第99話 仲間との対話
朝のアレックスvsジョンのイベントが終わり、時間はあっと言う間に過ぎて夜になる。
日中は、エルザとソフィアが俺達に適した大型モンスターの選別をするために集会所に向かい、俺達はエレノアの子供達と遊んだり、再び観光なんかをして時間を過ごした。
それから夕食も食べ終え、浴室で体を拭いてベッドに横たわる。
アレックスの事、大型モンスターとの戦闘の事。
その2つを考えていると、すぐには寝付けなかった。
「う〜ん。」
体を起こし、窓の外を見る。
窓からは月明かりが差し込み、揺れ動く事のない窓を見て風がそこまで強くないと予測する。
「ちょっと歩くか。」
思い立ったら吉日という事で、寝間着から着替えて夜の散歩に出掛けようと部屋を出る。
「……あっ。」
部屋から出た所で、レイナと鉢合わせする。
何故かレイナも寝巻き姿を着ておらず、ラフな普段着を着て扉から出て来た。
「バティル君、どうしたの?」
「いや〜、色々考えちゃって寝付けなかったから、ちょっと散歩でもしようかなって……。」
「えっ、私も同じ事考えてたよ…!」
「マジか。……じゃあ一緒に散歩しようか。」
「えっ……!!!!」
何気なく誘ってみたのだが、レイナの反応は俺が思ってたより大きい反応だった。
「あ、ごめん、嫌だった……?」
「いやいやいやいやいやいやいや……! 全ッ然、嫌じゃない……!!!」
レイナはポニーテールをブンブンと横に振って過剰に答える。
その顔は何故か赤く染まっており、そして何故か視線を合わせてくれない。
「そ、そうか。……じゃあ行こっか。」
「う、うん………///」
何故か上ずった声での返事に戸惑いつつも、2人で階段を降りて玄関を開く。
―――ブンッ…!
玄関の扉を開いて、真っ先に視界に入る人物がそこには居た。
「アレックス…!」
もう寝る時間だと言うのに、全身汗だくになったアレックスがそこに居た。
「おいおい、こんな時間までやって大丈夫なのかよ。まだいつクエストやるかは分かんないけど、疲れが残ってたらヤバいだろ。」
なんと言っても、今度俺達がやるのは大型モンスターとの戦闘である。
初めての大型、それに加えて1人でやると言うのだ。
下手をしたら死んでしまうかも知れない戦闘。
そんな戦いをするのだから、なるべく疲労を残さず万全の状態でいた方が良いだろう。
「…………大丈夫だ。」
そんな俺の問いに対してアレックスはテンション低く答える。
いつもテンションの高いアレックスが、こうしてテンションが低いとどうもやり辛い。
そのうちいつものアレックスが戻って来るだろうと踏んで、あまり踏み込まないようにしていたが、流石に話し合った方が良いだろう。
「なあアレックス。休憩がてら、ちょっと話そうぜ。」
「……いや、別に話すことなんて―――」
「――話そッ! 一緒に話そうよ!」
目を背けて拒絶するアレックスに、レイナは前に出てアレックスの手を握る。それからレイナは手を引っ張り、俺の前にアレックスを送り届ける。
本気で拒絶すれば、レイナが手を引っ張ってもビクともしないだろうが、動いたという事は、そこまでの拒絶ではないのだ。
であれば、話はできる。
俺達はそれぞれが地面に座り、夜空を眺める。
「懐かしいな。前もこんな感じで夜空を見た事あるよな。」
「そうだね。……確か、私が初めてのクエストを失敗した時だよね。」
「あの時の凹みようは凄かったな〜。」
「うぅ……。思い出したらなんか恥ずかしい……。」
レイナは顔を赤くして顔を隠す。
「はははっ、いやでも、今じゃ勇敢に前に出る魔法使いじゃん。ちょっと前の話だけどさ、「私が時間を稼ぐ!」って言って1人で注意を引いた時は凄い頼もしかったよ!」
「えぇ〜本当に?」
「いや本当にさ、あの戦いは3人で交互にスイッチング出来るのが証明された戦いだったし、レイナが時間を稼いでくれるのは凄い助かるよ。」
「うふふ、そうかな〜。」
レイナはべた褒めされた事が嬉しかったのか、顔を赤くしたまま今度はニヤニヤと笑顔になる。
「――あの時は凄い助かったよな!」
「―――ん、ああそうだな……。」
左に座っていたアレックスに話題を振るが、返って来たのは生返事だった。
「………………。」
「………………。」
こういう時のアレックスは「そうだな! いや〜あの時は―――」といった感で乗ってくれるのだが、暗い顔をしたアレックスはそのまま黙りこくってしまう。
「どうかと思って触れてなかったけど、アレックスが人に対してあんなに強く当たるなんて思わなかったな! お前、クソ兄貴とか言うんだな!」
アレックスを話に引きずり込もうと、話題を振ってみる。
俺がずっと気になっていた事で、意外に思ってた事だ。
「いやッ、ああいうのは……兄貴だけだからッ……!」
