エヴァの最期
「さー!今日も探すわよ!ね、ベン」
「うん。見つかるといいね」
「ふん、悠長なことを。見つかったらあなた、あたしに殺されるっていうのに」
「社交辞令で返しただけなんだけど…よく考えてみればそういうことになるな。やばい」
今日も捜索が始まった。
ノルマとして、探す部屋の数を決められた。しかし今日はかなり楽にかつ早く、ノルマを達成できたベンはいつものように黒い手帳を開いた。確か、エヴァが死んだところからだった。
『退院を明日に控え、病室で2人、パーティーをしていた時のことだった。
エヴァの両親が来た。
エヴァの微笑みは一瞬で消え去り、恐怖で慄いていた。
部屋から追い出そうとする私を振り切って、エヴァの両親は楽しそうに笑いながら、エヴァのスノードームを床に叩きつけて割り、色鉛筆を折り、スケッチブックを破った。エヴァは「やめて」と何度も叫んだが、両親は聞き入れない。ケーキを踏み潰し、テーブルを蹴飛ばす彼らを、ベッドの上のエヴァも私も止めることはできなかった。それをいいことに、エヴァの両親は私の腹をケーキナイフで刺した。鋭い痛みが私を襲い、私はうめいて床に倒れ伏した。血で床が汚れていった。
エヴァはかすれて声にならない叫びをあげた。
最後にエヴァの両親が出て行くとき、エヴァに言った。
「お前のせいで、こいつは死ぬんだ」
出て行った母親の高笑いが廊下に響いて、私の頭にもこだました。
絶望に歪んだエヴァは胸に握った両手を当てた。苦しそうにかがんで、少し身を起こしたと思うと、ばたんと後ろに倒れた。
その瞳からは光が消え、瞳孔は開いていた。
私は必死に体を起こし、エヴァに近づいた。
もう私を見ないエヴァ。虚ろな瞳はついに光を失ってしまった。
嫌だ。嫌だ、嫌だ!
私は刺さったナイフがさらに奥まで押し込まれるのも厭わず、ベッドに体を押し付けた。
脈は何度測ってもなかった。
涙も出ないままに、私は失神した』
ベンは手帳を閉じた。
エヴァは死んでしまった。それも恐怖と絶望に包まれて。
なんて悲しい。なんて残酷なエヴァの親。
「あ!ベン!探したわよ。博士の手帳はあった?」
オリビアは大きく開いたドアの前に、腰に手を当てて立っていた。
ベンはサボったことをばれないように慌てて手帳を隠した。幸い、集めてきた手帳の山の中に座っていたので、それに紛れ込ませた。
「いや、なかった。今日は諦めよう。あまり頑張っても捜索の質が落ちるしさ。一日くらい早めに終わってもいいだろ?」
不満そうなオリビアをなだめて、その日の探索は夕方にならないうちに終わった。




