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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第100話 アレックスvsガノアラクス(1)

 【 ガノアラクスの討伐 】 【Aランク】


 ―アレックス視点―


 イクアドスの北には『アルナール丘』という高低差のある丘が存在する。

 のどかな場所がある一方で、落ちたらひとたまりも無い崖が存在している場所である。その為、アルナール丘には翼を持ったモンスターが多く存在するのだが、今回の俺の標的は違う。


 (………居た。)


 俺の視線の先には、茶色い体毛を生やした巨体がモゾモゾと動いている。

 そのモンスターの姿は、四足歩行の動物とトカゲが混ざった様な姿をしており、トカゲの様な頭もしているのだが、よく見るトカゲと違って全身に体毛が生えていた。


 大型モンスターにはこういった形のモンスターが多く、一説には古代龍種の近縁種なのではないかと言われている。

 確かに今、目の前にいるモンスターに翼が生えていたら、昔見せて貰った絵本の龍種の姿にそっくりになるだろう。……いや、ちょっと違うか?


 そんな目の前にいるモンスターの名前は「ガノアラクス」。


 クエストに行く前に集めた情報によると、あの茶色の体毛が針の様に鋭く、その針を飛ばしながら戦闘をしてくるらしい。

 この丘にいる鳥類には、飛んでいたとしてもその針を飛ばして針だらけにされ、地上を歩いているモンスターにはその鋭い爪を持つ前足で真っ二つにする。

 加えて、その鋭い爪はこの丘の絶壁をよじ登る事も出来るそうで、ガノアラクスに翼が無かろうが、腹が減ったら空を飛んでいるモンスターを壁沿いに追って針を飛ばし、墜落させるやり方でこの丘の強者として生きているそうだ。


 目の前のガノアラクスは、丁度そのやり方で狩りを終えた後なのだろう。

 俺に背を向けてブチブチッという音を立てながらモンスターを食べていた。


 (先手必勝。まずは一発良いのを当てて有利に進める……!)


 そう判断し、身を隠してした所から一気に走り出す。

 盾を持っているとは思えないくらいの身軽な走りで距離を詰め、一気に首でも落としてやろうと剣を振り下ろす。


 「――らぁ!!!」


 しかし、俺の足音に気付いたガノアラクスはこちらに顔を向けた後、瞬時に獲物から口を離して俺の攻撃を避けたのだった。


 「なっ――!」


 俺はそれが意外すぎて驚く。

 Bランクのモンスターは、俺のスピードに追い付く事は無かった。

 その理由は図体が大きくなってスピードが落ちているからだと思っていた。

 だからAランクレベルの大型になれば、ますますスピードが落ちて俺の方が有利に戦闘を進められると考えていたのに―――。


 「ゴガァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 ガノアラクスは、食事を邪魔してきた俺に鋭い眼光を向けて咆哮する。

 さっきまでなだらかだった毛並みは逆立ち、針のような体毛が一つ一つ光を反射しているのが強く印象に残る。

 そして何よりデカい。

 これまで戦ってきたモンスター達の全長は20メートルを超える事は無かった。

 しかし、目の前にいるガノアラクスは間違いなく20メートルを超える体格をしている。

 一口で丸呑みにされてしまいそうな巨大な口に、短剣の様な巨大な爪を携えている。そんな生物がこちらに向かって殺気を込めて佇んでいた。


 「へっ、これがAランク……!」


 これまでに感じた事のない圧に冷や汗が流れる。

 俺の初撃を避けた事もあり、俺の中の警戒心はMAXにまで跳ね上がる。


 「ゴァッ!!!」


 ガノアラクスは太い後ろ足で地面を蹴り、その巨体を一気に俺の前まで移動する。右腕を振り上げ、3枚の短剣かの様な爪を俺に振り下ろす。


 そのスピードはやはり凄い物で、さっき見ていなかったら驚いて硬直していただろう。

 しかし、そのスピードを一度見た俺は、ガノアラクスが右腕を振り上げた時点で行動の予測も出来ていたので難なく後ろに避ける。

 盾で防がなかった理由は、どれくらいの威力か分からないという事とガノアラクスの攻撃パターンを知っておきたかったから。


 「ゴァ、ゴァ、ゴァッ!!!」


 それから、後ろに避けた俺を逃さないとばかりに器用に追いながら3連撃を繰り出す。しかし、観察と守りに入った俺に攻撃を当てる事は出来ず、その3連撃も空振りに終わる。


 目の前で巨大な腕が通過していく。


 風切り音を立てて地面を殴り、着弾した地面は鋭利な爪によって抉られ、すぐ近くにいた俺の足元は衝撃で揺れる。

 一発一発が致命傷になるだろう攻撃が目の前で通過する。

 そこに関して恐怖はない。

 しかし、まだ慣れ切っていない状況でこの距離は不味いと判断し、多めに距離を離して回避をする。


 「グルグルッ……。」


 俺をすぐに仕留められると思っていたのか、ガノアラクスは悔しそうに短く喉を鳴らしてこちらを睨む。


 (スピードは大体わかった。速いとは思ったけど、着いて行けないレベルじゃない。後は攻撃パターンだ、針を使った攻撃をしてくるって話だったし、1回はその攻撃を見ておきたい―――)


