墓標の前で②
「なぜです?」
ジオルグは静かにジルヴォルへと問いかける。だがジオルグの声にはややジルヴォルを責めるような響きがある。
(なぜ俺はジルヴォル王を責めている?)
ジオルグは自分の感情に対して不思議であった。理性ではジルヴォルという危険極まる男が王でなくなるというのはガルヴェイトにとって都合が良いはずなのに、ジオルグは妙にそれが気に食わないのである。
「卿から見てユアンは王たる器ではないのか?」
「……」
ジルヴォルの問いかけにジオルグは答えに窮した。ユアンのソシュアに対する態度から、自分の行動がどのような影響を与えるかをきちんと理解しているように思える。これは権力を扱うものが持たねばならない恐れであるとジオルグは思っている。
だが、それを素直に告げることは得策ではないとこの時ジオルグは感じていたのである。
「返答を避ける……懸命な判断だ」
ジルヴォルは楽しそうに言う。その反応にジオルグは自分の考えが正しかったことを察した。
「ユアンは高潔な人格を有している。大部分のレクリヤーク城の者達を処刑しなかった。もちろん、それだけではない。きちんと工作をおこなって中央貴族共の残党の評判をきちんと落としている」
「……」
ジオルグは返答しないがジルヴォルは構わず話を進めていく。
「ユアンは守り育てることに関して言えば私などより遥かに王に相応しい」
「自分は王に相応しくないと思われているのですか?」
「ああ、もちろんだ」
ジオルグの問いかけにジルヴォルは即座に返答する。
「それは……殺しすぎたからですか?」
ジオルグの言葉にジルヴォルは全く不愉快な様子を見せない。それはジオルグの言葉に忌避感が一切感じられなかったからであろう。
「それはある。だが、それは理由の本筋ではない」
「本筋……と言うことは他に理由があるのですね?」
「私は報復に対しては皆を率いることができる。報復とは破壊行為に他ならない。私は困難を皆と克服することに関してはできる。多少自惚れても良いのならば他の者達よりも上手くできる」
ジルヴォルの言葉にジオルグは頷かざるを得ない。実際にジルヴォルはギルドルク王国内の一勢力でしかなかったザーベイル辺境伯領を率いて、勢力のはるかに勝る王家と中央貴族達を完全撃破したのである。しかもギルドルク動乱が起こってまだ一年経っていないのである。
「だが、私は他の皆と喜びを分かち合うことはできないのだよ」
「喜び……?」
「ああ、私にはフェリアが殺されてから心から笑ったことはない。 私は困難に皆と立ち向かうことはできても、皆と喜びを分かち合うことができないのだよ。そんな私が国を率いればどこかで歪みが生まれ、それは国を崩壊させるきっかけになりかねない」
「……」
ジルヴォルの言葉にジオルグは返答することはできない。ジルヴォルの言葉には空虚な響きは一切ない。いや、真逆で強い力を発している。そして、この強い力は自分と同種のものであることを察したのだ。
(ああ、そうか……妙に気に食わなかったのはこれか)
ジオルグはユアンに王位を譲ることは舞台から去ることを残念に思っていたのだ。ジオルグにとってジルヴォルは単なる敵などではなく、自分の人生の最高の敵対者であり、理解者となり得るかもしれない存在なのだ。
「王弟殿下にソシュア嬢を娶らせたのはザーベイルがギルドルクを支配することの正当性を得たというのはザーベイルのためというわけですか」
「そういうことだ。私がソシュアの家族を殺したからな。私に憎しみが集中すればそれだけでユアンには憎悪が向かない」
「王弟殿下には甘いことですな」
「これから苦労を背負い込ませることになっている。それくらいは引き受けねばな」
ジルヴォルはそう言ってニヤリと笑う。その表情には自分の決断に一切迷いのない者の表情である。
「さて、ここからが本題だ」
「本題?」
「ああ、この場に卿を連れてきたのは今の話をするためではない。この話であればここに連れてくる必要はない」
ジルヴォルの言葉にジオルグはチラリとフェリアの墓標が目に入った。




