03
ナオとカズホは、駅前のショッピングセンター四階のCDショップに入った。
洋楽ジャズのコーナーは店の奥の方にあり、両面に収納できる棚のそれぞれの面にアーティスト名のあいうえお順にCDが収納されていた。
二人は「し」のところを探したが、ジョージ・ステファンのアルバムは一枚もなかった。
「最新のアルバムじゃないから、どっかに紛れているかも知れないな。俺はこっち側を探してみるから、水嶋は反対側を探してみて」
「はい」
ナオとカズホは、棚の両面のそれぞれに別れて、端から順番に探すことにした。
カズホは、ジョージ・ステファンのアルバムを探しながらも、気になっていたアーティストのCDがあれば、それを手に取って見たりしていた。
一方、ナオは一枚一枚指差し確認をしながらじっくり探しており、結果的に二人の移動速度は同じくらいになっていた。
(無いなあ)
ナオは、端まで見てみたが見当たらなかったことから、棚の端を回って、反対側に行こうとした。すると、カズホも棚の反対側からナオが見ていた面に来ようとしていたようで、二人は、CDの収納棚の端で鉢合わせをしてしまった。
「あっ!」
カズホとぶつかった勢いで、ナオは、後ろに飛ばされそうになったが、咄嗟に、カズホがナオを抱きかかえるようにして、それを防いでくれた。
二人は、思いもよらず抱き合う格好になってしまった。
「……!」
すぐ近くにカズホの顔が見えた。
一瞬、何が起きたのか分からなかったが、カズホに抱かれていることが分かったナオは、慌ててカズホから離れた。恥ずかしくて胸の鼓動が爆発しそうなくらい速まった。ナオは顔を赤くして俯きながら、カズホに謝った。
「ご、ごめんなさい」
「ああ、すまん。大丈夫か?」
「あっ、……はい」
「あ、あのさ、見つかったか?」
「見つかりませんでした」
「そうか。……実は、俺、他のCDとかも見ながら探していたから、見抜かっているかも知れない。もう一回、こっち側を見てみるよ」
「それじゃあ、私も見てみます」
今度は、最初にカズホが見ていた棚の面に向かって左からカズホが、右からナオが、それぞれ中心に向かって探し始めた。棚の中心付近に来た頃、ナオは「す」の場所に入れられていた「アトランティカ」を見つけた。
(あった!)
ナオが、そのCDを取ろうと左手を伸ばした時、左側からカズホの右手が同じCDを取ろうと伸びて来て、そのCDの前でカズホの手の下にナオの手が重なるように触れ合った。
何が起きたのか分からず、二人は、そのままの体勢で固まっていた。しばらくして状況を理解したナオは、びっくりして手を引っ込めた。
「あ、あの、ごめんなさい!」
またまた、ナオは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あ、ああ、すまん」
カズホは、一応、謝りつつも、棚からCDを取り出した。カズホは、そのCDケースをしげしげと眺めて、曲目や参加ミュージシャンを確認していたようだった。
「ふ~ん。さすがに俺も知らないミュージシャンばかりだな。水嶋のお父さんって本当にジャズマニアって感じだよな。……はい」
「ど、どうもありがとう。それじゃあ、ちょっと、レジに行って来ます」
ナオは、カズホから手渡されたCDを持ってレジまで走って行った。
買い物も終わり、二人は駅の改札口までやって来た。カズホがナオを見送ってくれるためについて来てくれたのだ。
「あ、あの、佐々木君。今日は買い物に付き合ってもらって、どうもありがとう」
「いや。俺も久しぶりにCDショップに来れて、色々と新しいCDとか見られたから面白かったよ。こっちこそ、ありがとうな」
「それじゃ、私、電車で帰ります」
「ああ、俺はこれからバイトだよ」
「あ、あの……」
「んっ?」
「バイト、頑張ってくださいね。それと宿題も」
「ああ、そうだったな。せっかく忘れていたのに、嫌なことを思い出させてくれるぜ」
「あっ、いえ、そういうことではなくて……」
「ははは。分かってるって。頑張るよ。じゃあな、明日また」
「明日、……はい。それじゃあ、さよなら」
ナオが改札を入って振り返ると、まだカズホが見送ってくれていた。
ナオは、人から見られるのが恥ずかしくて、胸の前で手首から上だけを小さく振った。
カズホは敬礼のように挨拶をして駅から出て行った。