 そんな事を考えながら盾を構えていると、ガノアラクスはその場で尻尾をブンブンと振り始める。


 (――なんだ? 尻尾を叩き付けて来る系か?)


 「テールサーペント」や「クラブリス」の様に尻尾で攻撃してくる生き物は多い。

 ガノアラクスの針のような体毛が逆だっているので、テールサーペントとは違い、棘のある棍棒を振り回す感じになるだろう。


 しかし俺の予想とは違い、ガノアラクスはその場で振っていた尻尾を俺に向けて振り下ろす。

 俺とガノアラクスの距離は結構離れているので、ガノアラクスの尻尾は届かないというのに、ガノアラクスはお構いなしにそんな行動に出る。

 一瞬「あれっ」と思ったのも束の間―――


 「――うおっ!!!」


 視界全体が、キラキラと光を反射して光る。

 「幻想的な光景だなぁ」なんて事を考えている暇はない。

 なぜなら、ガノアラクスの尻尾に付いていた体毛が自身の身体から離れ、遠心力で加速した無数の針が、俺目掛けて飛んで来たからだ。


 (はっや―――)

 「―――いぃ!?」


 避けて安心するにはまだ速い。

 左に飛んで逃げた俺を見ていたガノアラクスは、その動体視力で俺の移動先を冷静に観察する。そして俺の移動先をしっかりと確認した瞬間、ガノアラクスは地面を蹴り、今度は左腕を振り下ろす。


 避けた先にガノアラクスが目の前に登場する。

 ……避け切れないと判断した俺は盾を構える。


 ―――ボッ!


 その太い腕で空間を切り裂き、振り下ろされた剛腕から目を離さない。

 軌道を読み、そこに割り込む感じで盾を構える。

 爪と盾が接触する瞬間に盾の曲線を使って滑らせ、最小限の衝撃で攻撃を流す。


 ―――ガァンッ……!!


 いつもと違う音、いつもと違う衝撃が俺の左腕から発せられる。

 俺の体と左腕が衝撃に耐えられず、後ろに仰け反る。


 (―――ッ!?)


 状況が整理できない俺に、ガノアラクスは隙を与えないとばかりに最初の時のように続けて連撃を加える。


 1発目。


 「―――くッ……!」


 左爪を振り下ろしたガノアラクスは、今度は右爪を俺に振り下ろした。

 初撃の衝撃を上手く流す事が出来なかった俺の体は、万全の状態で受ける事が出来ず、水猿流の型などでは無い、単純に盾を構えながらギリギリで攻撃を躱す。


 2発目。


 「―――だッ……!!」


 今度は何とか体勢を立て直して追撃を盾で流そうとするが、やはり衝撃を上手く流す事が出来ず、さっきよりも大きく仰け反る事になる。


 3発目。


 「ガハッ……!」


 仰け反った体に追撃を加えられ、地面に倒れ込もうとしていた俺の体をその太い左腕で地面に叩き付ける。

 何とか盾を構える事は出来たが、水猿流の得意技である攻撃を流す事は出来ず、衝撃を吸収する事も出来ないまま地面に激突し、地面にめり込む。


 武気があるとは言え、Aランクのモンスターの攻撃は凄まじい。

 今まで経験した事の無いダメージで、俺の体が硬直する。


 そんな俺に、ガノアラクスは休みなど与えてはくれ無い。

 ガノアラクスは、続けて無慈悲な4発目を放つ。


 「…ッ! ――らぁ!!」


 ダメージが抜け切れていない体を無理やり起こし、ガノアラクスの攻撃が届く前にギリギリで攻撃を避ける。その避け方は、なりふり構っていられない避け方をしており、他人が見たら心配になるような避け方だっただろう。


 「ハァ、ハァ、ぐッ……!」


 そこから全力で足を動かして、何とかガノアラクスから離れる。

 ガノアラクスから距離を離したは良いが、全身を押し潰されて体が痛い。

 たった一発でどこかの骨にヒビが入ったようで、上半身、主に脇らへんにズキズキと継続して痛みが走る。

 いつもだったら、こういう時にバティルとレイナがスイッチして態勢を立て直してくれるのだが、ここにいるのは俺1人だ。


 一息入れたいが、そんな事が出来るはずもなく―――


 ――ブンッ!


