」
「女子高だぞ?一年間ってことで承諾したけど、やっていけるかな…」
「大丈夫です。姉の私がついてますから!」
「だからあんたは姉要素ないって」
それから数日後、母親により星羅女学院の理事長が僕の転入を許可した。
桜子の転入手続も同時に行うということで、僕達は指定された日に星羅魔法
女学院高等部へと訪れた。
転入試験は母親が言っていた通り、基礎学力と魔法力検査だったが
男子生徒ということでとりあえず寸法を測らされたり、髪が少し長いことから
くくるか切ってくれと注意を受けた。
翌日にして、星羅から手紙で合格通知を受け取ってクラスも決められていた。
桜子にも同じものが届いていたが、桜子には転入手続完了の知らせとクラス
が書かれてあり内容は異なっていた。
「星羅は魔法力でクラスが分けられているので、基本的に在学中何かない限り
は変わりません」
「それは何をすればクラスが変わっちゃうの?」と試しに聞いてみた所、
桜子は突然静かになった。
冗談で言ってみたものの、少しやりすぎたと自分でも思ったのだった。
「四月からまた一緒のクラスですね。すごく楽しみです」
「そんなに楽しみなの?」
「もちろん。だって真さんとまた一緒に学校生活が送れるんですもの。
楽しくないわけないじゃないですか」とその笑顔はとても僕には真似でき
ないほどまぶしいものだった。
本当、嬉しそうだ。
「また女装とかしますか?」
「しません」
「そんなっ。また真さんの女装姿見てみたいです」
「嫌だよ。ここまで来てまた女装する羽目になるのなんてごめんだからね」
四月に入れば、僕達は星羅魔法女学院高等部に通うことになる。
氷浦の養子になって修行が出来ればそれでいいとも思っていたけど…
なんだかんだで、桜子や両親に振り回されっぱなしでいる。
ばかばかしくなる時もあるけれど、それでも…
「真さん、人生何が起こるか分かりません。星羅に通うことも経験のうち
だと考えて精一杯楽しみましょう!」
「…そうだね」
どこかで、こういうのも悪くないなと思っている自分がいる。




