郵便局に届いた自分宛ての手紙
毎日毎日、どれほど風が冷たくとも、どれほど足が痛もうとも、アリスは鞄を抱えて街中を走り回っていた。
だが、秋が深まるにつれ、彼女の胸には小さな不安の影が落ちるようになっていた。
(私は……本当に一人前の郵便屋になれているのかな。手紙に込められた大切な想いを、壊さずにちゃんと届けられているのだろうか)
自分の足の裏には大きなマメができ、革靴の爪先はすっかり擦り減っていた。
失敗をして局長に励まされるたび、「自分はまだ半人前だ」という焦りがアリスの心を苛んでいたのだ。
ある夕暮れ時、疲れ切った足取りで山頂の夕焼け郵便局へと戻ってきたアリスは、自分の作業机の上を見て目を見張った。
そこに、一通の手紙が置かれていたのだ。
夕解けの空を思わせる、濃い橙色の手漉き紙。切手の位置には、見慣れた小さなカエデの押し花。
そして宛名欄には、はっきりとこう記されていた。
「夕焼け郵便局の、見習い郵便屋アリスへ」
「私に……? でも、どうして……?」
アリスは息をのみ、震える指先でそっと封を切った。
中から溢れ出てきたのは、何枚もの小さな羊皮紙や便箋の切れ端だった。
そこに書かれていたのは、これまでアリスが手紙を届けてきた街の人々の筆跡だった。
『いつも笑顔で、一生懸命に走ってきてくれてありがとう。あなたの届けてくれた栗の味は最高でした。マサより』
『きみが届けてくれた手紙のおかげで、僕はもう一度パンを焼く勇気をもらえました。本当にありがとう。ショーンより』
『僕たち、喧嘩をやめて仲直りしたよ! お手紙を届けてくれてありがとう! レオンとティノより』
『小さき郵便屋さん。あなたの真っ直ぐな瞳に救われました』
そして最後の一枚には、使い古された万年筆で書かれた、力強く温かい老局長の文字があった。
『想いを運ぶ者は、自分自身もまた、無数の愛と感謝に包まれていることを忘れてはならない。アリス、君はこの街になくてはならない、最高の郵便屋さんだよ。いつも頑張ってくれて、ありがとう』
「みんな……局長さん……」
アリスの瞳から大きな涙の粒がポロポロと零れ落ち、便箋の上に小さな染みを作った。
自分が届けていたと思っていた「ありがとう」は、巡り巡って、最初から自分自身の手元にも届いていたのだ。
擦り切れた革鞄の重みが、今は何よりも温かく、輝かしい誇りとして彼女の肩に伝わっていた。
窓の外では、夕日に照らされた山々が、燃えるような美しさでアリスを祝福するように輝いていた。