話題を振ってみた所、意外と良い反応が帰って来た。
まあ、何となく気持ちは分かる。
家族のコミュニケーションって、家族じゃない人の前でやると恥ずかしいよな。俺は大昔にそれを経験したから分かるぞ。……家族は蒸発したけど。
「ハワード家の直系って話だったし、アレックス君って凄い人なんだね。」
レイナもアレックスの新情報についての感想会に参加する。
ずっと触れまいと黙っていたが、やはりレイナも気にはなっていた様だ。
「いや、別に凄くは…――」
「坊っちゃんとか言われてただろ!」
「あれは、勝手に言ってるだけで……―――」
「好きだった肉を大量に用意するとか言ってたぞ!!」
「あれは、そんなに頻繁に食ってた訳じゃ……―――」
「良い暮らしして来たんだろ! この野郎っ!!!」
俺は、そのまま左にいたアレックスの頭にヘッドロックをする。
アレックスは俺のその行動に「何なんだよぉ!」と悲鳴を上げ、レイナはそんな俺達のやり取りに笑って見守る。
暫くその状態でジタバタした後、もうそろそろ良いだろうと判断してアレックスから手を離す。髪に付いた砂を払うアレックスの顔は、初めの頃より少し良くなっている様に見える。。
「まあ、家族の間で何があったのかは分かんないけどさ、「帰って来い」って言われたり「心配してた」って言われてるのを傍から見たら、愛されてんだなって俺は思ったけどな。」
「……………………。」
家族の事に少し触れた後、唐突だが俺がずっと思っていた事をアレックスに投げかけてみる。さっきまで「何なんだよ……」とボヤいていたアレックスは、そんな俺の言葉に再び考え込む顔になる。
「そりゃあ色々言われて、プライドを傷付けられたって話なんだろうけど、家族と喧嘩したままっていうのは、なんて言うかな………友達として、ちょっと悲しいよ。」
黙るアレックスに、続けて心情を伝える。
俺自身、この世界で母親が出来てから家族について考える様になっていた。
前世で俺を捨てた母親に、憎悪した事は何度もある。
前までの俺は、母親の顔は見たくもないし、声も聞きたくないと思っていた。
なんなら何処かで野垂れ死んでいて欲しいとすら思っていたにも関わらず、今では純粋に親子として話がしたいと思える様になっていた。
もう会えないだろうが、あの母親と話がしてみたい。
この世界に転生し、こうしてエルザと家族として生きていく内に、前世の母親に対する憎しみは薄まっていた。この気持ちの変化は何なんだろうと考えてみたが、今だに答えは分かっておらず、形にはなっていない。
だけど、やっぱり家族である以上は、仲良くして欲しいと勝手ながら思ってしまう。
「………分からないんだ。」
沈黙していたアレックスは俺の気持ちが伝わったのか、ポツリと口を開いてくれる。
「俺自身も、これが何なのかわからないんだ。でも、これが無くなると、なんか大事なものが無くなっていく様な気がして怖いんだ。」
アレックスは顔を落としたまま、俺達に心情を吐露する。
俺は黙ったまま、アレックスが言葉を続けるのを待つ。
「俺は兄貴を超えるハンターになる。だから、こんな所で躓いてる場合じゃないんだ。」
「兄貴を超える」その単語はここに来る以前から聞いていた事だ。
……でも、俺はその言葉がしっくりと来ない。
「超えるのが目標なのか?」
「そうだ。兄貴を超えて、俺の方が才能があるって証明してやるんだ。」
アレックスにしては、随分と固執している様に見える。
俺の知っているアレックスは、もっと能天気に生きている奴なんだが、それだけ嫌な思いをしたという事なのだろうか。
「……じゃあ、アレックスは才能を証明する為にハンターをしてるのか?」
「…………………そうだ。」
「……。」
……違う。
違うはずだ。
でも、視野が狭くなっている人に対して、否定するような言葉は控えるべきだろう。
「なあ、アレックス。才能って言うのは、本当に大事な事なのか?」
「……。」
「お前はもっと、シンプルな奴だったはずだろ。」
アレックスはムッとした顔になり、俺の方へ視線を動かす。
「何だよ、馬鹿って言いたのか?」
「違う違う! ……何ていうか、そんな事を一々考える奴じゃ無いと思うんだよ。もっとこう、スカッとしている奴だろ、お前は!」
多分、俺が俺の答えを言っても、今のアレックスは否定するだろう。
だから、これはアレックスに気付いて貰うしか無い。
なので俺なりに伝えてみたつもりだったが、当のアレックス自身はピンと来ていない様子だった。
「私達は、アレックス君の才能だけを見て一緒にいる訳じゃないよ。……とりあえず、それだけは覚えてて欲しいかな。」
それを聞いたアレックスは、俯いたまま頷いた。
それから何とか話を続けたが、やはりこの時間でアレックスの考えを変える事が出来ず、そのまま解散となってしまった。




