鉄の挽歌(ばんか)
私は、その地方都市の無機質な風景の中にいた。
視界を埋め尽くすのは、作り捨てられた鉄の山だ。数年ごとに繰り返される「再開発」の果てに、誰もいない高層ビルと、稼働しないプラントが、巨大な墓標のように立ち並んでいる。
不意に、地平線の彼方から地鳴りが響いてきた。それは、数千、数万という人間の喉が同時に震える音――巨大な合唱団の行進だった。
彼らは、極彩色の布を纏い、鉄の廃墟の間を縫うように進んでくる。
日本の「ちんどん屋」を巨大化させたような、異様な、けれど圧倒的な生命力の奔流。
彼らが、私の目の前にある巨大なモニュメントを包囲した瞬間、指揮者が杖を振り上げた。
空気が凍り、一瞬の静寂のあと、世界が「唸り」始めた。
「アーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
それは歌ではなかった。数万人の肺から絞り出された、ただ一つの巨大な母音。
空気が目に見えるほどに歪み、重厚なハーモニーとなって、鉄骨を、コンクリートを、直接揺さぶる。
「Kwenzakalani lapha!(ここで何が起きているのか!)」
唸りの中に、鋭い言葉が突き刺さる。
「Izinsimbi ezifileyo, nibulala ikusasa!(死んだ鉄ども、お前たちが未来を殺している!)」
「Narsii... Sizothatha umhlaba wethu!(我らは我らの大地を取り戻す!)」
その宣言とともに、合唱はさらなる深淵へと潜っていく。
「オーーーーー、ウーーーーー……。」という地を這うバスの唸りが、コンクリートの基礎を内側から爆破するように震わせた。
信じがたい光景だった。
声の「共鳴」によって、真新しいはずの鉄の塊が、チリチリと音を立てて崩れ始めたのだ。ぴかぴかだったステンレスは赤錆に覆われ、最新のビルは数十年放置された廃墟のように一瞬で色あせ、崩落していく。
大合唱団が通り過ぎるたび、現代の「嘘」が剥がれ落ち、景色がセピア色の過去へと強制的に変換されていった。
私は、最後尾を行く、深い闇を宿した瞳の少女を呼び止めた。
「君たちは、何を壊しているんだ?」
少女は合唱の波に身を委ね、喉を震わせたまま無機質に答えた。
「Lokhu akukho.(これは、存在していないのよ。鉄を積み上げれば未来が買えると信じる、あなたたちの病。私たちはそれを、本来の『無』へと還しているだけ)」
彼女が再び口を開き、魂の底から「ア……」と呻きを漏らした瞬間、私の足元のアスファルトは砂へと還った。
大合唱団は、街を一つ、まるごと「色あせた過去」に変えて、次の獲物へと向かっていく。
遠ざかる彼らの背中を見送りながら、私は自分の手を見た。指先もまた、あの暴力的なハーモニーにさらされ、ひび割れたセピア色へと変質し始めていた。
「現代とは、滑稽な時代だ。これほどの大合唱に、自分たちが作ったものが耐えられないなんて」
私の声は、地平線を揺らす「アーーーーーー」という巨大な、魂の唸りにかき消された。
あとに残ったのは、文明という名の鉄がすべて塵となった、静かな、あまりにも静かな荒野だけだった。




