束の間
平和な日々が続いた。
テレビも新聞もない、俗世から離れた隠者のように暮らした。
飛行機の音がうるさいことを除けば、落ち着いた生活だったといえる。
ただ、自分は死神なのだという暗澹とした思いは消えることはなかったけども。
人恋しかったかと聞かれると、NOと言えない。けれど人に会うのはとても怖かった。それはもう。僕は自分の死よりKill(殺し)を恐れていた。
生命体ならなんでも殺してしまうと思い込んでいたから。今でもそうだよ。
実際、毒グモに出会った時、僕が睨みつけると、そのクモは鳥にさらわれた。鳥は近くの木の枝にとまり、クモを食った。しばらくたって鳥は木から落ちた。近寄って確認すると、その鳥が死んでいることが分かった。
僕は二つの命を消したことになる。
この話だけなら、弱肉強食の自然を見ただけだと言えるだろうね。だがそれだけじゃないんだ。
ある日ふと思い立って木に背中を預けて昼寝をした。多分初夏だったと思う。木の葉が生い茂っていた。
僕は夕日が射したころに目覚めた。いい気分だった。そんな僕が見たのは若々しい木の葉が枯れ落ち、幹がむき出しの木の枝だった。びっくりして顔を伏せると案の定木の葉が大量に落ちていた。枯葉となって。
まさかと思った。事実を否定したくて恐る恐る後ろ、木の方を向いた。もう気を失いそうだった。なぜってあんなに元気たっぷりの木が、表面が剥がれ黒くなっていたから。
木を殺した。
僕が家に逃げ帰る理由として十分だった。
まあ、そんな力に怯えておとなしく過ごしたわけさ。




