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丘陵のさき 世界の先Ⅱ  作者: 玲於奈
3/9

白いそら

なし

計ったように私の3m先でピタリとその人は止まった。突然


「じゅん、久しぶりこちらの生活はどう?

 まさかと思うけど、ホームシックにかかってないだろうな」


はじめが、優しい猫なで声。

そして、後半がグサリとした命令形。

あいかわらず私の痛いところをついてくる。

話す言葉も日本語で、まごうことなきはっちゃきだ。そうか会いに来てくれたか。

何か違和感を感じながらも安心した。

安堵から思わず前に足が出て、私が近づこうとすると


「来るな」


予想外の怒氣するどい声がとんできた。


「じゅん、あんたはそこからすすんではいけないし、

 そばに来てもいけない」


次の言葉は、小さい子をさとすようにゆっくりおだやかな声ではっちゃきが私に向かって話す。


「ここから先は別の世界。

 あなたはみんなのいる世界にもどらなければならない」


その言葉を聞き、驚くとともに

一瞬にして昨日のことをすべて思い出した。

なんたること。

今日起きた時、真っ先にロッホローモンドを思い出していながら

自分が飛び降りたことは覚えていないとは。

私は死んだのか。

先ほどから感じる違和感はこれだったのか。

そして、その末路のはっちゃきのお迎えか。


瞬時に叫び返す。


「俺もここに未練はない」


「おまえと一緒に行く」


ゆっくりとかみしめるように、はっちゃきに届くように叫ぶ。


そう言っておきながら

文豪によくある心中話。なんと自分勝手。

ひどい自分になりさがった。

自分にあきれていれば、


「こないで」


ヒステリックにはっちゃきが叫び

なんども叫びながら、その場に頭を抱えてはっちゃきがうずくまる。

狂ったようになおもはっちゃきが叫ぶ。


「あなたまで巻き添えにしたくない。

 私の分まで、あなたの夢をかなえて生きて」


そのあまりにも痛々しい姿を見て、オリエンテーション合宿で森で捻挫して

ハグした姿を唐突に思い出した。

やはり、自己満足でなく、はっちゃきには、私が必要なのだ。

あの時のように優しく包んであげなくては。

何かに取り憑かれたようにハグしようとゆっくり一歩ずつ

はっちゃきに近づく。


取り憑かれたようにすすむ私。

そして、何かわからないが、はっちゃきの赤いシュシュから何かが流れる。

はっちゃきの着ているTシャツがにじんでいく。

そしてはっちゃきに近づくたびに軽くなる私。


足の痛みを感じなくなった。見れば履いている靴から透明になっていく。

それでもはっちゃきを助けたくて近づく。

やはり、にじんでいるのは血であった。顔にはやけどの跡。


「見ないで」


狂ったようにはっちゃきが叫ぶ。

なおも近づいてハグしようとした刹那、すごい力で両手で突き飛ばされた。

投げ飛ばされた。

そんな表現がふさわしいくらいきれいに何メートルもはじかれた。

体が動かない。

私が動けずに、黒いアスファルトの道に横たわっていると

きれいな歌声がふりそそいで聞こえてくる。

寝ころんで動けない私の遙か頭上を白い衣装を着たはっちゃきが

天に昇っていく。

小さくなっていく姿は、のぼるごとに光輝いている

何も言わず、私を振り返ることもない。


最期に「ありがとう」

そう言いたかった。

あふれてくる涙をそのままに、最後まではっちゃきを見送った。


白い空にすいこまれていくように、はちゃきは消えていった。






なし

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