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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第三章 大事な友達
26/73

04

 次の日の朝。

 ナオは、いつもどおり駅から歩いて学校に向かっていた。

 いつも赤信号で引っ掛かる交差点で信号が変わるのを待っていると、反対側の歩道を右側からカズホが歩いて来ているのを見つけた。カズホはナオには気付かなかったようで、そのまま交差点を右に曲がって行った。

 ナオが待っていた信号が青に変わり、ナオは、またカズホを追っていくように歩くことになった。また、どこからか女の子が出て来て、カズホに話し掛けるのではないかと思ったが、今日は、誰もカズホを待ち伏せしていないようだった。

 カズホは、次の赤信号に引っ掛かって交差点で立ち止まっていた。

(このままだと、佐々木君に追いついてしまう。どうしよう)

 そんなことを考えているうち、ナオは、カズホの真後ろまで来てしまった。

(同級生だから挨拶すべきだよね。でも、何か、佐々木君を追って来たみたいで恥ずかしいな。う~ん、声を掛けるべきか、掛けざるべきか、それが問題だ)

「同級生なんだから、声を掛けないと変だろう?」

「そうですよね……って? えっ!」

 カズホが、振り返って、笑いながらナオの方を見ていた。

「後ろから独り言が聞こえてきたから、どんな怪しい奴かと思ったら、やっぱり水嶋だったな」

 どうやら、ナオは、考え事を知らず知らず口に出していたようだ。

「『やっぱり』って、どういう意味ですか~?」

「いや、そのまんまだけど」

「……まあ、確かに、人の後ろでブツブツ独り言を言っていたら怪しいですよね」

「そんな怪しい奴は水嶋以外にいないからな。うちの学校には」

「そ、そんな~。人を学校一の変人扱いしないでください!」

「えっ、それじゃ、水嶋は自分のことをまともだと思っているのか?」

「も、もちろんです!」

「まともな人間が人の真後ろで大きな声で独り言を言うかな? それとも俺を笑わせそうとしてわざとやってるのか?」

「ち、違います! 私は、そんなボランティア精神は持ち合わせていません!」

「えっ、水嶋の漫談って有料だったのか?」

「そういう意味じゃなくて……。ふにゃ~」

 信号が青に変わり、二人は並んで歩き出したが、ナオはすぐに気がついた。

「あっ、だ、駄目です、佐々木君。こんなところ、誰かに見られたら、私、クラスで四面楚歌です。私、先に行きますね」

 ナオは、一人で走り出した。

 するとカズホが一緒になって走ってきた。

「じゃあ、俺も一緒に走るわ」

「え~! そ、それじゃ、私、歩きます」

「じゃあ、俺も歩く」

「やっぱり走ります」

「じゃあ、俺も走ろう」

 まるで二人で追い掛け合いをしているみたいになって、逆に目立ってしまった。

「さ、佐々木君。私を困らせないでください」

 ナオは、涙目になってカズホに訴えた。

「水嶋。昨日は一緒にCDショップまで行ったのに、学校へ一緒に行くのは駄目なのか?」

「だって、通学路はうちの高校の生徒だらけじゃないですか。佐々木君と一緒に歩いているところを見られたら、私は、女の子達から四面楚歌です」

「そうかなあ。それじゃあさ、本当に四面楚歌になるか、試してみたらどうだ?」

「えっ?」

「前に言ったかも知れないけど、女子と一緒に登下校なんて、俺、何回もやっているぜ」

 ナオは、以前、上級生の女の子がカズホと一緒に登校している場面を思い出した。

「でも、その女子が四面楚歌になっているなんて聞いたことがないぞ。それに、俺と水嶋は同級生なんだから、一緒に登校したって全然おかしくないと思うんだけどな」

「で、でも……」

「これで本当に水嶋が四面楚歌になったんなら、俺が責任を取るよ」

「責任って?」

「水嶋を四面楚歌にしないように説得する。手が出ちゃうかも知れないけどな」

「佐々木君」

「まあ、行ってみようぜ」

「は、はい」

 ナオは、さすがに恥ずかしくて、カズホと言葉を交わすことなく、カズホの斜め三歩後をうつむきながら歩いて行った。学校に着いてからも、教室まで一緒に入った。

 ナオは、同級生の視線が痛かった。席に座ると、カズホがナオの方に振り向いた。

「なっ」

 カズホは、笑顔で言って、すぐ前を向いた。その後は、教室での、いつものカズホだった。

 休憩時間になり、カズホが教室から出て行くと、予想どおり、ミエコとハルカがナオのところにやって来た。

「ナオちゃん。今日はどうしたの?」

「ど、どうしたのって?」

「佐々木君と一緒に登校して来たの?」

「……あの、ハルカちゃん達は、朝、道で佐々木君と会ったら挨拶するよね?」

「挨拶くらいなら」

「そうでしょ。私も、たまたま会ったので挨拶して、そのまま一緒に来ただけだよ」

「まあ、確かに、ただ一緒に歩いて来ただけって感じではあったけど……」

「……そ、そうでしょ」

 二人との会話はそれで終わった。また、その後も、ナオがカズホと一緒に登校して来たことが、クラスで話題になることはなかった。

(私って気にしすぎなのかな? 一緒に登下校する仲って、特別な関係じゃないのかな?)

 カズホは、ナオがクラスの女子全員から四面楚歌にならないことに自信があったみたいだった。

(やっぱり、私の考え方って、ずれているのかな?)

 ずっと、恋することを避けてきたナオは、友達と友達以上との境界線が見えなくなっていたのかも知れなかった。

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