02
カズホは、マスターの作った夕食を五分で食べて、ナオと一緒にドールを出た。
「あの、佐々木君。私なんかと一緒に歩いているところを誰かに見られたら、ご迷惑じゃないですか?」
「また、心配しているのか。水嶋みたいな『変な女の子』と俺が付き合っているっていう噂が立つことを。大丈夫だって。女の子と一緒に歩いただけで、その子が俺の彼女になるんだったら、俺には何人も彼女がいることになるけどな」
「そ、そうなんですか。私は、男の子と一緒に歩いたことがないから、よく分かりません」
「そうなのか? それじゃあ、俺が最初に一緒に歩いた男ってこと?」
「は、はい」
顔を真っ赤にして俯きながら、消え入りそうな小さい声でナオは答えた。
「あ、あの、男の人と一緒に歩いている時って、何をすれば良いんですか?」
「別に普通に話をすれば良いけど。それとも水嶋ってあれか、男と一緒に歩く時って、何かお笑い芸の一つでも披露しなきゃって思っているのか?」
「な、なんでお笑い芸をしなきゃいけないんですか~」
「大丈夫だよ。水嶋は、普通に話しているだけで十分お笑い芸になるから」
「そ、それってどういう意味ですか~。そんなに私の言っていることって、おかしいですか?」
「まあ、時々な」
「それじゃあ、おかしなことを言わないように黙っています」
ナオは、ちょっと頬を膨らませて口を結んだ。
ナオが歩き出すと、カズホが声を掛けてきた。
「あのさ、水嶋」
「……」
「ちょっと気になっているんだけどさ」
「……」
「どこに行くつもりか教えてくれないか?」
「えっ?」
「駅と反対側に行っているぞ」
「……もう~! 早く言ってくださいよ~」
通学でいつも駅に歩いているのはナオの方だったのに、カズホと一緒に歩いていたことで舞い上がっていたようだ。
二人はUターンして、今度こそ駅に向かって歩き出した。
「あのさ、水嶋」
「今度はなんですか? ちゃんと駅に向かってますよ」
「今、気付いたんだけどさ。水嶋って、本当にちっちゃいんだな」
「うっ、本人はけっこう気にしているんですから、あまり身長の話はしないでください」
「身長は、どれくらいなんだ?」
「秘密です」
「百五十くらいか?」
「秘密です」
「百四十九か?」
「秘密です」
「百四十八か?」
「ひ、秘密です」
「まさか百四十七?」
「ち、違います! ……あっ」
「あははは。本当に水嶋って分かりやすいよな」
「ふにゃ~。……でも、去年は〇・二センチ伸びたんですから、今年はもっと伸びてやるんですっ!」
「そうか。頑張れよ」
「言われなくても頑張ります!」
「ははは。やっぱり、水嶋は話だけで芸ができるぜ」
「も、もう、人で遊ばないでください~」




