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墓と木
別に戦争が起こったことはどうでもよかった。僕の生活が妨げられるわけではなかったし。この街の様子だともうここを攻撃しには来ないだろうと思った。そこで気分転換に壊滅した街を散策してみようと思いたった。近くにあった公園に足を踏み入れ、気分は爽やかだったな。やがて公園とつながっていた墓場にたどり着いた。暇だし一つ一つ故人の名前を見ていった。けっこう珍名が多くて面白い。奥に進むと、りんごのなっている木があった。たしかクレル光線は人体にしか作用しないと書いてあったな。りんごに毒はあるまい。僕はりんごをもぎ取ろうとして木に近づき、気づいた。
この木は墓の前に立っている。その墓に眠る者にとってはさぞかし邪魔だろうな。
どれどれ。どんな人が埋まっているのかな。
僕は墓石をのぞきこんで名前を見た。その瞬間、衝撃が走った。
墓石には妹の名前が彫られていた。生まれた日も死んだ日も、妹と同じだった。
僕は膝からくずれ落ちた。