 予測した通り、ガノアラクスは尻尾を振って針を飛ばしてくる。


 「クソッ!」


 盾で受ける事はせず、今度は右に飛んで針を避ける。

 無数の針が風を切る音を後ろで聞きながら、状況を把握する為に前方を見ると、ガノアラクスが既に右腕を振り上げている。


 「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ―――…………」


 緊迫する状況。

 だからこそ、水猿流は力を抜かなければいけない。

 力の流れを読み、適切に対処できれば、どんな攻撃も当たることはない。


 ガノアラクスの右腕は、俺に向かって一直線に向かってくる。

 さっきのダメージがフラッシュバックし、固くなる筋肉を無理やり緩める。


 ――ヌルッ。


 ガノアラクスの右手が盾を滑っていく感覚の直後、俺の右側でガノアラクスの右手が地面に着弾し、爆発音かの様な轟音が響く。


 「しゃあ!!!」


 しかし、そんな轟音にビビる気持ちはさっぱりと消え、ガノアラクスの攻撃の感覚を掴んだ俺は声を張り上げる。


 「らぁ!!!!」


 続けて、目の前に置かれた右肩に向かって、今度は俺が剣を振り下ろす。


 ――ギンッ……!


 振り下ろした剣はちゃんとガノアラクスに当たった。

 当たったのだが……ガノアラクスの皮膚を覆った針のような体毛は、俺の渾身の一撃でも切り裂く事が出来ず、火花を散らして受け止め切った。


 (硬ッ……!!)


 光明が見えた直後の絶望。

 ガノアラクスの攻撃を流せたとしても、俺の攻撃もまた、ガノアラクスには通らない。


 「ゴガァ!!!」


 絶望感に浸る時間などは無く、ガノアラクスが今度は左腕を振り下ろす。

 俺はその攻撃を盾では受けず、バックステップで避ける。


 (なんて硬さだよ。……でもまあ、そりゃあAランクだもんな。)


 正直「なんだよその硬さ」という理不尽さを感じなくもない。

 でもこれがAランクであり、これが大型モンスターなんだと言われれば、納得する自分もいる。


 ビエッツ村の人達もエルザとソフィア、そしてこれは元だけど村長以外は皆Bランクで止まっている。

 その中でAランクになる為に大型に挑戦した人達は何人もいたが、悉くが失敗し、死んだものもいるらしい。

 そして失敗した者達は全員がこう言っていた。

 「大型はレベルが違う。」

 生物として物が違っており、人間サイズの俺達が戦って良い相手ではないと皆が言っていたのを思い出す。


 その時それを聞いた俺は「そんな訳無いだろ」と思っていた。

 Aランクのハンターは確かに少ないが、戦って良い相手ではないと言わせるほどのレベル差があったら、そもそもSランクなんて存在出来ないだろと思っていた。


 しかし、彼らの言いたい事は今なら理解できる。


 それでも―――


 「ゴガァァァァ!!」


 バックステップで距離を離した俺だったが、この距離はガノアラクス的には針を飛ばす距離では無かったらしい。

 予想とは裏腹に、ガノアラクスは後ろ足で地面を蹴って再び距離を詰め、俺に襲い掛かる。


 ―――ヌルッ。


 しかし、そんな素直な攻撃はもう当たらない。

 ガノアラクスの攻撃を流した俺は、さっきとは違い、今度は盾を持つ左腕に力を込める。


 斬撃が通らなくても、俺には打撃がある。


 ガノアラクスの攻撃を流した左腕を胸元まで持っていく。

 脇を締め、地面に吸い付くように足を広げる。

 ガノアラクスは攻撃を流されて体勢を崩している。

 確実に攻撃が当たる状況。


 水猿流『剛の型 守護の拳(しゅごのけん)


 溜め込むように曲げていた左腕が放出される。

 急速加速によって、そこにあった空気は一気に押され「ボンッ!」と破裂音の様な音を立て、ガノアラクスの肩に着弾する。


 ―――ドンッ!!!!


 この戦闘で一番の轟音。


 衝撃はガノアラクスの体を貫き、鋼鉄の針に覆われた体を吹き飛ばす。

 20メートルは超えているであろう巨体が宙を飛び、近くの壁に激突する。


 「それでも俺が勝つ!!!」


 砂埃が舞う壁に向かって、俺はそう宣言した。

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